69 努力の行く先(2)
1ヶ月はあっという間に過ぎた。
季節は、春というよりもどちらかと言えば夏になっていた。
「んっぴゅい」
早朝、幌馬車に5人で乗り込む。
馬車の中に転がっていた毛玉を、ヴァルがそちらを見ずに外へ蹴飛ばした。
毛玉は転がるように空中を2、3回転すると、またふよふよと戻ってくる。
エマがそれを見て苦笑した。
メンテは、装飾の付いた弓を握りしめる。
矢は指定されたものを使うことになっていたが、弓の指定はない。
弓の大会は、遠く離れた丸い的を射る、それだけの単純なものだ。
だからこそ、少しの油断、少しの戸惑い、少しの緊張、そういったもので勝負が決まる。
今回の大会はそれほど大きな大会ではないけれど、周りに大きな町が多いからか、その周辺の町では、“登竜門”と呼ばれ、大事にされている大会だ。
弓の学校に通う若者や兵士なども参加する。
学園そばのリッターの町からも、町で弓を教えている元兵士の弟子達が5人ほど参加している。
シエロを御者に、馬車はのんびりと動き出す。
メンテが注目されると緊張してしまうのを知ってか知らずか、ヴァルとエマは外を見ながらのんびりと二人で話している。
「晴れてよかったね」
メンテの隣に居たチュチュが、大きく空を仰ぐ。
「そうだね。風もないようだし、いい大会になりそうだね」
「ねえ、あの馬車も大会に出るのかな」
チュチュが遠くを指し示す。
確かにそこには、大きな馬車が走っていた。
馬車には、10代くらいの青年達が行儀良く並んで座っている。
「そうかも、しれないね」
最初は、そんな馬車を見ても、仲間が居るのは心強いな、としか思わなかった。
けれど、サディークの町に近付けば近付くほど、そんな馬車を見かける事が増えていく。
見かけた大きな乗合馬車も、弓らしき荷物を持った者ばかりが目に入った。
サディークの町は、活気がある賑やかな町だった。
どうやら、植物園があるらしく、弓技大会はその植物園の中の広場で行われるようだった。
植物園の広場は、広い草原になっており、普段は小さな騎士の卵たちが散歩がてら剣の訓練に来るような所だった。
「これ、全部参加者?」
チュチュが目の前の人だかりを見ながら、呆然とした。
それは、広場を埋め尽くすんじゃないかと思うくらいの人だった。
「すごいね」
シエロが背伸びをしながら、周囲を見回す。
「チュチュなんか、何処かへ流されていってしまいそうだよ」
「その杖を目印にするから、迷子になったら掲げてね……」
苦笑しながら言うと、シエロがチュチュの腕を掴んで引き寄せる。
「そもそも、迷子にならないように気をつけてね」
「…………っ、うん」
こんなちょっとした事でも、心臓がバクバクする……。
こんなにくっつけるなんて、人混みも捨てたもんじゃないな。
そこへ、なんとか参加の受付を終えて、メンテが戻ってきた。
「参加者は200名以上いるそうだよ」
「お……多いね……?」
するとメンテが、ひとつ息を吐いた。
「さっそく、予選だ」
毛玉は気まぐれにふわふわしています。
気がついたら居たり、気がついたら居なかったりします。
遠距離も飛べるので、居なくても特に問題はありません。




