48 外の世界(1)
そうと決まれば、出来るだけ早く、だ。
すぐに大魔術師に手紙を出し、荷造りを始めた。
一番大きなトランクに、洋服から詰めていく。
書きかけの論文、魔術書を入れ、ペンを手に取る。
手に持ったペンを、じっと見た。
……父からもらったペンだった。
8歳の誕生日。
「…………要らないな」
思いのままに投げると、ペンは床をコロコロと転がった。
そこで気付く。
必要なものなんてないんだ。
詰め終わった洋服を半分出し、代わりに魔術書を詰めた。
珍しいものから、1冊ずつ。
詰め終わった時には、3分の2程が魔術書で埋まっていた。
最後に、金貨を一掴み程入れる。
これだけあれば、生きていけるだろ。
シエロは、そのまま床に寝転がると、眠りについた。
部屋の中には、持っていくことができない、広げられたままの魔術書と服が、大量に転がっていた。
出来る限り、希少価値の高い本から入れた。
まだまだ持っていきたい本はあるけれど、また何処かで買えそうな本は置いていくしかないだろう。
仕方がない。
例え、使用人であっても、この屋敷の人間を頼ることはできない。
いつ、一人で追い出されるかわからないのだから。
自分で持てる物だけが、自分の物だ。
幸い、魔術が得意だ。
一人ででも、氷細工を売れば、そこそこの暮らしはできるだろう。
戦えるようになれば、貴族として人を雇うことだって出来るようになるかもしれない。
明け方目を覚ますと、夕食だったらしい食事が一式準備されていた。
魚のソテーに手を伸ばす。
この味も、もう食べることはない。
サラダに。
スープに。
パンに。
……自分で作る食事というのは、どういうものだろうか。
パンを口に運びながら、窓の外を眺めた。
窓の外は、段々と朝の光が差してくる。
立ち上がり、自慢の白い魔術師用のマント姿の自分を見る。背よりもずっと大きな杖を手に持つと、もう片方の手には、大きなトランクを手にした。
もう、ここに帰ってこないよう、願おう。
これが最後だ。
まだ、明け方と言っても差し支えない朝の光の中を、シエロは一人、ズンズンと歩いた。
誰もいない廊下を歩き、誰もいない庭を歩き、誰もいない正門の前に立つ。
一人、大きな門を、人が一人やっと通れる幅だけ開き、通り抜けた。
一度、後ろを振り向いた。
心残りがないわけがなかった。
生まれてから10年。
こうなって欲しかったわけがなかった。
どこでどう間違えたのかわからなかった。
ただ、自分に出来ることを、精一杯やってきたはずだった。
愛情を大事にすることも、怠った事はなかった。
それなのに、ひとりぼっちじゃないか。
でも、この先、これ以上の孤独はきっと無いから。
あとは登っていくだけだ。
シエロは、自分の道を歩き出す。
過去話がこれほど長くなると思っていなかったのですが、まだまだ続きます。
シエロくん(10)の魔術師ほのぼの日常物語になってしまいそうです!
恋愛要素は薄いですが、楽しんでいってね!




