78 ぼくがそばに居るよ
「な、な、な、なん…………」
チュチュが慌ててメンテの顔を見た。
頭の中で、現状を確認する。
メンテが……、アタシの……、ほ……ほっぺに…………。
「……え?????」
かあっと頬が火照る。
慰めてくれただけ?
でも……、こんなの……。
「こんなの……」
戸惑いながらもじっとメンテの顔を見ると、メンテは優しく笑った。
「なんでこんな……」
困った顔を見せると、メンテがチュチュの手を取った。
「言ったでしょ。慰めてあげるって」
混乱するチュチュをメンテの手が引く。
チュチュは大人しくメンテについて行くことにした。
その優しい顔しか、今は頼れるものがなかったし、抵抗する気力も湧かなかった。
わざわざここに残る理由も思い浮かばなかった。
チュチュは手を引かれたまま、黙々と森の中を歩いた。
ただ静かな場所を歩いているというだけで、少しは元気になれるような気がした。
椅子に座らされ、やっとそこで、そこが何処かのカフェであることに気がついた。
そこはどうやら、町の中にある雑貨屋の、裏手のテラスに併設してあるカフェのようだった。
目の前には、甘そうなソーダと、果物が山のように盛られたワッフルのお皿が出された。
あ、これ、先生好きそう……。
思った瞬間に、涙がどばどばと流れる。
「メンテぇ……」
目の前に座っているメンテの前にも、同じものが出された。
まだワッフルに手を伸ばせないチュチュを気遣うこともなく、メンテは上品にワッフルを口に運び始める。
「……ここなら、大丈夫だよ。誰かに見られることもないから」
確かに、そこは、雑貨屋の中庭ではあったのだけれど、周りは建物に阻まれていて、お世辞にも景色がいいとは言い難い。
他に誰もいないテラス。
言われてみればチュチュでさえ、雑貨屋がこんな場所でカフェをしているなんて知らなかった。
そこは、メンテの隠れ家的なお店なのかもしれなかった。
「アタシ……っ、アタシね、ちょっと期待しちゃってたの」
「……うん」
「でも……、当たり前なんだけどさ、ダメだ……った……」
そう言った瞬間、自分でも驚くほど涙がこぼれた。
「わ、分かってたのに……っ。そんなのありえないって……。気持ちを伝えるだけでいいって、思ってたのに……。好きって言えば言うほど、どんどん好きになっていっちゃって……。毎日先生のことばっかり考えちゃうの……」
「……うん」
「なんでえええええええ!?もうやだああああああ!アタシ、学園辞める〜〜〜〜〜〜!!!」
自然と、声はどんどん大きくなった。
嗚咽も大きくなり、誤魔化せないくらいの号泣になる。
すると流石に、メンテもなだめるような雰囲気になった。
「チュチュ」
「ふっ…………、うぐっ…………」
なんとか立て直そうとするけれど、頑張れば頑張るほど上手く行かなかった。
「大丈夫だよ。ぼくがそばに居るよ」
自分の嗚咽の中で、メンテの声が聞こえた。
「ひ……っ、うぇぇ…………」
「同じ弟子の立場だろ。いつだって辛い時は一緒に居るよ」
「ぅ…………」
なんだか妙な感じだ。
メンテがこんなことを言うなんて。
あまり人を気遣わないタイプの人間だ。
それも、こんなことで嘘をついたことのない人だ。
なんだか本当に、いつだって……、実習の間だってご飯の時だって……、いつだって一緒に居てくれるんじゃないかって気がした。
「うん……」
落ち着いた所で、メンテがチュチュの口に、ソーダのストローを突っ込んだ。
まだ残る小さな嗚咽に合わせて、ストローはズルズルと、気の抜ける音を立てた。
ここで一旦一区切り。
次はしばらくリナリの方のエピソードにしたいと思います。




