49 外の世界(2)
出来るだけ草むらを選んで歩く。
人に会うのが怖かった。
知っている人には、会わないで欲しかった。
こんな姿、誰にも見せられない。
あっという間に、魔術師の塔の前に出る。
ぼんやりと見ていると、後ろから声がかけられた。
「どうしました?」
声をかけてきたのは、魔術師だった。
どうやら、水の魔術が使えるようで、塔の周りの花の水遣りをしていたようだ。
「今日から、ここにお世話になる、シエロといいます」
家の名を出すのは憚られた。
もう、あの家は出て来たのだから。
けれど、このような場所で名を隠す事は珍しくないようで、特に気にする様子は見せなかった。
「シエロさんですね」
にっこりと笑顔を見せた魔術師は、すぐに中へと通してくれた。
「ここが、シエロさんの研究室になります」
そう言われて通された部屋は、塔の上方にある小さな部屋だった。
大きなデスクに、大きな書棚。
まだ何も置かれておらず、本の1冊もない。
……ベッドも、ない。
「あの、生活はどこでするんでしょうか」
「ベッドは、城のほうですよ。もちろん、ベッドを研究室に置く魔術師もいますから、こちらに置くこともできますよ。衝立なんかで隠す人が多いですね」
「…………」
本当に、城に?
案内されたのは、本当に城の一室だった。
王家がいる場所とは離れてはいるけれど、公爵邸での自分の部屋と遜色ないほどの部屋。
「ありがとうございます」
トランクひとつしか持っていないシエロは、その部屋の中央に立ち尽くした。
「今日は、あとは自由です。夕食はここへ運びますね」
「はい」
自由……。
自由といっても……。
ふいと自分のトランクを見る。
荷物はこれしかないし。
仕方なく、外へ出た。
魔術師の塔へ足を踏み入れる。
早朝とは違い、騒つく声が聞こえた。
人が、沢山いる……。
どうやら、学習室の授業が始まったようだった。
1階は全て学習室になっているらしく、小さい子どもたちから大人まで、老若男女が魔術の勉強をしている。
人をかき分けながら進んでいくと、
「お?」
とすれ違いざま声がかけられた。
くるりと振り向くと、同じ年頃の子供達が立っていた。
「…………こんにちは」
「新入り?どこのクラス?」
「まだ、そういうの決まってなくて」
「じゃあ、ちょっと実習見る?」
「……ああ」
実際に、学習室の勉強がどのようなものなのか見てみたかった。
「先生、こいつ見学するって!」
外に集まったのは、10人の同じ年頃の子供達と、学習室の教師が1人。
教師は、シエロが誰なのか知っているらしく、一瞬表情が固まった。
それでも、すぐに笑顔を作る。
「いらっしゃい。では、学習室の実習を見てもらいましょう」
そして、実習は始まった。
それぞれの得意な属性の魔術を一つずつ覚えて使ってみるのが、今の実習の内容らしかった。
「私、水!」
「僕達も!」
「俺、火〜」
10人の子供達。
水属性が5人、火属性が2人、風属性が2人、土属性が1人。
やっぱり、水が多いんだな。
「お前はもう属性わかってんの?」
「……僕は、水だよ」
「水かぁ……。じゃ、これ消してみろよ」
子供達の中心にいた火属性の少年が、シエロに向かって短い杖を向けた。
学習室では、魔術師の塔が用意した短いステッキを依り代に使うことが多いです。
依り代向きのアイテムを手に入れられない人でも、魔術を学ぶことができるのです。




