30 お仕事しましょ(5)
前方にいた騎士二人が、隠れ家の方へ向かったのを見届けると、シエロとチュチュの二人も、隠れ家へと向かった。
路地に入ってから6つ目の扉……。ここか。
辿り着いた先は、確かに見落としてしまいそうなほど地味な木製の扉だ。
そこにはただ扉一つだけがあり、一目見ただけでは、どこかの物置か裏口のようにしか見えない。
中の様子を窺うと、人の叫び声がした。
カン、カン、と刃の交える音もする。
どうやら、大乱闘の最中らしい。
二人は、後方に二人、扉の見張り役の騎士がいる事を確認すると、一度壁に張り付き、扉を杖で開ける。
見ると、すでに気を失った男達が3人。
残りの4人と騎士団が乱闘を繰り広げていた。
扉の中は、どうやら放置された元酒場のようで、狭くはない。
10人以上いる騎士団がみるみるうちに男達を追い詰めていく。
一人、特に上質な服を着ている男が、例の子爵令息だろうか。
チュチュが自分のナイフの場所を把握し、シエロが杖を構える。
男の一人が、一人の騎士のナイフを蹴り上げ、そのナイフを手にした。
振りかざしたところで、チュチュが手を握り、そのナイフを消す。
「あ!?」
「ジュエル」
チュチュのベルトに付いた黒い石の前に、魔法陣が光り、弾けるように消える。
チュチュの右手には、新しい黒いナイフがに握られた。
「ジェレミー」
ナイフを蹴り上げられた騎士の名を呼ぶ。
黒いナイフを空中へ放り投げると、名を呼ばれた騎士が落ちてくるナイフを受け取り、武器を失った男を制した。
その調子で、ナイフを入れ替えながら、戦闘が続いた。
全部で32本。
額に汗が浮かぶ。
意識が飛びそうになるのを堪えながら、ナイフを操っていく。
あと2人。
チュチュがナイフを操っていることに気付いた一人の男が、チュチュに向かって花瓶を投げる。
大丈夫。信じてる。
みんなのナイフに集中……!
ゴッ、と音がして、シエロの杖が花瓶を叩き落とした。
シエロがその男を睨みつけ、キリアンがナイフを突きつけた。
そして残った2人を捕まえると、全ての人間を取り押さえることに成功した。
捕まえた男達は、第三騎士団が直々に取り調べを行うことになっており、馬車で連れて行った。
エーデルは、シュバルツの屋敷に戻り、報告をしてから、取り調べに加わるようだ。
とっ……と、チュチュの足がふらつく。
終わ……った?
終わったんだよ、ね。
よし、アタシ、がんばった…………。
気が抜けてしまったのか、ふっと目の前が、幕が降りるように真っ白になる。
「チュチュ……!」
記憶が薄れる中、聞こえたのはシエロの声だった。
お仕事エピソードは次回まで!
恋愛がメインなのだから、これからちょっとずつ甘くなっていくはずです。




