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アウトサイダー  作者: 君島極
第一章:灯が消えない場所 | 第二節:本物への誓い
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第11話:交差する火種

――予選最終戦


《3》


ヘッドセットの奥で、誰かが小さく息を吐く。


《2》


『前線、右』


Windの声。


《1》


AkiraとKainが並んで走り出す。


試合開始と同時に、五人のアバターが市街地マップへ飛び出した。


崩れた高速道路と入り組んだ路地。


遮蔽物だらけのマップを、AVALONはいつもの形で駆け抜けていく。


そのとき、視界の端へ《zakizaki》の名前が映る。


(……速い)


以前より、明らかに動きが鋭かった。


裏取りも、カバーも、引くタイミングまで綺麗に噛み合っている。


『うお、普通に強いな!』


Kainが笑う。


「はいっ!」


Akiraは横へ滑り込み、そのまま石崎の裏を狙った。


《COUNTER》


火花が散る。


互いにステップを刻みながら、攻撃と回避が何度も噛み合った。


一瞬だけ、一騎打ちになる。


けれど決着はつかない。


(……読まれてる)


以前の石崎じゃない。

ちゃんと、チーム戦の動きをしている。


それでも――。


試合全体の流れでは、AVALONが少しずつ押していた。


Windが敵の視線を散らし、高台からShizuの射線が通る。


その間にも、Melindaの支援は途切れない。


KainとAkiraの前線二枚も、さっきまでよりずっと噛み合っていた。


《現在スコア こちら28 / 相手20》


このまま押し切れる――そんな空気が流れ始める。


『このまま押す!』


Kainが前へ出た。


Akiraも横から噛みつき、敵前衛を崩していく。


(行ける――!)


そのとき、ミニマップの動きが変わった。


《zakizaki》が、突然Shizu側へ大きく回り込む。


『Shizu、右!』


Windが叫ぶ。


『見えてる――っ』


Shizuが射線を切る。


けれど、その隙へ別方向から敵前衛が一気に流れ込んだ。


《DOWN》


MelindaのHPバーが一気に赤くなる。


『メル下がって!』


《現在スコア こちら28 / 相手27》


一気に距離を詰められる。


《現在スコア こちら28 / 相手29》


数字が逆転する。


「っ……!」


彰の喉が熱くなる。


(崩された……!)


《zakizaki》が、またShizu側へ動く。


前衛じゃない。


後ろを崩しに来ている。


(うまい……!)


石崎も、試合の中で戦い方を変えてきていた。


『Shizu狙われてる!』


『後ろきつい!』


Melindaの声が飛ぶ。


高台の方へ視線を向けた瞬間、Akiraは地面を蹴っていた。


「俺、止めます!」


Akiraはそのまま《zakizaki》側へ走る。


《COUNTER》


火花が散る。


互いにステップを刻みながら、攻撃と回避が何度も噛み合った。


再び、一騎打ちになる。


(速い……!)


以前より、明らかに強い。


それでも――。


(Shizuの方へ行かせない――!)


Akiraは強引にラインへ身体をねじ込んだ。


《zakizaki》の動きが、一瞬止まる。


その隙に、Shizuが高台を取り直した。


『助かった』


Shizuが短く言う。


けれど次の瞬間、今度は敵前衛がMelinda側へ雪崩れ込む。


『メル狙い来る!』


「っ――!」


Akiraはすぐ横へ滑った。


Melindaへ届くルートへ割り込むみたいに踏み込む。


《1 KILL》


敵前衛が崩れる。


そこへKainが飛び込んだ。


《DOUBLE KILL》


『今だ、押し返す!』


Windの声。


《現在スコア こちら44 / 相手44》


再び同点。


その瞬間、Akiraの視界へ敵後衛まで抜けるルートが映った。


(――行ける)


今なら、そのまま後ろまで届く。


以前の彰なら、迷わず飛び込んでいた。


指が前へ入りかける。


その瞬間。


『前線って、“一人で勝つ場所”じゃない』


Windの声が、頭の奥で重なった。


彰の足が止まる。


「……っ」


視界の中には、Kainの位置も、Shizuの射線も、Melindaの回復範囲も全部見えていた。


一人で行けば、一人は落とせるかもしれない。


でも――。


(……今度は、“みんなで”勝つ)


『Kain、右前!』


Windの声。


「了解です!」


Akiraは、一歩だけ待った。


Kainが飛び出す。


敵の視線が、一気にそちらへ集まる。


(今――!)


