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アウトサイダー  作者: 君島極
第二章:噛み合わない世界 | 第三節:戻る場所と、未来への誓い
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第4話:ひとりの背中、誰かの祈り

――数日後・放課後/インサイダー養成学校・中等部・中庭


午後の光が、少しずつ角度を変えていく。


伸びた校舎の影が石畳へ落ち、風に揺れた葉の隙間から、金色の光が細かくこぼれていた。


その光の中に――今日も、アキがいる。


木刀を握る腕。


踏み込みと一緒に振り下ろされるたび、空気が鋭く裂けた。


汗が頬を伝い、夕陽に照らされながら静かに消えていく。


背中は真っすぐだった。


けれど、その真っすぐさの奥に、どこか無理を押している気配が残っていて……どうしても視線を逸らせなかった。


「……アキ」


声に出したら届いてしまいそうで、私は喉の奥だけで小さく名前を転がす。


アキは、ずっと頑張っていた。


あの日、震えながらも私の前へ立ってくれた、あの時のままで。


なのに周りの人たちは知らない。


模擬戦の結果だけを見て、「落ちこぼれだ」と勝手に決めつける。


(そんなわけ、ないのに)


雑な言葉が飛ぶたび、アキは肩をわずかに強張らせていた。


それでも、今のアキは前みたいな“折れそうな背中”じゃない。


何がきっかけで変わったのかはわからない。


でも、表情は前よりずっと強くて、ちゃんと前を向いている。


中庭で振る木刀の軌跡さえ、前より迷いがなかった。


その変化を見るたび、胸の奥が淡く揺れる。


呼吸が少し浅くなって、気づけば肩に力が入っていた。


風が袖口を抜け、遅れて頬をかすめていく。


(アキは、ひとりで全部抱え込みすぎだよ……)


本当は、もっと近くへ行きたかった。


「無茶しないで」って、ちゃんと正面から言いたかった。


けれど、声をかけようとしても、最初の一言が出てこなかった。


私は足を止めたまま、視線だけをアキの背中へ向けていた。


そんな自分が、少しもどかしい。


草の上で靴先がわずかに動く。


踏まれた葉が、擦れるような音を返した。


その音を聞いた途端、昔の記憶が胸の奥へ浮かび上がる。


まだ私たちが小学生だった頃。


あの日のあと、私はひとつだけ強く決めたことがある。


――アキの隣にいたい。


怖い時も、嬉しい時も、泣いた夜も。


ずっと隣で同じ景色を見て、同じ道を歩いていたかった。


毎日一緒に笑える未来を、あの頃の私は疑いもしないまま信じていた。


それだけが、当時の私にとって一番はっきりした“夢”だった。


だから私は、中等部でインサイダー養成学校へ進むことを決めた。


才能があるとか。


向いているとか。


そんな理由じゃない。


ただ――アキと同じ歩幅で進める道を、迷わず選びたかった。


「……はぁっ……」


木刀を振り下ろしたアキの息が、中庭へ小さく響く。


夕陽を受けた横顔には疲労も滲んでいる。


それでも、あの日よりずっと明るかった。


最近のアキは、前みたいに私から目を逸らさなくなった。


話しかければ、ちゃんとこちらを向いてくれる。


今日だって、お菓子を渡したら一緒にベンチへ座って食べてくれた。


『……うまいよ。ありがとな』


あの時の笑顔を思い出した瞬間、胸の奥へじんわり熱が広がる。


(アキ……変わったね)


前みたいに自分を追い詰めるためじゃなく、ちゃんと“強くなりたい”って思いながら剣を振っている。


その変化は、苦しさじゃなく希望として胸へ残っていた。


私は制服の上から、そっと胸元へ手を重ねる。


「アキは、負けない人だよ……」


誰にも聞こえない声で呟く。


夕陽の色が、視界の奥でやわらかく揺れた。


胸の中には、まだ言えていない言葉がたくさん残っている。


――一緒に頑張ろう。

――そばにいるよ。

――あなたは、私の“最初のヒーロー”だから。


でも、今はまだ言えない。


喉の奥で、言葉になる前の息だけが静かにほどけていく。


だから私は、もう少しだけこの場所へ留まることを選んだ。


新しい一歩を踏み出す、アキの背中を。


前より強くなった眼差しを。


ひたむきに振る木刀の音を。


全部、ちゃんと近くで見ていたかった。


「大丈夫。ここにいるから」


誰にも聞こえない声で呟きながら、私はその背中から目を逸らさない。


夕暮れの光が、二人の影を長く伸ばしていく。


校舎の向こうから、掛け声がかすかに届いた。


その背中は、まだ形にならない未来へ続く、小さな道標みたいに見えた。


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