29 お仕事しましょ(4)
夕方は、あっという間にやってきた。
大部屋の中には、いかにも町民といった格好をした騎士団のメンバーが揃った。
「ジュエル」
チュチュが唱えると、ベルトに飾られている黒い石の前に魔法陣が現れ、弾けるように消える。
そして、チュチュの両手には黒いナイフが握られる。
意識しなくなってしまえば、ナイフは最初からそこになかったかのように消え失せる。
しかし、“それがそこにある”と意識している間は、その魔術が消えることはなかった。
チュチュは、騎士団のメンバーそれぞれに名前を聞き、一人ずつ黒曜石でできたナイフを渡していった。
名前を聞いた方が、ナイフの存在を意識しやすかった。
最後にキリアンに2本のナイフを2本渡す。
「全部で、32本」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「では、開始する」
そう小さく呟いたキリアンの声を合図に、少人数ずつ宿を出る。
大勢で歩いては、わざわざここまで見えないように隠れて動いてきた意味がない。
2、3人のグループで町に溶け込み、時を待つのだ。
チュチュもシエロと二人、連れ立って宿を出た。
今回、チュチュが騎士団の戦闘力の要だ。
奇襲を受けないように、このメンバーの中でも戦闘力の高いシエロとキリアンの二人のうち一人を付けてもらったのだ。
しきりにそれぞれのナイフのことを思いながら、ただシエロの後を付いていく。
包囲網を作るため、隠れ家となっている建物の周囲にメンバーが配置される。
建物の表や裏、全ての窓、屋根の上まで万全だ。
チュチュとシエロは表の通りへ。
隠れ家へ続く路地の入り口に二人で壁に寄りかかる。
まるで、陰でイチャついているカップルみたいに。
しかし、全員が配置についたところで、問題は発生した。
「一人足りません」
一人足りない?
ここで一網打尽にしなくてはいけないのに。
逆恨みでブランカが狙われでもしたら大変だ。
キリアンが時間をくれと伝令してきたところで、チュチュが、何かを見た。
シエロを引き寄せる。
「先生……、アタシから見えるところ。居る。この間の、お店の前で見た人」
チュチュに被さるようにして、シエロが呟いた。
「あの時の取りこぼしか……」
「赤毛。茶色のベスト。こげ茶のズボン……やばい、こっちに気付いた」
男は、こちらを一瞬じっと見て、そして、何かに気付いたらしく、後ろへ取って返した。
その瞬間、シエロが駆け出す。
「氷結の柱」
シエロが唱えると、杖の上に魔法陣が光り、弾けるように消える。
シエロからその男までの間の道が水で覆われ、その水があっという間に凍りつく。
男が足を取られ倒れると、チュチュがその男を取り押さえた。
近くにいた騎士団のメンバーが、
「スリです!ご協力ありがとうございます!」
と声を出し、騒ついた通行人を宥めると、その男を引き受けた。
シエロとチュチュはまた路地の入り口に立つ。
一人確保の情報が全員に伝えられると、隠れ家への突入が開始された。
斥候班の目をかい潜り、買い物に出た人が居たみたいですね。
斥候班も少人数だったからこんなこともあるね。




