其の12
そう、私はその時に学んだのだ。
私の持ち物を一切、義母やメラニーに触れさせてはならないのだと。
なお、母の形見には、相応の価値があったらしい。
私は、その髪飾りを手放す代わりに、宝石の真贋、善し悪しを判断する目を養った。最初は迷惑そうにしていた店主も、真剣に通い詰める私に次第に情でも移ったのか、色々なことを教えてくれるようになった。
たとえば、この店が取り扱っている商売の一つに、イミテーションの作成があることなどだ。
実は、店内に飾ってある宝石のほとんどはイミテーションだったのだ。
いや、本当。もぐりの店なのに、すごく精巧なイミテーションを作るのよね。こうして見る目を鍛えてみれば、義母がすり替えた偽物が、いかに粗悪なものだったのかが分かる。
そういうわけで、ちょっとだけ宝石にうるさい私なのだけど、クラウディアの指輪を見た時、直感的に、こう思ってしまったのだ。
あれは偽物っぽいって。
もちろん、しっかりと鑑定用のレンズを使って見たわけじゃないから、絶対とは言えない。だけど、結構、直感って大事なのだ。
……というか。
私は、父から貰ったプレゼントを換金するために、通い慣れたこの宝石店の門をくぐり、そしてケースに並ぶ指輪をじっと観察する。
(やっぱり、ここの店主のイミテーションに似てるのだけど)
偽物だけど精巧にして緻密。限りなく誠実に本物を模した作品。それが、この店が手がけるイミテーションだ。恐らく相当宝石に詳しくないと、見分けるのは難しいだろう。
(その分、結構お値段もするけれど)
それでも本物の宝石と比べれば安いものだ。
惚れ惚れとショーケースの宝石もどきを眺めていると、私が持ち込んだ品物の鑑定作業をしていた店主が、不意に声をかけてきた。
「そう言えばお嬢ちゃん、ゲラルド家の三男と婚約の話があるらしいじゃないか」
一気に現実に引き戻される。
(え? こんな市井にまで情報が流れているの?)
その時の私は、さぞかし絶望的な表情をしていたのだろう。店主が慌てて首を横に振った。
「いやいや、特殊なツテから聞いた話だ」
それは、どんな特殊なツテなのか。結構、闇の世界みたいなのに顔が利きそうなところが、ちょっと怖い。
とにかく私は、今更とは思いつつも、一応釘を刺しておく。
「お願いですから、広めないでくださいね?」
「分かってるよ」
店主は軽く肩をすくめながら、そう返事した後、ふと真顔に戻った。そして小さく頭を左右に振って、
「この宝石の鑑定のことなんだが、もう少し時間をくれないか」
と切り出した。
(今まで、鑑定にそんな時間がかかったことはないのだけど)
と不審に思うところだが、
「三日後に来てくれ」
と店主に言われれば、否やとは言えなかった。
ちなみに。
換金した現金は、そのままこの店に預けている。
何度か買い取りをお願いしているうちに、店主がこう持ちかけてきたのだ。
「家に金目のものを置いておくのは危ないんじゃないか?」
と。そして、こう続ける。
「いや、お嬢ちゃんと似たような境遇の奴を知っていてな。家に置いていた、なけなしのへそくりを、根こそぎ家人に盗まれたことがあるらしい。そいつがお嬢ちゃんの様子をちらと見て、心配になったんだとよ」
どうやら店主の知り合いが、せっせと換金に勤しむ私を「訳あり」と見て、忠告をしてくれたらしい。
確かにあの家は危険に満ち溢れており、そのアドバイスは、とてもありがたいものだったので、
「じゃあ、どこかに預けないとね」
と言うと、店主が、
「うちも預かり業、してるよ」
とにこやかに笑った。業、と言ったのなら、お代はしっかり取るということだ。
ちゃっかりしている。
……本当に知り合いのアドバイスだったのかしら?
でも、私にとって店主は信頼に値する人だった。商売人として誠実なので、私はこの店の地下金庫にお金を預けることにしたのだった。
何にせよ。
私は、ここの店主に頭が上がらないので、三日後に再度店を訪れることにして、立ち去った。




