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アウトサイダー  作者: 君島極
第一章:灯が消えない場所 | 第二節:本物への誓い
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第2話:ランキングの向こう側

――数週間後・放課後/小学校・教室


終業のチャイムが鳴った瞬間、椅子を引く音が一斉に重なった。


帰り支度を始める音と笑い声が重なり、放課後の空気が教室いっぱいへ流れ込んでくる。


「インサイダークエスト2さ、ランキング何位まで行った?」


誰かがそう言った瞬間、前の席の輪が一気に盛り上がる。


「石崎、今いくつだっけ?」


「……百三十三。zakizakiって名前」


答えた石崎が、少し得意そうに肩をすくめた。


「うわっ、やば!」


「三桁!?」


「あれ上がんのめっちゃ大変なのに!」


男子たちが次々に石崎の机へ集まっていく。


「俺まだ一万三千くらいだぞ……」


「俺八千台から全然上がんねー」


「いや、普通そこらへんだろ!」


声と笑いが一気に重なった。


その真ん中で、石崎はコントローラーを握る真似をしながら笑う。


「まあ、俺こういうの得意だからな」


「くっそ、いいなぁ……!」


「今日また石崎んち行こうぜ!」


「行く行く!」


盛り上がる輪の少し外で、彰は机へ頬杖をついたまま静かにその声を聞いていた。


《85》


昨夜見たランキングの数字だけが、頭の隅へ浮かぶ。


けれど、口には出さなかった。


鉛筆を指で転がし、視線だけを窓の外へ逃がす。


(……別に、言わなくていいか)


騒がれる感じも、少し苦手だった。


そのときだった。


「お、龍胆も来る?」


石崎の周りで騒いでいた男子のひとりが、彰へ振り返る。


「今日、石崎んちでチーム戦やるんだよ!」


「めっちゃ強いぞ、石崎!」


彰は少しだけ目を丸くした。


「え? あー……」


返事を探している横から、凱が勢いよく割り込む。


「行く行く! なあ陽菜も行くだろ?」


「えっ?」


陽菜がぱちぱち瞬きをする。


その空気の変化に合わせるみたいに、石崎の肩がわずかに揺れた。


「……あ、虹咲さんも来る?」


石崎の声が、さっきより少しだけ上ずる。


「その……大人数の方が楽しいし」


周りの男子たちが一斉に石崎を見る。


「え、石崎おま――」


「ち、ちげーし!」


石崎は慌てたみたいに声を上げた。


「別に普通だし!」


「え、うん……」


陽菜は少しだけ驚いた顔をしたあと、小さく笑った。


「じゃあ、お邪魔しようかな」


その返事に、石崎の口元がちょっと緩む。


けれど、すぐにいつもの顔へ戻った。


「まあ、龍胆いなくても勝てるけどな!」


「うわまた石崎始まった!」


男子たちが笑う。


「今日ぜったい勝つし!」


「さっき負けてたじゃん!」


「うるせー!」


陽菜はぱちぱち瞬きをしたあと、彰を見る。


「……アキは?」


彰は少し困ったみたいに笑った。


「俺は今日はいいや。ちょっと用事あるから」


「えー?」


陽菜の肩が、わずかに落ちる。


「アキも行こうよ」


「また今度な」


彰が笑うと、陽菜は少し唇を尖らせた。


「……むぅ」


その横で、凱がぐいっと陽菜の肩を引く。


「ほら行くぞ!」


「わっ、ちょっと凱くん!」


陽菜は引っぱられながらも、何度か後ろを振り返った。


振り向くたび、髪飾りが夕方の光を揺らす。


「……ほんとに来ないの?」


「うん」


彰が手を振る。


陽菜は少し迷うみたいに足を止め、それから小さく頷いた。


「……じゃあ、またあした」


石崎の周りへ集まった男子たちが、そのままわいわい騒ぎながら教室を出ていく。


その後ろへ、陽菜と凱の姿も自然に混ざっていた。


彰はその背中を少し見送ってから、ランドセルを背負う。


騒がしい声が廊下の向こうへ遠ざかっていく。


教室には、夕方の風だけが残っていた。


(……チーム戦、か)


小さく息を吐き、彰も教室をあとにした。



――夜/龍胆家・彰の部屋


家族との夕食を終え、宿題も片付けると、時計の針が夜を回るころには、彰はまた机へ向かっていた。


部屋の灯りを少し落とす。


モニターの青い光が机の縁を淡く照らし、遠くでは美咲たちの話し声と食器の音がまだ続いている。


彰はコントローラーを握り直し、そのままログイン画面を開いた。


《INSIDER QUEST Ⅱ》


ロビーへ入ると、画面隅にはいつものランキング表示が浮かぶ。


《全国ランキング:85位》


彰はその数字を見ながら、椅子へ少し深く腰を預けた。


昼間の教室の声が、まだ少し残っている。


『石崎やば……』

『133位だってよ!』

『チーム戦めっちゃ強いんだぜ!』


(……石崎くん、ほんと強かったな)


視線が、そのままメニュー画面の項目へ止まる。


《5vs5 TEAM BATTLE》


いつものようにカーソルを合わせる。


けれど今日は、昼間とは少しだけ感覚が違っていた。


(……もっと、上手くなりたい)


小さく息を吐き、そのまま決定ボタンを押す。


《MATCHING》


画面が切り替わり、プレイヤーネームが次々と並んでいく。


ぼんやり眺めていた視線が、その名前で止まった。


《zakizaki》


「……え」


名前の横には、《133》の数字。


昼間の教室の空気が、一気によみがえる。


(……石崎くん?)


