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抜剣少女は魔術教師に恋をする  作者: みこ


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57/110

57 僕の居場所(3)

「ぶっ」


 振り向いた瞬間、何かにぶつかる。

 深緑色のマント。

 これ……、魔術師?

 え???


「止めてもらえる?」

 この……声。

 キリアンの腕を掴んでいるのは、紛れもなく、この国の王太子、ランドルフだった。


 え…………?


 ランドルフの切れ長の強い目。


 え…………?


 偉そうにしていたキリアンがタジタジだ。


 嘘……だろ?


 そして、シエロを守るように立ちはだかっているのが、紛れもなくジークだった。


 二人とも……?


 ランドルフの手に、力が入るのがわかった。

「何か、用?」

 ランドルフの、低く、力強い声。


 そんな声、出せるのかよ。

 なんなんだよ、いつものヒョロヒョロは。


「うちの子に、ちょっかい出さないでくれる?」

 ジークは相変わらずの顔で、けれど庇ってくれている。


「はぁ……」

 キリアンが、ため息を吐きながら一歩下がる。

「分かったよ」

 言いながら、ランドルフの腕を振り払い、呆れたように訓練場の方へ戻って行った。


「大丈夫だね?」

 ランドルフが、シエロの頭をぽんぽんと撫でる。

 ジークまで、シエロの頭をぽんぽんと叩いた。

「何かあったら言えよ?」


「…………」

 こんな風に、誰かに触れられたのなんて、いつぶりだろう。

 もうずっと、人には触れずに生きてきたから。


 こんなことで、絆されるわけにはいかないのに。


 こんなことで、嬉しくなってしまうわけにはいかないのに。


 こんなことで、……受け入れてもらえたなんて思っちゃいけないのに。


「あんなの、一人でだって追い返せたよ」

 二人の手を払い除け、ズンズンと廊下を歩き出す。


 後ろから「ふっ」と笑う声が聞こえた。

 ジークは、ずっとこんな調子なんだろうか。

 ちょっと背が高いからって、偉そうにして。


「笑っちゃいけないよっ」

 ランドルフのやつ、もう気弱な声になってる。

 いざとなったらあんな顔出来るくせに。


 頼りになるんだかならないんだか。


 別に、こんなことで認めてやるわけじゃない。

 こんなことで、認めてもらった気がしてるわけじゃない。


 だって、誰だって、どんな奴だって、いつか僕を裏切ってしまうかもしれないんだから。

 居なくなってしまうかもしれないんだから。


 けど、まるで、水みたいに何かに染みてどこかへ消えてしまっていた僕が、形を持ってそこに存在していることにやっと気づけたような、やっと気づいてもらえたような、そんな気がした。


 後ろで二人がゆるゆると付いてくる足音が聞こえる。

 マントをひらめかせ、大きな杖を握ったまま、チラリと後ろを見遣る。

 二人が優しい顔で付いてくる。


「ジーク!ランドルフ!なんでそんなにのんびり歩いてるのさ。僕一人に仕事押し付けないでよね」


 ふいっと頭を振ったシエロの金の髪が、陽の光に明るく揺れた。

シエロくん、中身が素直で純粋なだけにチョロいです。

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