Akiraが斜めから滑り込んだ。

Kainと、ぴたり同じタイミング。


《撃破!》

《撃破!》


敵前衛が、一気に崩れる。


『っしゃああああ!!』


Kainが叫ぶ。


そのまま高台からの射線が逃げ道を塞ぎ、Melindaの回復が前線へ重なる。


Windも横からラインへ入り込んだ。


五人の動きが、ひとつの流れみたいに噛み合っていく。


『そのまま押す! この形、完璧だ』


Windの声にも熱が混ざっていた。


敵側の陣形が、一気に崩れる。


《現在スコア こちら47 / 相手44》



「押せる――!」


今度は、一人じゃない。


(行ける……このまま行ける!)


前線が押し込み、その隙をWindが裂く。


逃げ道へ重なったShizuの射線が、敵を逃がさない。


《現在スコア こちら49 / 相手44》


『このまま!!』


Windが叫ぶ。


その瞬間、《zakizaki》が後ろへ下がろうとした。


AkiraとKainの攻撃が、ほとんど同時に重なる。


《撃破》


『よっしゃあ!!』


Kainの声が弾けた。


《WIN》


画面中央へ、勝利表示が浮かび上がる。


Akiraは、しばらくその文字を見つめたまま動けなかった。


(……勝った)


一人じゃなく、五人で勝てた。


画面中央の《WIN》から、なかなか目が離れなかった。


数秒のあいだ、誰もすぐには喋らなかった。


ヘッドセット越しに、荒い呼吸だけが重なる。


『……っはぁー……』


最初に大きく息を吐いたのは、Kainだった。


『マジで疲れた……』


『最後、かなり危なかったね』


Melindaが息を漏らす。


『でも、ちゃんと押し切れた』


Shizuが短く言った。


ロビー画面の中央には、《FINAL TOURNAMENT QUALIFIED》の表示が残っている。


彰は椅子へ背中を預け、小さく息を吐く。


(……行けた)


予選も、石崎との試合も、何度も崩れかけた前線も。


全部を越えて、ちゃんとここまで来れていた。


『Akiraー!』


Kainの声が飛ぶ。


『最後のあれ、めちゃくちゃ良かったぞ!』


「……っ」


彰は小さく笑う。


「みんながいたから、です」


『お、言うようになったじゃん』


Kainが笑った。


『前は絶対、“自分が”って感じだったのに』


「う、うるさいです……」


『でも、ほんと良かった』


Melindaが優しく言う。


『最後、ちゃんと待ててた』


『うん』


Shizuも短く続けた。


『あそこ、一人で行ってたら多分落ちてた』


彰は小さく頷く。


(……待てた)


一人じゃなく、ちゃんとみんなで勝てた。


さっき合わせたKainとの踏み込みが、まだ頭の中へ残っていた。


『……じゃ』


少し間を置いて、Windが言う。


『本戦のトーナメント表、もう出てるよ』


メニューを開く音が重なる。


『……来たな』


Windが噛みしめるように言った。


『明日が、本番か』


Kainがわくわくした声を出す。


『どれ、見てみよう』


彰も画面を切り替えた。


《本戦トーナメント表》


画面いっぱいへ、無機質な白い線が枝分かれして広がる。


その中に、多くのチーム名が並んでいた。


《破軍の矛》


「……」


(さっきの、掲示板の……)


