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アウトサイダー  作者: 君島極
第二章:噛み合わない世界 | 第一節:違和感のある教室
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第2話:春風の教室、始まりの名前

校門を抜けると、まず広場中央に設けられた受付スペースへ案内された。


新二年・三年の先輩たちや教師たちが並び、新入生を順番に迎えている。


制服の袖章が朝の光を受け、淡く反射していた。


「新入生はこちらで受付をお願いします!」


張りのある声が広場へ響き、保護者たちも列へ加わっていく。


書類や案内用紙が次々と手渡され、その流れへ彰たちも並んだ。


受付の机には、校章入りの封筒と厚めの冊子が積まれている。


表紙には、《入学のしおり》の文字。


「提出書類はこちらです。健康診断票と魔力適性事前登録書は、後ほど回収しますね」


先輩がにこやかに説明した。


彰は封筒を受け取り、その重みを指先で確かめる。


(……本当に始まるんだな)


視線を上げると、周囲には同じ制服へ袖を通した新入生たち。


保護者の後ろへ隠れる子もいれば、もう友達同士で笑い合っている子もいる。


受付を終えると、保護者とは一度別行動になる。


「じゃあ、あとで講堂でね」


美咲が手を振った。


「迷子になるなよ」


誠が真顔で言う。


「ならねぇよ」


そのやり取りがおかしくて、彰は思わず笑った。


玲奈や雪たちも保護者席側へ向かい、彰たちは昇降口へ歩き出す。


その先には、大きな電子掲示板が設置されていた。


『クラス分け一覧』


青白い光が並び、名前が次々と表示されている。


「おっ、あった!」


凱が真っ先に掲示板へ身を乗り出した。


その横で、陽菜がぱっと顔を明るくする。


「私、A組だ!」


「えっ、ほんと?」


彰も慌てて掲示板へ視線を向けた。


「……俺もAだ」


自分の名前を見つけ、小さく息を吐く。


その横で、凱が急に真顔になった。


「……俺だけ一人だ」


「えっ、まじかよ」


彰が思わず目を丸くする。


「残念だな。まあ頑張れよ、凱」


「おい、ひでぇな!!」


凱が即座にツッコミを返した。


そのまま掲示板を指差す。


「俺もAだよ!」


陽菜が吹き出した。


「あ、やっぱり! 絶対そうだと思った」


三人の笑い声が、昇降口へ明るく重なった。


案内表示に従って廊下を進む。


行き交う新入生たちの声が反響し、あちこちで同じようにクラス表を見つけた歓声が上がっていた。


やがてA組の教室へ辿り着く。


教室へ入ると、正面の大型モニターへ座席表が映し出されていた。


「おー、近未来って感じだな」


凱が感心したように見上げる。


彰と陽菜、凱の席は少し離れているらしい。


それぞれ自分の席へ向かい、鞄を下ろした。


教室には、まだどこか張りつめた空気が残っていた。


小声で自己紹介をしているグループもいれば、緊張で背筋が伸びきったまま座っている子もいる。


逆に、もう打ち解けて笑い合っている子たちの声も混じり、椅子を引く音と小さなざわめきが教室いっぱいへ広がっていた。


その時、前方の扉が開く。


「はいはーい! みんな席ついてね!」


明るい声と一緒に入ってきたのは、栗色の髪を肩で揺らした若い女性教師だった。


どこか外国の血が混じっているのか、目元の彫りが少し深い。


「今日からA組担任になりました、佐々木マリンです! よろしくね!」


その笑顔に、教室の空気が少しだけ和らぐ。


「そんな固くならなくて大丈夫だからねー? 今日は入学式の流れ確認がメインだから」


マリン先生はモニターを操作しながら、式典での流れを説明していった。


起立のタイミング、礼の角度、返事の仕方、入場順まで、一つずつ丁寧に確認していく。


「名前呼ばれたら元気よく返事! ここ大事だからね!」


「はい!」


教室の返事が、少しだけ揃った。


「よし、いい感じ!」


マリン先生が笑う。


その空気へ釣られるように、彰も小さく笑った。


やがてマリン先生が手を叩く。


「じゃあ、そろそろ講堂へ移動しましょー!」


椅子を引く音が重なり、生徒たちが一斉に立ち上がった。


彰たちも鞄を机の横へ置き、列へ加わる。


廊下へ出ると、他クラスの新入生たちも次々と移動を始めていた。


少しざわついた空気のまま歩き続け、やがて大講堂の入口へ辿り着く。


巨大な扉の前には、すでに長い列ができていた。


列へ並んだ瞬間、急に空気が張りつめた。


凱も珍しく無言だった。


陽菜は胸元で手を握り、小さく呼吸を整えている。


「……なんか緊張してきた」


凱がぼそっと漏らす。


「凱でも緊張するんだ」


彰が吹き出した。


「うるせぇ!」


そのやり取りがおかしくて、陽菜も小さく笑う。


その一方で、彰だけは講堂の奥を見つめていた。


壇上の校章から、なかなか視線が離れない。


やがて講堂の扉がゆっくり開く。


その瞬間、思わず声が漏れた。


「……おお」


広い講堂の中には保護者席が並び、壇上には巨大な校章が掲げられている。


来賓席には、現役インサイダーたちの姿まで見えた。


ざわめきと熱気が空気そのものを震わせ、胸の奥へ重く響いてくる。


(……ここが、インサイダー養成学校)


