56 僕の居場所(2)
それから、僕はより一層、真剣に魔術に取り組むようになった。
師匠の研究の手伝い、師匠から習う魔術の取り組み、自分の氷化の魔術の研究。
相変わらず、研究資料は、どう見ても商売のそれなのだけれど。
また、肩の上で髪を綺麗に切り揃えた。
日常はまずまずだ。
パサっとデスクに書類が置かれる。
見上げると、ジークがシエロを見下ろしていた。
「お使い」
それだけを言うと、また自分の居場所へ戻っていった。
デスクではなく、ソファへ。
……兄弟子達以外は、まずまずだ。
ジークは、生意気だった。
確かに兄弟子で、魔術の能力も高い。
王太子の側近をしているだけのことはある。
けど、なんであんなに愛想がないんだ?
ランドルフだって気弱すぎる気弱で、見ててイライラするっていうのに。
書類を見ると、城の執務室に出す書類だった。
ジークから渡された書類というのは気に入らないけれど、師匠の研究の手伝いの一環だから、行かないわけにはいかない。
カタン、と椅子を鳴らしてシエロは立ち上がった。
「行ってくるよ」
「ああ」
横目で見たジークは、なんだか面白そうだ。
真面目に師匠の手伝いをする僕を笑うなんて、ちょっと失礼なんじゃないのか?
誰もいない明るい廊下を歩く。
とても大きな城だった。
師匠のような魔術師が何人も城に控えていたし、城の反対側には大勢の騎士が居てこの城や町を守っているということだった。
その分の食事や洗濯も一手に引き受けてくれている。
この国全体を治めるための部屋もいくつかあり、これから行くのはその場所だった。
シエロは、もう城の内部、いつも行く場所なら、迷わず辿り着けるようになっていた。
執務室に書類を提出し、部屋へ戻る途中、正面から騎士団の一行がやって来るのが見えた。
すれ違いざま、声がかけられる。
「お?見たことないやつだな」
振り向くと、赤髪の騎士がこちらを見ていた。
10代中頃、か。
ツンとした表情。
……この表情、また僕を見下している顔だ。
家族も、同年代の子供達も、魔術師にまで仲間はずれになって、今度は騎士だと。
どこまで追いやれば気が済むんだよ。
「……名乗る時は、自分から名乗った方がいいんじゃないの?」
「フッ」
嫌な笑いをする。
自分が強者だと思っている人間の笑みだ。
「オレは、キリアン・コンスタンだ」
「キリアン……。ああ、あの放蕩息子ね」
シエロも負けじと睨み返した。
キリアン・コンスタンといえば、コンスタン侯爵家の息子だ。
家を飛び出して世界を渡り歩いていると聞いたけれど、どうやら最近戻ってきて、騎士団に入ったらしい。
「僕は、シエロ・ロサ」
名乗ると、キリアンが「なるほどな」という顔をした。
「こんなチビなら、そりゃあ、騎士にはなれないな」
また、僕に対するそんな言葉を聞かないといけないのか。
ここでも。
その言葉を無視するように、ふいっと通り過ぎようとした。
それなのに、
「おまーえさぁ、」
キリアンが、くっつくように後を付いてくる。
「……何?邪魔なんだけど」
くっつくだけでは飽き足らず、耳打ちするように顔を近づけてくる。
また、悪口でも聞かされるのか。
自分だって、家を出て好き勝手やっていたくせに。
何が違うって言うんだ。
シエロが、反抗するようにキリアンに振り向いた。
過去編にキリアン登場!16歳。




