↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】桜渓の孤星  作者: 筑紫隼人
第9章「孤星、未来を望む」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/89

最終話「孤星」

季節はまた巡っていた。


リアの部屋の窓から、桜の蕾が膨らみ始めているのが見えた。もうすぐあの季節が来る。蒼と再会した、あの春が。


朝の支度をしながら、リアは窓辺の指輪に目をやった。


もう隠すことはしていなかった。棚の一番奥に押し込むのではなく、いつも目に入る場所に静かに置いてある。


嵌めることはない。それでも捨てることもない。


その矛盾を抱えたまま生きることに、リアは少しずつ慣れていた。


出勤前、颯太からメッセージが届いた。就職活動が始まったらしく、面接の相談だった。リアは簡単なアドバイスを返信した。あの颯太が、もう社会人になろうとしている。時間の流れの速さに少しだけ驚いた。


咲良からも時々連絡が来る。先月は記者として書いた記事が賞を取ったと報告してくれた。父のことについては、今も詳しくは話していない。でも咲良の声には、以前より確かな強さが宿っていた。


隼は相変わらずだった。先週も、あいつ元気かなと蒼の話をした。リアはいつものように、さあね、と答えた。その言葉のやり取りが、もう五年以上続いている。終わることのない優しい習慣のように。


オフィスに着くと、今日も何人かのクライアントが待っていた。


一人ひとりの話に、リアは静かに耳を傾けた。傷つき迷い、それでも前を向こうとする人たち。その姿に、リアはいつも自分自身を重ねていた。


答えを与えることはできない。それでも隣に座り、話を聞くことはできる。その積み重ねが誰かの支えになることを、リアは信じていた。


夕方、仕事を終えて、駅前のニューススタンドの前を通りかかった。


新聞の見出しが目に入った。


海外の慈善活動についての記事だった。あの匿名財団が、また新しい支援プロジェクトを発表したという内容だった。


リアはその見出しを、しばらく見つめた。


以前のように心臓が大きく跳ねることは、もうなかった。ただ静かに、その事実を受け止めていた。


蒼は今もどこかで生きている。


そしてこれからも、彼のやり方で誰かを守り続けるだろう。


その守り方がどれほど歪んでいても、それが蒼にとっての唯一の愛の形だった。


リアが生きている限り、蒼の中の何かは燃え続ける。


その事実を、リアはもう恐れていなかった。


家に帰り、いつものように夕食の準備をした。


一人分の料理を作りながら、リアはふとこの五年間のことを振り返っていた。


千景のことを時々思い出す。あれから一度も会っていないが、風の噂で遠くの街で静かに暮らしていると聞いた。心が完全に癒えたかどうかは分からない。それでも生きているという事実に、リアは密かに安堵していた。


倉橋とは今も、年に一度か二度、連絡を取り合っている。蒼の追跡は今も続いているが、大きな進展はない。それでいい、とリアは思っていた。


食事を終え、窓辺に座った。


指輪を、そっと手に取った。


夜の光の中で、それは静かな輝きを放っていた。


蒼を愛したことは間違いではなかった。


その愛は蒼を救わなかった。それでも愛した事実は消えない。


その考えに、リアはもう迷いを持っていなかった。


窓の外を見上げた。


都会の夜空に、星はほとんど見えなかった。それでも、その見えない空のどこかに、確かに光が瞬いているはずだった。


蒼という、たった一つの孤独な星。


誰にも見つけられず、誰にも裁かれず、それでも燃え続けている星。


リアは、その星の光を、直接見ることはできない。それでも、その存在を、確かに感じることができた。


指輪を、もう一度、窓辺に戻した。


明日も仕事がある。誰かの傷に、寄り添う仕事が。


リアは、その日常を、これからも、静かに生きていく。


指輪を残したまま。


蒼を愛した記憶を、抱えたまま。


世界のどこかで、蒼はまた誰かを掃除している。


彼の愛は今日も燃えていて、リアがいる限り、消えることはない。

◆あとがき◆


本作を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


「愛は、その人がすでに持っているものを完成させる」。このテーマを描きたくて書いた物語でした。リアの愛は蒼を救えませんでしたが、愛した事実は本物のままです。


切なさと後味の悪さ、両方を心に残していただけたなら嬉しいです。


【新作連載のお知らせ】

明日9月18日(金)21:05より、新作ダークファンタジーの連載をスタートします!


『復讐のダークナイト 〜愛を知った男は、再び黒い牙となる〜』


前作の現代学園ものから一変、重厚な世界観で描く「非転生ダークファンタジー」です。


明日はスタートダッシュとして、21:05に第1話と第2話を同時公開します。


愛と復讐が交錯する物語になっています。ぜひ作者アカウントをフォローして、明日の公開を楽しみにお待ちください。


それでは、また明日の夜にお会いしましょう!


筑紫隼人

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。