其の11
翌日。
私は、父から貰った装飾品を、厳重に鞄に仕舞い、一人で街へと繰り出した。
人通りも多く、賑やかな城下町。お洒落なお店が立ち並び、華やかさを演出している。
しかしーー。
私は周囲の華やぎに目をくれることもなく、一心不乱に目的地を目指す。
その店は、街の端っこに、ひっそりと佇んでいた。看板などはなく、知らない人が見れば、ただの古びた民家かと思うくらいの、質素な様子である。
窓はあるんだけど、蔦がびっしり張り付いていて、中の造りを窺うことはできない。
ここは、いわゆる「換金屋」だ。つまり、宝石などの貴金属を買い取ってくれるお店である。
この街で、最もレートが良い店なんだけれど、実は国から取得する必要がある金融許可を取っていないらしい。つまりもぐりの商売ということだ。
そういうわけで、
何も知らない通行人に、うっかり中に入られたとしても、ただの宝石屋さんにしか見えないよう、工夫されてあるのだ。
私は大きく息を吸う。いつも家族から完全に放置されている私は、普段から一人で出かけたりしているのだけれど、こういう闇取引をしている怪しいお店に一人で乗り込むのは、やはり緊張する。
意を決して戸を開けると、カランカランとドアベルが鳴った。
少し薄暗い、寂れた宝石屋のていをした店内。私の他に客はいない。ショーケースに並べられた装飾品も、どこか流行遅れのデザインのものばかりだ。
(埃かぶってるし)
そんな風に辺りを見回しながらも、私は目的の場所へと一直線に進む。奥にある接客用のカウンターの向こう側に、丸眼鏡をした店主が、こちらを値踏みするように見つめていた。
眼鏡の奥から、細目だけど鋭い視線が窺える。
だけど私は、決して怖じ気づくことはない。こういう場所で、おどおどしていたら、足下を見られるだけだ。
「こんにちは」
私は優雅に一礼して挨拶する。すると店主はにこり、と笑って、
「いらっしゃい。お嬢さんのお眼鏡に適うものはあるかな?」
と応じた。私が、この店の「本当の客」かどうかを見定めようとしているのだろう。だから私は、バッグの中に入れてきた宝石箱をすっと取り出した。
「よろしくお願いします」
おどおどせず、あくまでスマートに。青いベルベット生地で装飾された宝石箱を、机の上に置いた。
私が、この店の本来の客だと確信しただろう店主は、少しずれていた眼鏡の位置を直し、白手袋をはめる。そして慎重な手つきで箱を開けた。
「……」
一秒、二秒、三秒。
時計の秒針がカチコチと刻を刻む音が、静かな店内に響く。店主の邪魔にならないよう、静かに、しかし固唾を呑んで見守っていると、やがて店主は一度ふう、と息をつき、そして言った。
「お嬢さん。残念ながら、ちょっとこれには値段を付けられないね」
と。
その瞬間、私の頭は真っ白になった。
値が付けられない。それの持つ意味は二つ。高価すぎて値が付けられないのか、駄物すぎて一円にもならないか。そして店主の口ぶりは、明らかに後者だった。
しかし、納得がいかない。
「ど、どうして?」
だって、これは父が私にプレゼントしてくれたものだ。義母が買ったものではないのだから、ちゃんとしたもののはずだ。
しかし、現実は無情だ。
「これは偽物だからだ」
そう店主は言い切った。
一方で、そんな馬鹿な、と私が思うのは当然だろう。父が私に偽物の宝石を与える理由など、どこにもない。ならば、一体どういうことか。
(すり替えられた……?)
その結論に辿り着くまでに、さしたる時間は要しなかった。ブレスレットを義母に手渡した時。あの時に、偽物にすり替えられたのだ。
周到にイミテーションまで用意して、手品師もびっくりの手際だ。
(やられた)
呆けた顔で突っ立っていた私に、店主が更に追い討ちをかけてきた。
「イミテーションにしても粗雑だな」
「そ、そうなんですか?」
全然分からなかった。というか、偽物の方も、それなりにキラキラ輝いていて、今でも綺麗なように見える。
「正直なところ、ルーペで見るまでもない。……まあ、素人のお嬢さんが見極めるのは難しいかもな」
なんとも言えないフォローである。そして白けた目で私を見つめている。
このままだと、私は単なる、偽物を持ってきたろくでもない客だ。店主からの信用を失って、出入り禁止になってしまう。
(……)
私は髪に手をやった。そして無言のまま、引き抜いた母の形見の髪飾りを机の上に置いた。これは肌身離さず身につけていたものだから、本物であることに間違いはない。その証拠に、髪飾りを見た店主の目がきらりと光った。
「これは……なかなか良いものだね、本当にいいのかい?」
対して、私はにこりと余裕を装って微笑む。
「いえ、換金はしません」
私の言葉に、少し不審げに眉を上げた店主に向けて、こう続けた。
「この価値と引き替えに、私の審美眼を鍛えてください」
と。




