↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウトサイダー  作者: 君島極
第二章:噛み合わない世界 | 第一節:違和感のある教室
53/76

第3話:春風のテーブル、はじまりの時間

学校を出ると、春の風が制服の裾を揺らした。


そのまま駅前へ向かって歩いていく。


「さて、どうする?」


玲奈が周囲を見回しながら口を開く。


「この人数だし、予約できるお店の方が良さそうね」


雪がスマートフォンを取り出し、慣れた手つきで画面を操作し始めた。


「この辺だと……あ、《コアズ・コーヒー》空いてるみたい」


画面を皆へ向ける。


「カフェなんだけど、ハンバーガーとかパンケーキも食べられるって」


画面には、大きなバーガーや分厚いパンケーキが映っていた。


「うわ、うまそー!」


凱が真っ先に食いつく。


「この生クリームやばくね!? アキ見ろよ!」


「え、マジ?」


彰も思わず画面を覗き込む。


「ほんとだ……」


陽菜も横から顔を寄せた。


「見せて見せて! ……わ、すごっ! ここがいい!」


玲奈がくすっと笑う。


「雪ちゃん、ほんと慣れてるわねぇ」


「ねー。手際良すぎる」


美咲も感心したように頷いた。


誠は腕を組んだまま、小さく頷いた。


「……頼もしいな」


拓也はその横で吹き出した。


「昔からこういうの得意なんですよ、雪」


「もう、変なこと言わないで」


雪は少し照れながらも、そのまま予約画面を操作していく。


「よし、取れた。歩いて行ける距離だから、そのまま向かおっか」


そのまま一行は駅の反対側へ向かって歩き出した。


休日の街はどこか穏やかで、春の風が吹き抜けるたび、ガラス張りの店舗へ昼の光がきらりと反射している。


しばらく進んだところで、玲奈が前を指差した。


「あっ、あそこじゃない?」


「あ、ほんとだ」


雪も頷く。


木目調の外観と大きなガラス窓が目に入り、《CORES COFFEE》のロゴが柔らかい光を受けて静かに浮かび上がっていた。


「うおっ、行くぞアキ!」


凱が勢いよく走り出す。


「お、おい待てって!」


彰もつられるように駆け出した。


その様子を見て、誠が呆れたように息を吐く。


「……あいつら」


けれど口元は少し笑っていた。


陽菜も肩を揺らす。


「二人とも、ほんと子どもだね」


やがて店の入口へ着くと、扉を開いた瞬間、落ち着いたコーヒーの香りがふわりと広がった。


木目調の内装へ暖色の照明が落ち、窓際には大きな観葉植物まで置かれている。


「予約していた虹咲です」


雪が受付へ声をかけると、店員がすぐに笑顔で案内してくれた。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


