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その婚約、断固拒否します  作者: しののめ


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11/21

其の11

 翌日。

 私は、父から貰った装飾品を、厳重に鞄に仕舞い、一人で街へと繰り出した。

 人通りも多く、賑やかな城下町。お洒落なお店が立ち並び、華やかさを演出している。

 しかしーー。

 私は周囲の華やぎに目をくれることもなく、一心不乱に目的地を目指す。


 その店は、街の端っこに、ひっそりと佇んでいた。看板などはなく、知らない人が見れば、ただの古びた民家かと思うくらいの、質素な様子である。

 窓はあるんだけど、蔦がびっしり張り付いていて、中の造りを窺うことはできない。


 ここは、いわゆる「換金屋」だ。つまり、宝石などの貴金属を買い取ってくれるお店である。

 この街で、最もレートが良い店なんだけれど、実は国から取得する必要がある金融許可を取っていないらしい。つまりもぐりの商売ということだ。

 そういうわけで、

 何も知らない通行人に、うっかり中に入られたとしても、ただの宝石屋さんにしか見えないよう、工夫されてあるのだ。

 私は大きく息を吸う。いつも家族から完全に放置されている私は、普段から一人で出かけたりしているのだけれど、こういう闇取引をしている怪しいお店に一人で乗り込むのは、やはり緊張する。

 意を決して戸を開けると、カランカランとドアベルが鳴った。

 少し薄暗い、寂れた宝石屋のていをした店内。私の他に客はいない。ショーケースに並べられた装飾品も、どこか流行遅れのデザインのものばかりだ。


(埃かぶってるし)


 そんな風に辺りを見回しながらも、私は目的の場所へと一直線に進む。奥にある接客用のカウンターの向こう側に、丸眼鏡をした店主が、こちらを値踏みするように見つめていた。

 眼鏡の奥から、細目だけど鋭い視線が窺える。

 だけど私は、決して怖じ気づくことはない。こういう場所で、おどおどしていたら、足下を見られるだけだ。


「こんにちは」


 私は優雅に一礼して挨拶する。すると店主はにこり、と笑って、


「いらっしゃい。お嬢さんのお眼鏡に適うものはあるかな?」


と応じた。私が、この店の「本当の客」かどうかを見定めようとしているのだろう。だから私は、バッグの中に入れてきた宝石箱をすっと取り出した。


「よろしくお願いします」


 おどおどせず、あくまでスマートに。青いベルベット生地で装飾された宝石箱を、机の上に置いた。

 私が、この店の本来の客だと確信しただろう店主は、少しずれていた眼鏡の位置を直し、白手袋をはめる。そして慎重な手つきで箱を開けた。


「……」


 一秒、二秒、三秒。

 時計の秒針がカチコチと刻を刻む音が、静かな店内に響く。店主の邪魔にならないよう、静かに、しかし固唾を呑んで見守っていると、やがて店主は一度ふう、と息をつき、そして言った。


「お嬢さん。残念ながら、ちょっとこれには値段を付けられないね」


と。

 その瞬間、私の頭は真っ白になった。

 値が付けられない。それの持つ意味は二つ。高価すぎて値が付けられないのか、駄物すぎて一円にもならないか。そして店主の口ぶりは、明らかに後者だった。

 しかし、納得がいかない。


「ど、どうして?」


 だって、これは父が私にプレゼントしてくれたものだ。義母が買ったものではないのだから、ちゃんとしたもののはずだ。

 しかし、現実は無情だ。


「これは偽物だからだ」


 そう店主は言い切った。

一方で、そんな馬鹿な、と私が思うのは当然だろう。父が私に偽物の宝石を与える理由など、どこにもない。ならば、一体どういうことか。


(すり替えられた……?)


 その結論に辿り着くまでに、さしたる時間は要しなかった。ブレスレットを義母に手渡した時。あの時に、偽物にすり替えられたのだ。

 周到にイミテーションまで用意して、手品師もびっくりの手際だ。

 

(やられた)


 呆けた顔で突っ立っていた私に、店主が更に追い討ちをかけてきた。


「イミテーションにしても粗雑だな」

「そ、そうなんですか?」


 全然分からなかった。というか、偽物の方も、それなりにキラキラ輝いていて、今でも綺麗なように見える。


「正直なところ、ルーペで見るまでもない。……まあ、素人のお嬢さんが見極めるのは難しいかもな」


 なんとも言えないフォローである。そして白けた目で私を見つめている。

 このままだと、私は単なる、偽物を持ってきたろくでもない客だ。店主からの信用を失って、出入り禁止になってしまう。


(……)


 私は髪に手をやった。そして無言のまま、引き抜いた母の形見の髪飾りを机の上に置いた。これは肌身離さず身につけていたものだから、本物であることに間違いはない。その証拠に、髪飾りを見た店主の目がきらりと光った。


「これは……なかなか良いものだね、本当にいいのかい?」


 対して、私はにこりと余裕を装って微笑む。


「いえ、換金はしません」


 私の言葉に、少し不審げに眉を上げた店主に向けて、こう続けた。


「この価値と引き替えに、私の審美眼を鍛えてください」


と。

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