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アウトサイダー  作者: 君島極
第一章:灯が消えない場所 | 第一節:灯るもの
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第9話:才能の片鱗

――焔が去ったあとの居間


玄関の戸が閉まる音が、家の中へゆっくり溶けていく。


それでも、さっきまで居た焔の笑い声だけは、まだ居間の空気へ薄く残っていた。


熱気が少しずつ引き、部屋の空気がひと呼吸ぶん軽くなる。


彰は、さっきまでの位置を動かなかった。


手の中へ残った温度だけが、遅れて抜けていく。


誠は一度、周りを見渡し、『インサイダー・クエスト』のケースへ手を伸ばす。


「じゃあ、ゲーム、ちょっとだけやってみるか?」


「ほんとに!? いいの!?」


彰はその場で足の位置を寄せた。


「“ちょっとだけ”だ。拓也さんたちもいるんだからな」


「私は構いませんよ。ちょっと見てみたいかな」


拓也はテレビへ目を向け、顎に手を当てた。


「お父さん、またまじめな顔してる」


陽菜がじとっと見上げる。


「いやいや、ちょっと興味があってね」


居間のテレビの前に、みんなが集まる。


誠が膝をついて、床に広がるケーブルを一本ずつ整えていく。


線をテレビ台の裏へ押し込み、軽く引いて確かめた。


Z-FORCE本体がテレビの前へ置かれ、モーションコントローラーが認識される。


電子音と一緒に、白いランプが小さく光った。


「おお……本物だ……」


タイトル画面が立ち上がり、焔に似たヒーローのシルエットがテレビへ浮かび上がる。


《インサイダー・クエスト ~滅亡の街を守れ~》


「うわ、すごい!」


陽菜が笑いながらテレビの前へ身を乗り出した。


「前出んなって、見えないだろ」


凱が肩へ手をかけ、少し後ろへ引き戻す。


彰は黙ったまま、コントローラーを両手で包んでいた。


掌へ収まる重さが、やけに“本物”に感じる。


「今日はオフラインな」


誠が設定を切り替えながら言った。


「名前、どうする?」


凱が横から覗き込む。


「……“アキ”でいい」


「シンプル!」


陽菜が笑い、そのまま肩を寄せて画面を覗き込んだ。


次の瞬間、画面へいくつもの武器アイコンが並んだ。


剣や杖、銃のシルエットが順番に流れる。


その中で、彰の視線だけがガントレットで止まった。


「わ、武器えらべるんだ……」


視線がガントレットのアイコンで止まる。


「アキなら、これだろ」


凱がガントレットを指さした。


両腕へごつい手甲をはめたヒーローが、画面の中で構えている。


「殴るやつ。お前っぽいだろ」


「……たしかに!」


彰は迷わずガントレットを選んだ。


選択した瞬間、ヒーローの腕が光を帯びる。


そのままゲームが始まった。


画面の街を、ガントレットのヒーローが走っていく。


彰はコントローラーを握ったまま、その動きを目で追った。


次の瞬間、敵の影へ薄い“予兆”が浮かぶ。


肩が先に動いた。


コントローラーを前へ突き出す。


画面の拳がちょうどいい角度で突き刺さり、敵の影がふっと散った。


「……今の、いけた」


思わず口から漏れ、自分で驚く。


次の敵影が現れる。


避けるように身体を傾け、そのまま打ち込む。


仲間の位置まで自然に目へ入り、次の動きへ迷わず繋がっていく。


「このコントローラー、こうやって振るんだぞ」


凱が横からアドバイスした。


彰がコントローラーを前へ突き出すように振ると、それに合わせて画面の拳も鋭く前へ伸びる。


横へ払えばフック。


下から振り上げればアッパー。


手首を弾いた瞬間、連続のジャブが画面いっぱいへ走った。


「おお……」


誠が画面を見たまま、小さく頷く。


彰はコントローラーを握ったまま、瞬きも忘れて画面を追っていた。


端へ現れた敵影に予兆が重なる。


その動きへ合わせるように進路を切り替え、親指でスキルを押し分けながら、手首のスナップだけで拳の角度と距離を変えていく。


「やるじゃん、アキ!」


凱が笑う。


「えへへ……!」


彰も照れたように笑った。


そのまま一ステージ目をクリアする。


画面へ《Sランククリア》の文字が浮かび、陽菜が「うわっ!」と声を上げた。


「ねぇ、これ本当に初めて?」


雪が驚いたように身を乗り出す。


画面と彰の手元を、何度も見比べていた。


「……こうかなって思うと、手が動くんだよね」


彰はコントローラーを握り直す。


その横で、拓也が腕を組んだまま画面を見つめていた。


「反応も判断も、いいね」


ぽつりと落ちた声に、彰は思わず拓也の方を見た。


「さすが、巌さんの孫ってところかな」


巌は手を振った。


「ゲームの腕は、わしの指導範囲外だ」


「じゃあ、才能ですね」


拓也はいつもの調子で微笑む。


彰は少しだけ顎を引き、口元を緩めた。


テレビの白い光が床へ伸び、コントローラーの小さな振動だけが、まだ手のひらへ残っている。


彰は無意識に手首のミサンガを押さえた。


指先へ触れた結び目の感触が、そのまま静かに残る。


画面の《Sランククリア》だけが、まだ目の前に残っていた。



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