其の15
結局あの後、私は王子に案内されながら、迷宮のような図書館地下階を脱出したわけだけど、別れ際、王子から、とっても良い笑顔で、
「また会おうね」
と言われた。以前のように時と場所を指定されたわけではないので、きっともう会うことはない……と、昨日までの私なら、そう考えたはずだけど。
(本当に、また会うような気がする……)
そんな嬉しくない予感、否、確信が芽生えていた。
☆
さて、装飾品を預けてから三日経ち、鑑定が終わる約束の日となった。
私はというと、いつになく鑑定に時間を要したことが気になって仕方がなく、
(まさか、とうとうプレゼントに偽物を渡すようになった? でも、見る限り本物だと思ったんだけど)
と少し落ち着かない気持ちで、店を訪れた。が。
(閉まってる……)
出鼻を挫かれた私は立ちすくむ。
店先には臨時休業に札がかかっており、窓は分厚いカーテンで締め切られていた。そのため、室内の様子は全く窺えない。明かりも点いていないようだ。
私はますます狼狽える。
(あれ? 今日が指定された日だったよね?)
戸惑いながらも、駄目で元々という気持ちで、入り口の取っ手に手をかけてみる。鍵はかかっておらず扉は開いた。いつものように来客を知らせる呼び鈴がちりんちりんと鳴る。
と、同時に。
「誰だ!?」
店長とは違う、もっと若い男性の声が鋭く響いた。そして、カウンター近くの明かりが灯った。
ゆらめく明かりの中、警戒した様子でこちらを窺う若い男性の姿が見えて……お互いの姿を視認した私と相手は、
「え?」
「!!」
と、二人同時に絶句した。
その人は、黒を基調とした地味な服を着ていたけれど、昨日見たばかりだし、見間違いはない。そこにいたのは、テオドアだった。
(何でテオドアが、こんなところに?)
多分、相手も同じことを思ったに違いない。お互い、その場から動けず、膠着状態に陥る。
私は硬直したまま「ここは、何も見なかったふりをして、店を出るべきだろうか」と、そんなことを考えていると、
「あー、いらっしゃい。待っていたよ」
と、私たちの間に漂う緊張感を全く意に介さない、のんびりした声がカウンターの奥から聞こえてきた。店主の声である。
少しして、店長がのっそりと奥の部屋から顔を出す。その姿を認めた私は、カウンターへと駆け寄り、すかさず問いかける。
「これは、どういうこと!?」
「これは一体、どういうことなんだ!?」
テオドアも同じことを考えていたらしく、私たちは、ほぼ同時に店主に詰め寄った。というより、私よりテオドアの剣幕の方が強い。
そんな私たちの様子を見ても、店主は怯むことなく、
「まあまあ、落ち着いて」
なんて悠長なことを口ずさむ。そのまま私たちの間をすいーっと通り過ぎると、不用心だから、と言いながら入り口の施錠をした。
そして再び私たちの元へ、飄々とした様子で戻ってくる。そんな店主に、テオドアが、イラッとした様子で、詰め寄った。
「で? どういうつもりだ、と聞きたいんだが??」
「まあまあ」
宥めるよう店主はそう言った後、ニヤリと笑って、こう告げた。
「どっちもお得意さんで、訳ありだからな。そろそろ知り合いになってもいい頃だと思ったんだよ。で、ちょっとお節介を焼いてみたわけだ」
と。




