68 努力の行く先(1)
「サディークの町で、弓技大会があるらしいんだ」
昼食時、そんな事を言い出したのはメンテだった。
そんな事を言いながら、昼食の豚カツ弁当に入っている豚カツを、メンテが一口齧る。
「出ようかと思うんだ」
「いいね。メンテ、弓上手だもんね」
真っ先に言ったのは、チュチュだ。
最近、メンテとは仲がいい。
……アタシが勝手に思ってるだけかもしれないけど。
「いいね」
と笑ったのはエマだ。
ヴァルがずるずると緑茶を啜る。
「試合は1ヶ月後」
メンテが心配そうな顔で、シエロに目を向けた。
「どうですか、先生」
シエロがにっこりと笑う。
「いいんじゃないかな。サディークなら、日帰りで行くのもちょうどいい距離だろう。サポートも必要だろうから、みんなで行こうか」
「ありがとうございます」
その日から、メンテは外で弓の練習に明け暮れた。
ザシュ……!
見学に来たチュチュの前を、弓がすごい速さで通り過ぎていく。
「す……ごい」
練習を眺めているチュチュが、邪魔をしないようにあまり声を出さないようにしないと、と決心したのも束の間、うっかり声が出てしまう。
演劇で使った時よりも大きな装飾の付いた弓と、大きな羽のついた矢。
矢をつがえ、今までに見たことのない距離から、メンテは矢を射っていた。
何本もの矢が、的へ突き刺さる。
一息ついてチュチュのそばへ来たメンテに、チュチュが笑いかけた。
「綺麗な弓だね」
「だろう?」
チュチュがそっと、壊れ物でも扱うかのように触れる。
弓に装飾がしてあって、本当にしなるのか、実際に扱うところを見ていないと疑問に思えるほど豪華な弓だ。
「兄さんの弓なんだ」
「お兄さんの?」
「国から届けてもらったんだ」
メンテの一族は、弓の名手が多い。
「……これに使ってる事がバレたら、“こんなお遊びにこんないい弓を使うなんて”、って、怒られそうだけどね」
メンテはそういうと、小さく苦笑した。
確かに、弓を持って森の中を駆けずり回り、獲物を捕らえるような使い方をしている人達と比べたら、こんなものお遊びかもしれない。
何の障害物も無い場所で、動かない的を射るのだから。
それでも、留学して魔術師になってまで、弓にこだわるのは、やはり家のことがあるからだろう。
メンテだって、あの家の一員で居たいんだ。
「応援してるよ」
チュチュは、メンテに微笑む。
魔術はあまり、他人と比べられることがない。
それぞれ使える魔術の属性が違うから、どうしても比べる事に反感を抱く者もいる。
あまり、大会のようなものを開く事も少ない。
なので、今、何かに勝ちたいと思っているメンテにとって、弓技の大会は都合がいいのだ。
メンテは、チュチュの正面に立ち、チュチュをじっと見つめた。
「…………?」
きょとん、とする。
鳥が鳴いている声が聞こえて、なんとも長閑な午後だ。
「頑張るよ」
え……?
一瞬、その眼差しが余りにも真剣だったから、どきりとしてしまった。
「……うん」
それほど、真剣に弓に取り組んでるって事だ。
気を取り直して、チュチュは、メンテに微笑みかけた。
「うん。頑張れ」
「がんばるよ。ねぇ、チュチュ。ぼくの、勝利の女神になってよ」
さてさてまたラブコメ開始です。ここからはメンテのターン!




