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アウトサイダー  作者: 君島極
第一章:灯が消えない場所 | 第二節:本物への誓い
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第5話:繋がった先

――翌週・月曜日/放課後/小学校・教室


窓の外では、細かな雨が校庭を白く煙らせていた。


雨粒が窓ガラスを叩き、灰色の空が校庭をぼんやり滲ませている。


彰はいつもより少し早く教室へ入った。


まだ人もまばらで、濡れたランドセルを机の横へ置き、椅子へ腰を下ろす。


やがて、前の方から男子たちの声が重なり始めていた。


「石崎マジ出んの!?」


「大会?」


「やっば!」


石崎は椅子へ浅く腰掛けたまま、小さく肩をすくめる。


「まあ、知り合いと大会出ることになったわ」


周囲から「うおー!」と声が上がる。


彰は少し離れた窓際の席で、その様子をぼんやり眺めていた。


雨の音だけが、教室のざわめきへ薄く混ざっていた。


そのとき、石崎の近くにいた男子のひとりが彰へ視線を向ける。


「あ、チーター来た」


次の瞬間、周囲から笑い声が上がった。


石崎は少し困ったように笑っていた。


けれど、止めはしない。


笑い声だけが、どこか妙に引っかかった。


彰は視線を落とす。


そのタイミングで、教室の後ろ扉が勢いよく開いた。


「うお、雨やっば!」


凱だった。


その後ろから、陽菜も少し濡れた髪を押さえながら入ってくる。


「凱くん走るからだよ……!」


二人はそのまますぐ彰のところへ来た。


「アキ、どうした?」


凱が眉をひそめる。


彰は小さく笑った。


「……なんでもない」


陽菜は教室の空気を見回してから、そっと彰を見る。


けれど、その場では何も聞かなかった。


その代わりみたいに、陽菜はそのまま彰の近くへ寄る。


「ねえアキ」


「ん?」


「今日、家行っていい?」


凱もすぐ横から身を乗り出した。


「俺も! どうせ雨でどこも行けねーし!」


彰は少し驚いたあと、小さく笑う。


「……いいよ」


その瞬間、凱が「っしゃ!」と拳を握った。



――放課後/龍胆家・彰の部屋


雨音が窓を細かく叩いていた。


部屋の中には、ポテトチップスの匂いとゲーム音が混ざっている。


「うわまたやられたー!」


凱が床へ転がった。


画面の中では、彰のキャラと陽菜のキャラだけがボスの周囲を走り回っている。


「回復! 回復お願い!」


「い、今やってるー!」


陽菜が慌てながらスキルボタンを押した。


《HEAL》


光が広がる。


「おっしゃ行ける!」


彰はそのまま前へ踏み込み、回避を挟みながら連続で攻撃を叩き込む。


ボスゲージが一気に削れ、《CLEAR》の表示が弾けた。


「うおおお!」


凱が勢いよく起き上がる。


「勝ったぁ!!」


陽菜も顔を明るくした。


「やったぁ!」


三人の声が重なる。


今日はランキング戦ではなく、オフラインモード。


画面分割で、三人一緒に遊んでいた。


交代しながら何度もボス戦へ挑み、そのたび部屋の声もどんどん大きくなっていく。


「やっぱアキうまいなぁ……」


凱が素直に呟く。


陽菜もこくこく頷いた。


「そんなことないって」


彰が苦笑する。


その流れのまま、凱がぐっと画面の方へ寄った。


「なあ、ちょっとだけ対戦見せてくれよ!」


「ランキング戦のやつ!」


「えー……」


彰は少し困ったように笑う。


「ちょっとだけ!」


陽菜まで一緒になって彰の方へ寄ってくる。


二人に押されるみたいに、彰はまた苦笑した。


「……少しだけな」


ロビー画面へ戻る。


その瞬間、凱が画面を見て声を上げた。


《5vs5 TEAM TOURNAMENT 開催決定》


「うおっ、大会やるんだ!?」


凱が思わず身を乗り出す。


「もちろんアキも出るんだろ?」


彰は一瞬だけ止まり、それから小さく首を振った。


「いや、出ない」


「え?」


