77 これで最後にするから(2)
チュチュは、静かに言葉を紡いだ。
「アタシ、先生が大好きなんだ。独り占めしたくて仕方がないの。先生が攻略対象だって知ってるけど、ヒロインになる人から奪ってやりたいくらい」
そうだ。
僕だってそうだ。
「アタシ、先生にはもっと笑ってて欲しいんだ。先生の笑ってる顔、好きだよ。それで、もし、先生を笑わせる人がアタシだったらいいなって思っちゃうの」
そうだ。
僕は、君がいればきっと笑っていられる。
「ねえ、先生。アタシと一緒に居て欲しい」
「…………」
けど、君はどうだろう。
僕は、君を笑わせられるだろうか。
今までだって、泣かせてばかりなのに。
聞きたくないと思った。
チュチュの言葉を、聞きたくないと。
「ごめん」
そう、一言だけ口にした。
「…………」
自分では、誰に向かって言っているのかも、何に対して言っているのかもわからないその言葉。
チュチュにかもしれなかった。
けれど、自分にかもしれなかった。
結局答えをだせないことに対してかもしれなかった。
手放したくないと思っていることに対してかもしれなかった。
そう思っていることを、認められない自分に対してかもしれなかった。
自分ではわからない。
けれど、チュチュは、自分に対して言われたと、受け取るだろう。
そんな顔、見ることはできない。
そんな顔を見てしまったら、手を伸ばしてしまうかもしれないから。
顔を見ないようにして。
俯いて。
出来るだけ頭で考えることをやめて。
ただ、
「ごめん、君とそういう関係にはなれない」
それだけを呟いた。
「わか……った…………。今まで、あり、がとう。先生……。これからは、師匠と弟子として……よろしく、ね…………」
チュチュの靴が、床を擦る音がして。
小さな足音がして。
通り過ぎる気配がした。
泣いているに違いなかった。
そして静かに扉が開いて、静かにチュチュが出ていった。
どうしてこんなことになってしまったんだったか。
もっと最初から毅然とした態度を取ればよかったのか。
最初は確かに師匠と弟子で、それ以上でもそれ以下でも、なかったはずなのに。
どうしても、どれが正しい答えだったのか、わからない。
ただ、分かるのは、これ以上、あの小さな女の子を悲しませたくないという事だ。
だからこれ以上、泣かないで欲しい。
やる事がなくなってしまったその部屋の中。
突然、この部屋から出ていこうかと思い立つ。
そしてくるりと後ろを振り返り、扉を開けた。
さっきチュチュが出ていった扉。
どこをどう間違ってしまったのか。
ぐるぐると考え、そして、もう終わった事なのだと自分に言い聞かせる。
もう僕には関係のない事だ。
どうにもできなかった事だ。
差し出された手を跳ね除けてしまったんだから。
部屋を出る所で、窓際の人影に気が付いた。
自然と目が行く。
さっきまで目の前にいた、小さな後ろ姿。
チュチュ……。
チュチュは、誰かと一緒だった。
正面から、チュチュの頭にタオルをかけているのは、間違いなくメンテだった。
メンテ……。
あの二人……、何して…………。
ただ、チュチュを慰めているのかもしれなかった。
けれど、それにしては、距離が近過ぎないか……?
二人は、正面から向かい合い、メンテはチュチュの頭に掛けたタオルを握っていたけれど、ただ慰めているだけにしては、異様な距離だった。
今にも、抱き締めそうな、距離。
なんで…………。
メンテの頭が、チュチュの頭に近付く。
なんで……。
何して…………。
まるで、キスしているかの様な距離。
まるで、キスでもしているかの様な……、その数秒の時間。
何……してるんだ……。
頭をもたげたメンテと目が合った。
確かに、視線が合わせられた。
鋭い眼光。
睨みつける様な目。
それでいて、勝ち誇ったような、目。
何を…………してるんだよ…………。
ここが物語の山場なんじゃないでしょうか?
最終的にはハッピーほのぼのラブストーリーになるはず、です。




