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やっぱりちょっと不安だから

2週間ぶりくらいの投稿ですね。


と言うのもですね、一応学生という身分でして。勉強の合間、気分転換にちまちま書いてきたやつを投稿していたわけなんです。

 ーー夢、そう、夢を見た。


 夢なんて見ても大概覚えていないものではあるが、どうも、この夢は僕の頭の中から消えていこうとはしてくれない。


 その日、僕はいつものように自分の部屋で目を覚ます。それから、いつものように朝食を食べて、弥生が元気に登校して行くのを、いつものように見送る。

 その後に、僕ものんびりと家を出るのだ。


 電車に揺られて次の駅に行けば、友達と一緒になる。

 昨日のテレビの話やゲームの話、そんなつまらないことで盛り上がる。


 駅から学校までに行く途中に、また別の友達と一緒になって、程度の低い下ネタで馬鹿騒ぎをする。

 何の意味も無く肩を組んで、何の意味も無く拳を合わせる。


 変わらないはずの僕の日常が、変わらずに繰り返していた。


 そのまま午前の授業を受けて、お昼を食べて、夢うつつで午後の授業を受けて、放課後、月影と一緒に帰路につく。


『…なんかさ、昨日変な夢を見た気がする』


『へぇ、どんな?』


 幼馴染であるがゆえに、2人きりだとどうも無言になってしまいがちな僕と月影、そんな沈黙を破ったのは珍しく僕だった。


 何と無く口から出た言葉に、月影が、僕の少し前を歩きながら答える。


『なんか…、よくわからんけどさ、月影が女になってて、他の奴も色々変わってて、僕がぼっちで、他校の女の子に襲われて、そこで目が覚めたんだけど』


『ふぅーん』


 どうでもいいような返事が、車道を通る車の音で消えて行く。


『…なあ』


『ん?』


 余所見をしていると、月影が僕のことを呼んだ。


 振り返ると同時に、横をトラックが通り過ぎて行く。向かい風に目を瞑って、その内に月影の言葉が続き、


『…ねえそれってさ、本当に夢なの?』


 ーー否、月影の声では無かった。


『…え?』


 彼では無く、彼女。

 綺麗な黒髪が風になびいて、表情まではよくわからない。だが、その声は確かに卯月のものだ。


 気づけば周囲の様子は変わり、ただ黒が延々と続いている。

 何故か急に睡魔が来て、視界がぼやけ始めた。


『心配しないで』


 狭くなって行く視界に、彼女の口が動くのが辛うじてわかる。


『…睦月君はひとりじゃないから』


『それってーー』


 どう言うことかと、僕の言葉が続くことはない。だってこれは、僕の夢なのだから。


*****


「…大丈夫、命に別状はありません。精神的疲労からくる発熱と、軽い脳震盪ですね。2、3日安静にしていただければ、すぐに回復するでしょう」


 近くの総合病院の一室。

 私、如月弥生は今、男性用に特別に作られているこの部屋の机の前で、母と医者の先生が話しているのを聞いています。


 母の焦燥感に駆られた顔色は、先生の言葉を聞くと、いくらかマシになった気がします。

 窓際のベッドで寝ているお兄ちゃんの方を一度見て、ほっと胸をなでおろしたのがわかりました。


「一応、万が一の時のために今日1日、病院に泊まられるのは如何でしょう。息子さんも…その、大変申し上げにくいですが、あれほどの経験をして、精神的に不安定になるかもしれませんし」


「でも…」


 すぐに肯定の返事が出なかったのは、きっとお母さんの仕事のせいでしょう。

 大企業の重役をしていると聞いています。それに、大きなプロジェクトを任されたとも言っていました。

 仕事に支障があるのは火を見るよりも明らかです。


 もちろん、母親としてお兄ちゃんの側にいたい気持ちの方が大きいのだと思います。

 ですが、生真面目な性格のお母さんには、自分が欠けることによる仕事の大きさが重くのしかかっているのでしょう。


 ここは妹であり、娘である私が一肌脱ぐ時です。


「私が一緒に泊まるよ」


 お兄ちゃんと同じ部屋、とか、一緒に寝れる、とか、そ、そそそんなこと思っていませんから。

 ただ、妹ととして、お兄ちゃんが心配なだけですし?お母さんの事情を考えるできた娘ですし?


 文字通り一肌脱ぐとか?そんな事考えてませんし?