「五人集めないと出れないし」


「あー……そっか」


凱が少し残念そうに頭をかく。


陽菜も「そっかぁ」と小さく頷いた。


そのとき、陽菜の視線が画面隅へ止まる。


《全国ランキング:25位》


「えっ!?」


思わず声が上がった。


「アキ、また上がってる!」


「うお、マジだ!」


凱までモニターの方へ寄ってくる。


「二十五位!? やっば!」


彰は少し照れたみたいに頬をかいた。


「なんか……勝ってたら上がってた」


「意味わかんねぇ!」


凱が笑う。


そのままランキング戦へ入った。


一戦目。


彰の動きは、前よりさらに速くなっていた。


敵の裏へ回り込み、そのままスキルを重ねる。


《DOUBLE KILL》


「うわっ!」


凱が声を上げた。


「アキ、動きヤバくなってね!?」


陽菜も思わず画面へ身を寄せる。


「今のすご……!」


その後も、彰はほとんど負けなかった。


敵の動きを読むみたいに先回りし、気づけばキル数も一番上へ並んでいる。


「え、また勝った!?」


「いやもう普通におかしいって!」


凱の声が何度も重なる。


陽菜もその横で、夢中になったまま画面を見つめていた。


けれど、四戦目でマッチングした名前を見た瞬間、彰の指が止まる。


《Wind》


「……あ」


試合が始まる。


けれど、一対一になった瞬間、彰はほとんど何もできなかった。


速い。


しかも、どこにも隙が見えない。


「うそだろ……」


凱の声が小さくなる。


「アキが勝てねーのか……?」


彰は小さく息を吐いた。


「……上位ランカーの人には、ほとんど勝てないんだ」


陽菜もモニターを見つめたまま、小さく呟く。


「《Wind》……」


そのあと何戦かしたあと、今度は《Nayuta》が敵側へ現れた。


試合は、ほとんど何もできないまま終わった。


終了後、チャット欄へ一言だけ流れる。


『雑魚乙』


「はぁ!?」


凱が机を叩いた。


「なんだこいつ!」


「ランキング二位のやつだ……」


彰が画面を見つめたまま呟く。


陽菜もその横で、小さく眉を下げていた。


「……なにこの人」


雨はまだ降り続いている。


窓の外も、少しずつ夕方の色へ沈み始めていた。


そのころ、廊下の向こうから美咲の声が届く。


「そろそろ帰る時間よー」


「あっ、やべ!」


凱が立ち上がる。


陽菜も慌てて鞄を抱えた。


彰は二人を玄関まで見送る。


「また明日な!」


「……またね、アキ」


扉が閉まる。


さっきまでの声だけが、まだ家の中へ少し残っていた。


その夜、夕食を終えたあと。


彰はもう一度だけ、静かにログインする。


《MATCHING》


プレイヤーネームが次々と並んでいく。


その瞬間、彰の視線が止まった。


《Wind》

《Shizu》

《Melinda》

《Kain》


「……え」


思わず声が漏れる。


しかも今度は、味方側だった。


試合が始まる。


速い。


けれど、今日は置いていかれなかった。


ひとりで追いつこうとしなくても、味方の動きが自然と噛み合う。


彰が少し遅れた場所へ、すぐ味方のカバーが重なる。


取り切れなかった敵へは別方向から追撃が飛び込み、崩れそうになった前線も、もう誰かが埋めていた。


五人の動きが、ひとつの流れみたいに繋がっている。


《現在スコア こちら20 / 相手6》


気づけば、彰も自然にその流れへ混ざれていた。


《NICE》

《gg》


チャット欄へ文字が流れる。


そのまま試合は勝利で終わった。


《WIN》


彰はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。


(……これが、連携)


ロビー画面へ戻った、そのときだった。


通知音が鳴る。


《Friend Request》


《Wind》


フレンド欄へ、初めてひとつだけ名前が追加されていた。


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