76 これで最後にするから(1)
その日の午後、シエロはチュチュと実習の予定だった。
毎日午前中は座学を、午後は実習の時間にしてある。
魔術の教師として、師匠として、一人一人に魔術を教えるため、順番に一人ずつの時間を設けてある。
1日ずつ、メンテ、チュチュ、エマの順番で、その後は1日休み。
4日で一周する計算だ。
相手はチュチュ。
見慣れたはずの、いつだって一緒に居たはずのその小さな女の子に会うのに、少しの緊張を覚える自分を少し腹立たしく思いながら、実習室へ向かう。
今日は光の魔術を少しやっていこうか……。
チュチュは教えただけだとすぐに忘れてしまうから、実習を交えて。
エマに手伝ってもらうのもいいか。
そんなことをしきりに考える。
他のことをうっかり考えてしまわないように。
かちゃり。
耳慣れた音を立てて、扉を開ける。
窓から陽の光が入る、艶々とした板張りの部屋。
チュチュはすでにそこにいて、その部屋の中心にじっと立っていた。
「……どうしたの?」
声をかける。
あまりにも真剣な瞳で立っているものだから、少し躊躇してしまう。
まっすぐな背筋。
立ち姿を見ると、やはり綺麗だと思う。
「先生」
「…………」
呼びかけられたけれど、返事をしていいのか戸惑った。
これはきっと、先生と生徒としての会話ではないから。
「先生、」
そうまたシエロに呼びかけると、チュチュがじっとシエロを見た。
「アタシ、これで終わりにするから」
「…………え?」
「今から、言うこと、よく聞いてて」
この表情からして、きっと話は、「好き」だということだろう。
それが“終わり”だということは、もう、この茶番のような色恋沙汰を終わりにするということだ。
もう「好き」だと言うのをやめるということ。
もう「好き」でいるのをやめるということ。
それは、もうチュチュの「好き」という言葉を、聞けなくなることに他ならない。
「…………」
それで……いいのか?
自問自答する。
エマの話を思い出す。
『好きって言っていいんだよ』
そう、これが僕にとって気持ちに正直になる最後のチャンス。
けど。
考えてしまう。
これは僕からチュチュを解放するためのチャンスでもあることを。
僕さえ我慢すればいい。
これ以上、この小さな女の子を好きになってしまう前に。
これ以上、目を奪われる前に。
これ以上、動揺しないように。
手放したくないと思ってしまう前に。
「先生、アタシね、やっぱり先生、大好きなんだ」
その声が、今にも泣き出しそうに聞こえる。
これで最後だと、全力でぶつかってきてくれているのならば、それに応えないといけないのに。
ちゃんとその言葉を聞いて、自分が出した答えを、伝えないといけないのに。
その言葉を、聞きたくないと思ってしまったんだ。
シリアス展開、ですね。
さて、どうするどうなる〜!?




