47 外にあるもの(2)
「ここが、魔術師の塔じゃ」
大魔術師に連れられて来たのは、王都は王城すぐの場所に位置する、魔術師の塔だった。
一歩足を踏み入れると、太陽の光が遮られ、厳かな廊下が現れる。
部屋の中を覗くと、子供達が輪になって、魔術の訓練をしていた。
「魔術は、信頼が大切だ。魔術をもたらす精霊を信じること。想像し、描き、実現させる」
魔術師らしい中年男性が、魔術について話している声が聞こえる。
「ワシの弟子になると、必然的にこの魔術師の塔に所属してもらうことになる」
「……ここに住むんですか?」
両側は扉ばかりで窓のない廊下を、シエロはキョロキョロと見回した。
「ここにももちろん部屋は貰えるが、どちらかと言えば研究室じゃのう。ワシと弟子達は城に住んでおる。弟子になれば、城に一室もらえるじゃろう」
「…………?」
大魔術師の弟子といえば、王太子にその側近だ。
城に住んでるのは当たり前だろう。
なんだか、胡散臭く思えて来た。
その日1日の終わりには、最後に大魔術師はにっこりと笑い、
「いい返事を期待しておる」
と言葉を添えた。
一人、とぼとぼと街の中を歩く。
屋敷の近くまで来たところで、どこかのメイドらしき婦人達の噂話が耳に聞こえてくる。
「最近、子供の売り買いが流行ってるんですって」
「らしいですね。なんでも、名のある貴族が、愛でる為の子供を買い集めているとか」
「…………」
もし、大魔術師に、そんな趣味があったら?
もし、外に顔の知られていない僕が、何をしてもいいと思われていたら?
閉じ込められて。
殺されて。
そんなことだってあるかもしれないんだ。
家に帰ると、門の内側で、父に出会った。
……しまった。正門から入るんじゃなかった。
「シエロ」
「ご機嫌よう、父様」
実に、2年ぶりの再会。
けれど、そうとは思えないほどの、簡素な再会。
そのまま、すれ違う。
この程度なんだ。
僕は、父にとっても。
すれ違いざま、振り向いて、父に声をかける。
「大魔術師の弟子に、なろうと思います」
試すような言葉。
決心なんて、まだついてないのに。
心臓が、脈打つ。
声をかけるだけで、こんなに緊張するなんて。
家族なのに。
家族だったのに。
それなのに。
「そうか」
と、それだけを言い、父は門の外へと出て行った。
2年ぶりに見かける執事やメイドが、その後に付いていく。
「…………」
もし、父様や母様も、同意の上だったら?
それで僕は、売られてしまうのかもしれない。
ここには居なくていい人間だから。
居ない方がいい人間だから。
消えてしまったら、きっとみんなも、安心して暮らせるんだろう。
外向きには、魔術師を目指す上で、事故に遭ったなんて、言われて。
自然と、部屋へ向かう足が、早足になる。
部屋の中は薄暗く、ただ、窓からうっすらと差し込む仄かな陽の光が、鏡に反射し、そこだけが明るい。
鏡に映るシエロは、今にも泣きそうだった。
嫌な顔をしている。
なんとか纏めた髪も、どことなくバサバサと長く伸びている。
……こんなザマじゃ、そりゃあ、捨てたくもなるよね。
自虐的な言葉ばかりが浮かんでは、漂う。
暗い部屋の中、その恐怖にしばらくうずくまっていた。
それでも、ここから出ないといけない。
あの手を、取るしか道は残されていなかった。
シエロくん(10)から見たら、おじいちゃんはやっぱりちょっと、胡散臭かったのかもしれませんね。
おじいちゃんは多分、外見ずっと変わらないんでしょうね。




