57 僕の居場所(3)
「ぶっ」
振り向いた瞬間、何かにぶつかる。
深緑色のマント。
これ……、魔術師?
え???
「止めてもらえる?」
この……声。
キリアンの腕を掴んでいるのは、紛れもなく、この国の王太子、ランドルフだった。
え…………?
ランドルフの切れ長の強い目。
え…………?
偉そうにしていたキリアンがタジタジだ。
嘘……だろ?
そして、シエロを守るように立ちはだかっているのが、紛れもなくジークだった。
二人とも……?
ランドルフの手に、力が入るのがわかった。
「何か、用?」
ランドルフの、低く、力強い声。
そんな声、出せるのかよ。
なんなんだよ、いつものヒョロヒョロは。
「うちの子に、ちょっかい出さないでくれる?」
ジークは相変わらずの顔で、けれど庇ってくれている。
「はぁ……」
キリアンが、ため息を吐きながら一歩下がる。
「分かったよ」
言いながら、ランドルフの腕を振り払い、呆れたように訓練場の方へ戻って行った。
「大丈夫だね?」
ランドルフが、シエロの頭をぽんぽんと撫でる。
ジークまで、シエロの頭をぽんぽんと叩いた。
「何かあったら言えよ?」
「…………」
こんな風に、誰かに触れられたのなんて、いつぶりだろう。
もうずっと、人には触れずに生きてきたから。
こんなことで、絆されるわけにはいかないのに。
こんなことで、嬉しくなってしまうわけにはいかないのに。
こんなことで、……受け入れてもらえたなんて思っちゃいけないのに。
「あんなの、一人でだって追い返せたよ」
二人の手を払い除け、ズンズンと廊下を歩き出す。
後ろから「ふっ」と笑う声が聞こえた。
ジークは、ずっとこんな調子なんだろうか。
ちょっと背が高いからって、偉そうにして。
「笑っちゃいけないよっ」
ランドルフのやつ、もう気弱な声になってる。
いざとなったらあんな顔出来るくせに。
頼りになるんだかならないんだか。
別に、こんなことで認めてやるわけじゃない。
こんなことで、認めてもらった気がしてるわけじゃない。
だって、誰だって、どんな奴だって、いつか僕を裏切ってしまうかもしれないんだから。
居なくなってしまうかもしれないんだから。
けど、まるで、水みたいに何かに染みてどこかへ消えてしまっていた僕が、形を持ってそこに存在していることにやっと気づけたような、やっと気づいてもらえたような、そんな気がした。
後ろで二人がゆるゆると付いてくる足音が聞こえる。
マントをひらめかせ、大きな杖を握ったまま、チラリと後ろを見遣る。
二人が優しい顔で付いてくる。
「ジーク!ランドルフ!なんでそんなにのんびり歩いてるのさ。僕一人に仕事押し付けないでよね」
ふいっと頭を振ったシエロの金の髪が、陽の光に明るく揺れた。
シエロくん、中身が素直で純粋なだけにチョロいです。