偶然かもしれない。


けれど、タイミングが妙に重なっていた。


親指が無意識にスティックへ力を入れる。


《5》

《4》


マッチ開始のカウントダウンが始まる。


彰は小さく呼吸を整えた。


(……どんなプレイするんだろ)


数字が減っていくたび、コントローラーを握る指に力が戻る。


《1》


次の瞬間、戦場が開けた。


瓦礫だらけの市街地マップ。


崩れた高速道路の下へ、五人のアバターが一斉に駆け出していく。


彰はすぐ遮蔽物へ滑り込み、そのまま周囲の動きを追った。


敵チームの剣士が、味方の前衛より半歩先へ出る。


速い。


しかも、次の動きへ入るまでにほとんど迷いがない。


敵が動くより先に位置を変え、そのまま味方の死角へ回り込んでいく。


(……うまい)


彰の喉が小さく鳴る。


《zakizaki》は、そのまま後衛へ一気に詰めた。


《1 KILL》


表示が弾け、思わず彰の口から声が漏れる。


「うわ……」


速さだけじゃない。


味方全体の動きまで見えている。


押し上げられた前線に合わせるみたいに、敵チームの圧力が少しずつ広がっていく。


彰は横へ滑り、遮蔽物越しに敵位置を探した。


《zakizaki》が、また裏へ回ろうとしている。


(……そこ)


彰は反射みたいに身体を動かしていた。


半歩だけ前へ入り、そのまま横へ滑る。


振り抜いた剣へ、《COUNTER》の表示が重なった。


火花が散る。


けれど次の瞬間には、別方向から敵スキルが飛び込んできた。


押し切れない。


味方も次々に倒されていく。


《TEAM 11 KILL》

《TEAM 13 KILL》


負けている。


息が少し浅くなる。


それでも、彰は画面から目を離せなかった。


《zakizaki》が、また味方後衛へ詰める。


彰は遮蔽物の陰へ滑り込み、その動きを追った。


速い。


しかも、味方の視線が切れる場所ばかり選んで動いている。


回り込み方にも、ほとんど無駄がなかった。


(……うまい)


その瞬間だった。


ふいに、画面の奥へ小さな違和感が走る。


崩れた高速道路の向こう側。


まだ誰も見えていない。


それなのに、そこへ敵が来る気がした。


彰は反射みたいに身体を動かす。


半歩だけ位置をずらし、照準を右奥へ向ける。


次の瞬間、敵アバターが飛び出してきた。


「――っ」


考えるより先に指が動く。


スキルから通常攻撃へ繋ぎ、《1 KILL》の表示が弾けた。


彰は一瞬だけ目を見開く。


(……今の)


偶然かもしれない。


けれど次の瞬間には、また別の違和感が走っていた。


崩れた車両の陰。


まだ姿は見えない。


それでも、身体だけが先に動く。


彰は横へ滑るように位置を変え、そのまま飛び出してきた敵へ剣を振り抜いた。


《DOUBLE KILL》


「……え」


思わず声が漏れる。


敵位置が分かる。


いや、違う。


“来る感じ”だけが、画面の端へぼんやり浮かんでくる。


音でも視覚でもない。


ほんの少し先の動きだけが、なぜか先に浮かんでいた。


《zakizaki》が味方後衛へ詰める。


その動きへ合わせるみたいに、彰の指が先に動く。


遮蔽物の陰を回り込み、そのまま角を取る。


敵剣士が飛び込んできた瞬間には、もうそこへ剣が置かれていた。


《COUNTER》


火花が散る。


「……っ!」


速い。


けれど、今は追える。


次に来る位置も、踏み込むタイミングも、ほんの少しだけ先に見えている気がした。


《TEAM 11 KILL》

《TEAM 13 KILL》


負けている。


それでも、彰の呼吸だけは逆に静かになっていく。


心体育成流で繰り返してきた呼吸が、自然に身体へ落ちた。


吸って、吐く。


その瞬間、視界のノイズだけがすっと薄れる。


(右……二人)


彰は崩れた壁を蹴るように横へ滑った。


まだ敵は見えていない。


それなのに次の瞬間には、本当にそこから敵が飛び出してくる。


「……やっぱり!」


彰の指が反射みたいに動く。


スキルから通常攻撃へ繋ぎ、そのまま回避へ滑った。


《DOUBLE KILL》


味方ゲージが、一気に押し返される。


《TEAM 18 KILL》

《TEAM 18 KILL》


同点。


残り時間は、あとわずかだった。


その瞬間、《zakizaki》が真正面から飛び込んでくる。


剣同士がぶつかった。


《PARRY》


火花が散り、互いのアバターが後ろへ滑る。


次の瞬間には、彰の指がもう先に動いていた。


横へ滑るようにステップを入れ、そのままスキルを繋ぐ。


《1 KILL》


表示が弾ける。


直後、画面がゆっくり暗転し、勝利表示が浮かび上がった。


《WIN》


「……勝った」


気づけば、彰の身体は椅子から半分浮き上がっていた。


握ったコントローラーへ、じわりと熱が残っている。


リザルト画面が切り替わる。


《RANK UP》

《78》


数字が変わった瞬間、彰は小さく息を止めた。


(……上がった)


そのまま、もう一度だけ対戦履歴へ視線が向く。


《zakizaki》


名前だけが、まだ画面へ残っていた。


(……石崎くん、だったのかな)


分からない。


けれど、握ったコントローラーにはまださっきの試合の熱だけが残っている。


そして、その奥で。


(……なんで、分かったんだろ)


試合中の感触だけが、指先へまだ静かに残っていた。


彰は少しだけ強くコントローラーを握り直す。


もう一度だけ画面を見る。


《zakizaki》


その名前を見た瞬間、さっきの違和感がほんの少しだけ画面の光へ重なった。


けれど答えは出ない。


彰は小さく息を吐き、そのまま端末の電源を落とした。


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