通されたのは、窓際の大きなソファー席だった。


八人でも余裕のある広さだ。


「わぁ、いい場所ね」


美咲が嬉しそうに周囲を見回す。


「ほんとねぇ」


玲奈も笑いながら頷いた。


全員が席へ座ると、水が運ばれてきた。


テーブルにはブック型のメニューも置かれているが、注文はタブレット端末から行う形式らしい。


「お、すげぇ」


凱が真っ先にタブレットを手に取った。


「俺ハンバーガーだな。このダブルのやつ」


さらに画面をスクロールする。


「うわ、このクラフトレモンソーダもうまそう!」


一方、大人たちはブック型メニューを広げていた。


「んー……どうしようかしら」


美咲がブックメニューをめくりながら悩む。


「このエッグベネディクトも気になるし……ハンバーガーも美味しそうなのよねぇ」


その横で、誠は黙ったままメニューを眺めていた。


しばらく悩んだあと、美咲が小さく頷く。


「……よし、私はエッグベネディクトにするわ」


玲奈と雪はロコモコを選び、拓也もハンバーグプレートを注文していく。


入力を終えた拓也が、「はい」と誠へタブレットを渡した。


誠は何も言わずそれを受け取り、そのまま自分の分と一緒に注文を入力する。


その横では、陽菜と彰がブックメニューを並んで覗き込んでいた。


「うぅ……どうしよう」


陽菜が真剣な顔でパンケーキページを見つめる。


「まだ決まんねぇの?」


凱が笑った。


「だってぇ……期間限定のも気になるし……」


陽菜はうなりながらページを行ったり来たりしている。


その様子を見ながら、彰は誠から受け取ったタブレットを手元へ置いたまま待っていた。


しばらくして、陽菜がぱっと顔を上げる。


「……よし! これ!」


選んだのは、クリームブリュレのパンケーキだった。


「決まった?」


「うん!」


彰は頷き、そのままタブレットへ注文を入力していく。


そして最後に、陽菜がさっきまで迷っていた“バナナホイップパンケーキ”も、何気ない動作で追加した。


しばらくすると、料理が次々とテーブルへ運ばれてくる。


ハンバーガーやロコモコ、エッグベネディクトにクラフトドリンクまで並び、テーブルの上は一気に賑やかになった。


凱が早速バーガーへかぶりつく。


「うまっ! 肉やば!」


「ちょっと、落ち着いて食べなさい」


玲奈が呆れたように息を吐いた。


誠は自分のバーガーを半分に切り、そのまま美咲の皿へ置く。


「え、いいの?」


美咲が嬉しそうに笑う。


そんな中、陽菜だけが入口側をちらちら見ていた。


「パンケーキ遅いねぇ……」


その時だった。


「お待たせしましたー!」


店員が二つのパンケーキを運んでくる。


「あっ!」


陽菜の顔がぱっと明るくなる。


けれど次の瞬間、その視線が止まった。


「……あれ?」


運ばれてきたのは、クリームブリュレのパンケーキ。


そしてもう一つは、さっきまで自分が迷っていたバナナホイップパンケーキだった。


そのまま店員が、バナナホイップパンケーキを彰の前へ置く。


「……え?」


陽菜の視線が止まった。


「アキ、それ頼んだんだ……」


彰は肩をすくめる。


「うん。うまそうだったから」


そう言いながら、何事もない顔でパンケーキへナイフを入れた。


陽菜も自分のパンケーキを切り始める。


けれど視線だけは、何度も彰の皿へ向いていた。


彰は何も言わないままパンケーキを切り分ける。


それから不意に顔を上げた。


「陽菜。食べる?」


切り分けたパンケーキの皿を、そのまま陽菜の方へ寄せる。


「え!? いいの!?」


陽菜の目が一気に輝いた。


「うん」


陽菜は本気で嬉しそうに笑った。


「ありがとう!」


その様子を見て、凱が身を乗り出す。


「お、それうまそう!」


「食う?」


彰が自然に皿を寄せた。


「マジで? サンキュー!」


凱が嬉しそうに笑う。


その代わりみたいに、今度は凱がポテトを二人の皿へ山盛りで置いた。


気づけば三人で自然にシェアしていた。


その様子を見て、大人たちが揃って笑う。


「仲いいわねぇ」


「ほんとに」


そんな穏やかな空気の中、凱がふと思い出したように口を開いた。


「そういやさ、母さんたちって、どこで知り合ったん?」


「俺と焔と拓也、それに雪が同級生でな」


誠が腕を組みながら続ける。


「ああ、中等部と高等部が一緒だった」


「へぇー!」


陽菜が目を輝かせた。


凱が不思議そうに首を傾げる。


「え、じゃあなんでインサイダーにならなかったんだ?」


その瞬間、誠の表情がほんの少しだけ曇った。


「ああ……まぁ、色々あってな」


短く笑ったものの、その目だけは少し遠い。


彰だけが、その小さな変化へ気づく。


隣では、美咲も静かに誠の横顔を見ていた。


玲奈が空気を和らげるように笑う。


「私は美咲と普通の学校で同級生だったのよ」


「そうそう、昔から仲良かったんだよねぇ」


美咲も笑いながら頷いた。


「そっかぁ……インサイダーにならなくても、みんなずっと繋がってるんだね」


陽菜が感心したように息を漏らす。


その言葉に、大人たちも少しだけ笑った。


「まぁでも、あの頃はほんと騒がしかったよなぁ」


拓也が懐かしそうに笑う。


すると誠が、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば拓也、昔から雪のこと好きだったんだよな」


「うおっ、おい!」


拓也が慌てて吹き出す。


「よく相談に乗ったもんだ」


「あの時は助かったよ、ほんと」


拓也が頭をかきながら笑った。


誠もどこか懐かしそうに息を漏らす。


「いやぁ、みんな仲良しだったな」


すると雪が呆れたようにため息を吐いた。


「よく言うわよ。誠と焔なんて、顔合わせたらすぐ喧嘩だったじゃない」


「仲裁してた私がどれだけ大変だったと思ってるの?」


その言葉に、玲奈まで吹き出す。


そんな昔話が広がる中、食事の時間はあっという間に過ぎていった。


やがてテーブルの上が片付き始める。


「じゃあ、先にまとめて払っちゃうね」


雪が立ち上がり、そのままレジへ向かった。


「あとで送るわー」


玲奈がスマートフォンを取り出す。


「俺も送る」


誠も短く頷いた。


電子決済の通知音が小さく重なり、拓也が苦笑する。


「便利な時代になったよなぁ」


会計を終えると、一行はそのまま店の外へ出た。


外の光は、来た時より少し柔らかくなっている。


そのまま皆で駅へ向かい、帰り道も他愛のない話ばかりが続いていた。


やがて最寄り駅へ着き、最初に凱と玲奈が別れる。


「じゃーな!」


「またね」


続いて陽菜の家の前へ辿り着く。


「今日は楽しかった!」


陽菜が嬉しそうに笑った。


「またね、アキ」


「ああ」


陽菜と別れたあと、彰は誠と美咲と並んで歩く。


しばらくして、誠がぽつりと漏らした。


「……久々に楽しかったな。こうやって大人数で集まるのも」


夜風の中で、少しだけ空を見上げる。


「焔がいなかったのは残念だったが」


「ふふっ、きっと羨ましがるわよ」


美咲が笑った。


それから、ふと彰へ視線を向ける。


「彰、優しいところあるのね」


「……は?」


「陽菜ちゃんのために、あのパンケーキ頼んだんでしょ?」


「ち、違っ……!」


彰が慌てて否定する。


その反応を見て、美咲が吹き出した。


「誠さんそっくり」


「いや、俺はただ美咲のが食いたかっただけだ」


誠まで真顔で言い訳を始める。


「はいはい、そういうことにしときましょ」


美咲が肩を揺らして笑った。


そんな会話を交わしているうちに、龍胆家が見えてくる。


玄関の灯りが、静かな住宅街を淡く照らしていた。


春の風が制服の裾を揺らし、昼間のにぎやかさだけがまだ耳の奥に残っている。


――こうして、入学初日の一日は静かに終わっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。