昨日見た、ランキング上位の固定ハンドルネーム。


その横には、《Nayuta》の名前も並んでいた。


『一位と二位、どっちもあそこだな』


Shizuがいつも通りの声で言う。


『ReijiとNayutaか』


Windが続けた。


『上位帯で暴れてるコンビ』


『Nayutaって、あの暴言ひどいってやつ?』


Melindaが少し声を落とす。


『前に野良で味方になったフレンドが、チャットスクショ送ってきてたよ』


その瞬間、彰の頭へ前に言われた言葉がよみがえった。


《お前のせいで、落としただろ》

《味方弱いと勝てねーな》


(……やっぱり、あいつだ)


彰は小さく息を吐いた。


「……Nayutaって人、俺も前に一回だけ当たって。 負けたあとに、“雑魚乙”って言われて」


『は? マジで?』


Kainがすぐ声を上げる。


『性格悪すぎだろ、そいつ』


『うん……そういう話、よく聞く』


Melindaも息を吐いた。


『でも、Akiraのせいだけじゃないでしょ? 五人でやるゲームなんだから』


『そう。ひとりに全部押しつけるのは、ただの責任逃げ』


Shizuが短く言う。


『ま、そういうやつって、負けるとすぐ人のせいにするし』


Kainが続けた。


『当たったら、プレイで黙らせようぜ』


彰は、小さく息を吐く。


肩に残っていた力が、少し抜けていった。


『でもよ』


Kainが続ける。


『今日のオレらの連携、マジで仕上がってたろ。 あいつらがどんだけ強くても、ビビる理由なくね?』


「……はい」


そう思った直後。


ヘッドセット越しに、短い電子音が混じった。


「……え?」


『……Reijiからメッセージだ』


「……Reiji?」


覚えのない名前だった。


その瞬間、Windの呼吸がわずかに止まる。


『……来たか』


「Wind、知り合いですか?」


『昔、ReijiとNayutaと、一緒にやってた』


Windの声が少し低くなる。


『途中から、考え方が合わなくなって……それで別れた』


少し間を置いてから、続ける。


『……今の、貼る』


チャット欄へ、テキストが流れた。


【Reiji】:二日目通過、おめでとう

【Reiji】:噂の“Wind固定”ってやつ、やっと本戦で見られそうだ


一見すると、普通の挨拶だった。


けれど、次の行で空気が変わる。


【Reiji】:野良で“安全圏から”数字だけ稼いでた頃と違って、

【Reiji】:やっと正面の舞台に出てくる気になったんだな


【Reiji】:まあ――俺ら“破軍の矛”相手に、どこまでやれるか見ものだけどな


【Reiji】:明日、当たるのを楽しみにしてるよ

【Reiji】:現実、教えてやるよ


【Reiji】:ま、その前にお前ら負けそうだけどw


「……」


彰は小さく息を止めた。


丁寧な言葉の並びに、ひとつだけ温度の違う棘が混じっていた。


『相変わらず、口だけは上手いな』


Windの息が落ち、次の言葉が短く切れる。


掲示板で煽っていた相手と、あの暴言のプレイヤー。


ReijiとNayutaの名前が、並んで表示されていた。


『Akira』


Windが、ゆっくり名前を呼ぶ。


「はい」


『Reijiが何を言おうと、関係ない』


『俺たちは、俺たちの戦い方をするだけだ』


「……はい」


『ただ――』


回線の向こうが少し静かになる。


『あいつにだけは、負けたくない』


その言葉だけが、強く残った。


彰は《破軍の矛》の文字を見つめる。


その横で光る《Nayuta》の名前も、自然と視界へ入っていた。


『だから、明日も力貸してくれ』


Windの声が届く。


「もちろんです」


彰は迷わず答えた。


ロビー画面のトーナメント表では、《AVALON》と《破軍の矛》の名前が、決勝で交わる位置に表示されている。


ヘッドセットの向こうでは、まだ誰かの小さな呼吸音が重なっていた。


やがて、ロビーBGMだけが静かに残る。


画面の端では、《本戦開始まで:12:00:00》の文字が、淡く点滅していた。

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