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アウトサイダー  作者: 君島極
第一章:灯が消えない場所 | 第二節:本物への誓い
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第16話:重なり始めた未来

――翌朝/小学校・教室


窓際の席へ朝日が斜めに差し込み、机の上へ白い四角を作っていた。


昨日まで降っていた雨は止み、校庭の砂だけが朝風にさらさらと流れている。


その明るさとは裏腹に、教室の空気は朝から落ち着かなかった。


「彰来た!」


彰が教室へ入った瞬間、ざわめきが一気に大きくなる。


「昨日めっちゃ惜しかった!」


「あとちょっとだったじゃん!」


ランドセルを置く前から、声が飛んできた。


「Nayuta倒したのやばかったって!」


「準優勝とかすげーじゃん!」


彰は困ったように笑った。


「いや、優勝できなかったし……」


「でも二位だぞ!?」


「配信めっちゃ盛り上がってたし!」


教室の空気は、まだ昨日の熱を引きずっていた。


その中で、石崎も机へ肘をつきながら口を開く。


「……最後、マジ惜しかったな」


悔しそうに頭をかく。


「あとちょっとだったろ、あれ」


「うん……」


彰も小さく頷いた。


石崎が、少し視線を逸らしながら続ける。


「……なあ、次一緒に大会出ねぇ?」


「え?」


彰が目を丸くする。


「お前、普通に強ぇし。 次、もっと上行けそうじゃん」


その瞬間、周りの男子たちが一気に食いついた。


「うわ、それやばくね!?」


「石崎と彰組んだら絶対強いじゃん!」


「優勝いけるだろそれ!」


教室の空気がまた盛り上がる。


彰は少し困ったように笑った。


「いや……俺、インサイダークエストⅡ、しばらく減ると思う」


彰がそう言った瞬間、教室の空気が止まった。


「……え?」


「なんで?」


彰は少し言葉を探してから続ける。


「俺、インサイダーなりたいんだ。だから、そっち頑張ろうかなって」


「マジで?」


男子たちがざわつく。


その横で、凱がすぐ笑った。


「オレも!」


胸を張る。


「オレもインサイダーなるし! アキとコンビ組むからな!」


教室の空気がまたざわめいた。


「うわ、なんかガチじゃん……」


石崎も少し視線を落とす。


「……そっか。インサイダーか」


机へ頬杖をついたまま、ぽつりと続けた。


「俺も考えたことあるけどさ。 親、危ないからダメってうるせーんだよな」


凱が肩をすくめる。


「強くなりゃ大丈夫だろ!」


「雑だなお前……」


彰が思わず笑う。


石崎も苦笑した。


「……でも、また遊ぼうな」


彰も頷く。


「うん。またやろう」


そのあと、先生が教室へ入ってくる。


朝のざわめきは少しずつ授業の空気へ変わっていった。


それでも休み時間になるたび、大会の話題は何度も飛び交った。


「マジであとちょっとだったよな」


「Nayuta倒したのやばかったって」


彰はそのたび、少し照れくさそうに笑うしかなかった。



放課後。


西日に染まった帰り道を、三人で並んで歩く。


住宅街には、夕飯の匂いが少しずつ広がり始めていた。


クラブ活動帰りの生徒たちが遠くで笑い合い、自転車のベルが小さく鳴る。


その中を、彰たちはゆっくり歩いていく。


「なあアキ」


凱が横から笑う。


「オレ、絶対インサイダーなるからな」


「うん、俺も」


彰も頷いた。


「じゃあコンビだな!」


凱が拳を握る。


「負けねぇぞ! オレ、親父より強くなるから!」


「俺もだよ」


彰も笑った。


その横で、陽菜が少し不安そうに口を開く。


「でも、インサイダーって……危ない場所、いっぱい行くんでしょ?」


「たぶん?」


凱はあっさり言った。


「でも強くなったら大丈夫だろ! アキと一緒だし!」


「一人じゃ無理だけど……凱となら、なんとかなる気する」


彰が笑う。


凱はそのまま陽菜へ顔を向けた。


「陽菜は、医者の方行くんだろ? 拓也さんとか雪さんみたいに」


「うん」


陽菜が頷く。


「だから、もし二人が怪我したら治せるようになるね」


「陽菜の治療、なんか怖そうなんだよな」


凱が真顔で言う。


「“あっ、まちがえた!”とか普通に言いそう」


「確かに、ありそう」


彰まで頷いた。


「アキまで!?」


陽菜が頬を膨らませる。


三人の笑い声が、夕方の住宅街へ広がっていった。



――同夜/龍胆家・彰の部屋


部屋の電気を消すと、窓の外の街灯の光が、カーテンの隙間から細く差し込んだ。


布団へ潜り込み、枕へ顔を埋める。


まぶたを閉じると、昨日の光景がゆっくり浮かんでくる。


画面の中のフィールド。


ヘッドセット越しに重なった声。


『右、カバー!』


『今、行ける!』


『Akira、合わせて!』


Windたちと走った前線。


Kainと並んで飛び込んだ瞬間の熱。


高台から通ったShizuの射線と、途切れず重なったMelindaの回復。


五人の動きが噛み合った瞬間の声が、まだ耳の奥へ残っていた。


負けた瞬間、悔しいのに笑ってしまった、あの不思議な感覚。


そして――学校。


「次、一緒に大会出ねぇ?」


石崎の声が浮かぶ。


昨日までとは違う空気が、教室には確かにあった。


凱の「コンビだな!」という声まで、まだ耳の奥へ残っている。


インサイダー。

Sランク。

親父を超える。


夕焼けの帰り道で笑いながら話した未来が、ゆっくり頭の中へ広がっていった。


足裏には、まだあの“一歩”の感触が残っている。


前に出すぎず、それでも届くところまで踏み込んだ瞬間だった。


(楽しかったな)


枕へ顔を埋めたまま、口元だけが少し緩んだ。


壁越しに、外を走る車の音が流れていった。


凱と並んで前へ出る未来。


陽菜が後ろで笑っている光景。


今よりもっと強くなった自分。


そんな景色が、ぼんやり頭の中へ浮かんでいた。


彰は布団の中で、小さく拳を握る。


(……よし)


(もっと頑張るぞ)


そう思ったまま、意識がゆっくり遠のいていく。


そのまま、彰は眠りへ落ちていった。

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