87 紅茶の香り(2)
屋敷からほどよく離れた原っぱに、そのお茶会は仕立てられていた。
屋敷から運ぶのは大変だっただろうに、大きな丸いテーブルに、椅子が5脚。
その上に、所狭しとお茶やお菓子が乗っている。
もしかしたらここでヴァルに会えるのかと思ったけれど、そういうわけでもないらしい。
どうしたのかと思っていると、母がルチアを連れてやってきた。
「お母様」
母が、返事をする代わりに笑顔をよこす。
「ほら、みんな座って」
エマとチュチュが椅子に座ると、マリアとルチアも促され、椅子に座った。
ティーポットがそれぞれの手に回っていく。
「子爵はジークヴァルト様を連れて、出掛けてしまったわ。残された者同士、交流を深めようじゃない」
「え!?」
エマが驚きの表情を見せた。
母が、意味ありげにエマに視線を投げる。
「何かを感じ取ったみたいねぇ……。そもそも伯爵のご子息がこんなところまで馬車を転がしてくること自体、ちょっと怪しいのよ」
「何かって……何……」
まさか、ね。
けど、そういう関係であることを勘付かれたのなら、なかなかに気まずい。
まさか。
自分で自分の予想を打ち消すように、頭の中で自分の考えを否定する。
けれど、そんな希望も儚いものだった。
「あなた、あの男の子のこと好きでしょう」
「…………え、えっと、…………はい」
「うわぁ〜お」
我が母は何故こんな辱めるような物言いをするのか。
泣きたい。
そこで、マリアとチュチュが意味ありげにニヤついたのを、母が見逃すはずがなく。
結局そこから、エマの恋バナで盛り上がった。
「そ、そんなわけで……、それ以上は何も……」
母がニヤつく。
「それはそれは〜、子爵様がお怒りになるわねぇ」
「そ、そんな関係では……ないもの……。恋人ではあるけれど……」
「結婚の予定はなくても、子爵様にこき使われるんじゃない?」
「連れていかれちゃったみたいだもんね。バレちゃったなら仕方ないね〜」
そう気楽に言ったチュチュに、母が視線を向けた。
「チュチュリエ様」
「……チュチュで結構です」
「チュチュ。……あなたは、どうなのかしら。つまり……、恋愛に関して」
「え」
チュチュの表情が、一瞬にして固まった。
うちの母は、なんて話をするためにここに呼んだの……。
「アタシ……は、好きな人……なんて……」
笑い声は笑い声にならず、チュチュの顔が次第に歪んでいく。
「だって…………。なんでもな…………っ」
チュチュがぼろぼろと泣き出すと、みんなが慌ててハンカチを取り出した。
母もハンカチで慰める素振りをしたけれど、その表情はわかりやすく面白がっていた。
「何にもなかった……から……っ。恋愛だなんて言ったら……先生に悪……い…………うっ……ひっ……」
母はけっこうずけずけなタイプ。サナ・クレスト。30代。




