エピローグ「課金が足りない人生だけど、悪くない」
それから、何年かが過ぎた。
ジルベールとミリアは無事に結ばれた。園芸好きの王子と、それを楽しそうに聞くお妃様。王宮の薔薇園は今も、二人の手で、見事に咲き誇っている。
セレスティアは姉と再会した。長い抱擁のあと、二人は、よく笑うようになった。彼女は今、「断罪された令嬢たちの居場所」を作る活動を始めている。
そして、私とロロは——相変わらず、一緒にいる。
令嬢と侍女という関係は、もうあってないようなものだ。前世の話を好きなだけして、くだらない言い争いをして、同じお菓子を半分こする。
ちなみに、あのメイド長の「中の人」発言の真相は、いまだに聞けていない。たぶんこの世界、転生者は私たちだけじゃないのだ。——みんな、口が裂けても言わないだけで。
ある日の午後。
私たちは庭のテーブルでお茶を飲んでいた。ロロお手製の、あのカスタード焼き菓子をつまみながら。
「ねえ、ロロ」
「はい?」
「前世さ、もっと課金しとけばよかったなって、今でも思う?」
ロロはお菓子を、ひとつ口に放り込んで空を見上げた。
「うーん。どうですかね」
それから、にっと笑った。
「課金が足りない人生でしたけど。——こっちの人生は、わりと悪くないですよ」
私も空を見上げる。
よく晴れた、青い空。あたたかい風。隣で笑う、いちばんの理解者。
課金は足りなかった。推しのために溶かしたお金は戻ってこない。前世は何かが足りない人生だった。
でも。
今の私には足りているものがたくさんある。
「うん」と、私は頷いた。
「悪くない。すごく、悪くない」
紅茶をひと口。
もう、吹いたりはしない。隠すことなんて、何もないのだから。
——おわり