鼓動が、大きく脈打った。


やがて新入生たちは案内に従って席へ座る。


ざわめいていた講堂が、少しずつ静まり返っていった。


張りつめた空気の中、開式のアナウンスが響く。


――入学式が始まった。


入学式は、思っていたより小学校の式とよく似ていた。


校長の挨拶が続き、来賓祝辞、新入生代表の宣誓へと式は進んでいく。


流れそのものは、これまで経験してきた入学式と大きく変わらない。


けれど、その一つひとつの言葉には、どこか重みがあった。


“命を守る側になる”


その前提が、最初から空気へ含まれている。


彰は真っ直ぐ前を見つめたまま、その言葉を何度も胸の奥へ刻み込んでいた。


(……俺は、ここで強くなる)


壇上の校章をもう一度だけ見上げてから、彰は席を立った。


椅子を引く音が講堂へ重なり、静かだった空気が少しずつ動き始める。


彰たちも列へ加わり、そのまま教室へ向かって歩き出した。


講堂を出た瞬間、凱が小さく顔をしかめる。


「……足しびれた」


そのぼやきに、陽菜が思わず吹き出した。


「ふふっ、ずっと固まってたもんね」


「うるせぇ」


さっきまで張りつめていた空気が、少しだけ緩む。


そんなやり取りを交わしながら、彰たちは再びA組の教室へ戻っていった。


席へ着く頃には、教室の空気もかなり柔らかくなっていた。


「じゃあ、軽く自己紹介いこっか!」


マリン先生が笑いながら言う。


順番に名前と簡単な目標を話していく流れになり、教室のあちこちから緊張した声が上がった。


「獅子堂凱! 将来はSランクインサイダー目指してます!」


「おおー!」


拍手と笑い声が広がる。


「虹咲陽菜です。……人を助けられるインサイダーになりたいです」


少し緊張しながらも、陽菜は最後までしっかり言い切った。


そして彰の番になる。


「龍胆彰です。……俺も、人を守れるインサイダーになりたいと思ってます」


その名前が出た瞬間、教室の空気がわずかに揺れた。


「あ……」

「もしかして、あの龍胆?」


小さなざわめきが広がっていく。


ゴブリン事件で表彰された新入生――その話は、すでに中等部へも少し広まっていた。


彰は向けられる視線を感じながらも、静かに頭を下げる。


教室には、驚きと好奇心が入り混じった空気だけが残っていた。


その後も自己紹介は続き、気づけばホームルームも終わりに近づいていた。


机の上へは大量の教科書が積まれている。


「重っ……!」


鞄へ教科書を詰め込みながら、凱が悲鳴を上げる。


「こんなの毎日持つの!?」


陽菜も目を丸くした。


彰は苦笑しながら教科書を鞄へ詰め込む。


紙の重みが肩へずしりと乗った。


「なお、明日は施設見学だからねー!」


マリン先生が最後に手を振る。


「遅刻しないように!」


教室へ笑い声が広がった。


彰は鞄を背負い直し、何気なく窓の外へ目を向ける。


春の陽射しが校舎の窓へ明るく反射していた。


(……始まったんだな)


肩へ食い込む教科書の重さだけが、妙に現実感を持って残っていた。


やがてホームルームも終わり、生徒たちは次々と教室を後にしていく。


彰たちも教室を出て昇降口へ向かった。


すると、保護者たちが待っていた。


「おっ、いたいた!」


拓也が真っ先に手を振る。


その横で雪も笑顔を向け、美咲と誠、玲奈たちもこちらへ歩み寄ってきた。


「どうだった? 初日」


玲奈が笑いながら聞く。


「思ったより普通だった」


凱が肩をすくめる。


「でも学校、すごかったね!」


陽菜が目を輝かせた。


その様子を見て、玲奈がスマホを取り出す。


「あ、せっかくだし写真撮ってあげる」


「ほらほら、三人並んで!」


彰が目を瞬かせる。


「ありがとうございます!」


凱が「あーはいはい」と笑いながら中央へ立つ。


陽菜も自然に隣へ並び、彰もその横へ立った。


春の風が制服の裾を揺らす。


「はい、こっち見てー」


三人が顔を上げた瞬間、シャッター音が小さく春空へ響いた。


その様子を見て、美咲がふっと笑う。


「じゃあ今日は、みんなでお祝いしに行きましょうか」


「賛成!」


拓也がすぐに声を上げた。


彰たちは顔を見合わせ、そのまま皆で学校をあとにする。


春の風が吹き抜け、真新しい制服の裾を揺らしていった。

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