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抜剣少女は魔術教師に恋をする  作者: みこ


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74/110

74 あなたが居ても居なくても

 シエロは、窓の外を眺めた。

 空いている時間は応接室に篭ることにしていたけれど、いよいよ確認すべき書類も底をついていた。

 いつまでも、逃げているわけにもいかなかった。


 コンコン。


 扉が叩かれる。


「……どうぞ」


 小さな音を立てて開いた扉の前には、エマが立っていた。


「先生、すっかりこの応接室私物化してるじゃないですか」

 少し呆れたような言葉だったけれど、非難しているわけではないようだ。

 エマは、いつもシエロが座るのとは反対側のソファに腰をかけた。


「シエロくん」


「…………」


 その呼びかけに、正直、面食らわなかったかと聞かれれば嘘になる。


 つい、エマの顔を、まじまじと見てしまった。

 エマはいつになく真剣な表情でシエロを見ていた。


「どうした……の?」


 つい、力のない声になってしまう。

 シエロは、仕方なくエマの正面に座った。


「シエロくんは、チュチュのことが怖いの?」


 怖いの、か。


 そうか。


「そうなのかも、しれないね」


 エマには、誤魔化しても仕方がないように思えた。

 ずっと僕らを見てきた人。

 ずっとヴァルの隣にいる人。

 僕が知らない僕のことまで知っていそうだ。


 それに、こうして面と向かってみると、確かに少女なのだけれど、それだけじゃ済まない何かを持った転生者であると理解できる。


「チュチュには、幸せになって欲しいんだ。僕と関わると、なんだか、チュチュが汚れてしまいそうで」


 そう言うと、エマが、ふーん、という顔をした。


「……考え過ぎだよ」

 エマが、ふわっと微笑む。

「シエロくんはチュチュを汚したりしない。チュチュはそんなことで汚れたりしないよ」


 そんなこと。

 言うだけなら、何とでも言える。


「シエロくんは自分の事を買い被り過ぎだよ。チュチュはそんな事で揺らいだりしない。チュチュは幸せだよ。シエロくんが居ても、居なくても」


「…………。居ても。居なくても」


「そうだよ。チュチュなら、シエロくんが応えても応えなくても、幸せになれるから」


「…………」


「だからシエロくんは、自分の幸せを考えて」


「……僕の幸せって?」


 そこでエマは、困ったように微笑んだ。

「シエロくんがどうしたいかだよ」


「僕が……」


 思えば、自分がどうしたいかを考えたことがあっただろうか。

 そんなものを考える前に、急ぎ足の周りの人間に翻弄された。

 状況は僕が手の届かない所で刻々と変わり、言葉を発することも許されないまま、ただ見えている道を急いで進まないといけなかった。


 そんな自分に不満を持ったことはない。


 けど、チュチュのことは。


「好きなら好きって言っていいんだよ?」


「好きなら……」

 また、気持ちが暗くなるのを感じる。


「最近のシエロくん、気持ちが漏れちゃってるからさ」

 そう言うと、エマは立ち上がり、応接室を出て行った。


「…………」

 後に残されたシエロは、扉に何かが見えるかのようにじっと、エマが消えて行った扉を見続けた。


「…………イヤな話、聞いちゃったな」

心配になって、ちょっとお姉さんぽく振る舞いに行くエマちゃんなのでした。

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