28 お仕事しましょ(3)
問題の子爵令息が隠れ家にしている場所は、町の中心地にあるらしかった。
中央通りから裏路地に入り、入り組んだ道を辿っていく。その途中にある扉が、その隠れ家となっていた。
なんとか鍵が掛かる程度のただの木の扉。
普通だったら見逃してしまうところだ。
どうやらそこは、子爵家で持っている廃墟で、窓もぼろぼろ、家具もぼろぼろだということだった。
突入の決行は、その子爵令息と仲間達が集まる夕方。
人数はその子爵令息を入れて8人。
決行の朝は、大部屋で地図を睨み、話し合いが行われた。
チュチュも、これほど入り組んだ場所での戦闘は初めてだ。
こちらの戦力が、騎士が16人、魔術師が3人。
騎士のみんなはあまり剣を振り回せないから、シエロとエーデルの二人が突入し、騎士団で捕まえるのが簡単な方法だろうか。
「……この手はあまり使いたくなかったんだが……」
キリアンが、苦々しい声を出す。
「お前……、」
と、チュチュの方を向く。
「実体のあるナイフが出せるか?」
もちろん、魔術で出したものは、そこに存在するものだ。
けれど、魔術で出したものは、本来そこにないもの。
“実体のある”というのは、気を抜いても消えることがないかどうかという意味だ。
水の魔術や、森の中で使う草の魔術であれば、そこにあって不自然ではないから世界に定着しやすい。
けど、光や闇、チュチュが扱う石の魔術は、本来そこにはないものだ。
そう簡単に実体を持たせることはできない。
「時間を……かければ……」
「いや……瞬時に出して欲しいんだ」
瞬時に。
「何てことを……っ」
シエロがキリアンを睨む。
キリアンとシエロも、基本的に気が合わない。
「つまり……騎士団の数だけ、ナイフが欲しいってこと?」
「いや、2本ずつだ」
「……32本」
剣を振るえない狭い場所。
騎士団全員にナイフを持たせて、機動性を上げたいのだろう。
シエロが口を挟む。
「チュチュのような細かい細工の石は、1日かけて2本が限界だ。30本なんて……」
「ううん、先生」
シエロが、苦い顔をした。
「戦う間だけなら、32本ナイフに意識を保っていられる」
「……チュチュ」
シエロが、何か言いたげにしたけれど、それは言葉にならなかった。
「つまり、実体にせずに、魔術のナイフを騎士団の奴らに配るってことだな?」
「うん」
「できるのか?」
キリアンが、チュチュに真剣な目を向ける。
「一度でも意識を失えば、誰かが死ぬかもしれないんだ」
死。
その言葉に、頭がクラクラする。
けど、その責任を負う覚悟は、もう出来ていた。
「できるよ」
チュチュは、決意の瞳をキリアンに向けた。
お泊りお仕事エピソード、全6話でお送りしております。
あと3話!