「…それじゃあ、お願いしてもいい?」


「うん、任せて」


 ともあれ、私はそう返事を返すのでした。


*****


 その後、お母さんは物凄く名残惜しそうに病院を後にしていきました。

 病室を出るときも、エントランスから出るときも、何度もこちらを振り返る様は、さながら初めてのお使いに行く子供のようで、少し面白かったのはお母さんには内緒です。


 あの様子だと仕事に身が入らないのではないかと、少し心配になりますね。


 くすりと、小さく笑った時でした。


「失礼します」


 ガラリ、と病室の扉が開きました。

 ペタペタと、病院特有のスリッパで床を踏み鳴らす音が響きます。


「こちらが如月睦月さんの病室で間違いないでしょうか」


「…はい、そうですけど」


 黒髪を肩で揃え、少し吊り目がキツイ印象を覚えるスーツ姿でおそらく二十代前半の女性。

 何者かと訝しんでいると、その女性が懐から黒い手帳を取り出しました。


「警察…」


「犯罪対策部所属、林鈴《はやし りん》と申します。本日は如月睦月さんの件でお伺いさせていただきました。失礼ながら、如月睦月さんの御兄妹で?」


「えっ、と、はい。…あの、すみません。今、親は仕事で…」


 こういう経験は初めてで、少し緊張してしまいます。

 こうして警察官の方と話すのが加害者側としてでなく、被害者側である事がせめてもの救いでしょうか。


「ああ、いえ。本日は確認だけのつもりでしたので、また後日、御都合の合う日にお伺いさせていただくつもりです」


 そう言ってから、林さんはお兄ちゃんを一瞥して、


「…それにしても、えっと、こう言っては不謹慎かもしれませんが、睦月さん随分とお綺麗ですね。ほんの少し、加害女性の気持ちが分かる気もします」


 やはり、いくら警察官の方とは言え、お兄ちゃんを前に頬を赤くしてしまうのは当然なのですね。

 さすがに、一目惚れしてしまうなんて事はないのでしょうし、件の女子生徒のようにお兄ちゃんを襲ったりはしないのでしょうけど。


 まあ、お兄ちゃんの事を褒められるのは、素直に嬉しいのです。


「…自慢の兄です」


「自分は姉が2人の3人姉妹なので、少し羨ましいですね。女3人ともなると、さすがに女臭くてたまりません」


 ははは、となんとも言えない私の笑みだけが病室に聞こえて、気まずい空気が流れます。

 林さんもその空気を感じたのでしょう。『それでは』と、礼儀正しく去って行きました。


 病室には私とお兄ちゃんの2人だけが残ります。


 取り敢えず机に座って、ポットから暖かいお茶を湯飲みに注いで、一服。


「…ふぅ」


 ど、どど、どどどどうしよう!お、おに、おおお兄ちゃんと2人っきり!

 お兄ちゃんの寝顔!どうしよ、写真撮っていいかな?駄目ですよね?お兄ちゃん病人な訳だし、大変な目にあったばかりなのに。


 ああ私は本当に馬鹿です。こうなる事は分かりきっていたのに、自分から言い出すなんて。


 …ちょっとだけ、て、手を触るくらいいいですよね?ちょっとほっぺを突くくらい大丈夫ですよね?

 いいや、我慢です私。ちょっとだけ、がいつの間にかこれぐらいいいよね?ってなるんです。もっとお兄ちゃんの意思を尊重してーー、


「へ?」


 …どうして私はお兄ちゃんのほっぺたをプニプニしているのでしょうか?

 葛藤しているつもりで、体が勝手にお兄ちゃんのほっぺたを!


 いつの間にこんなに近くに来ていたのでしょう。


 ああ!そんな事より柔らかい!もうずっとプニプニしていたいくらい柔らかい!


「…んぅ」


 駄目だと思いつつも、止まらない右手に内心悶えていると、お兄ちゃんがくるりと寝返りをして、その綺麗な唇から声が漏れます。


 …か、可愛いっ!


 どうしよう、もう食べてしまいたいくらい愛おしい。

 その唇に、貪りついてしまいたい。


 心臓の鼓動がどんどん早くなって、熱くなっていく頰が早く早くと私を急かします。

 私の視線はお兄ちゃんの唇に吸い寄せられていました。

 まだ熱が残っているのか、少し湿った唇が艶かしく輝いて、ゴクリと唾を飲みます。


 いけない事なのに、頭の中では駄目だと必死で止めようとしているのに、それに反して体は言う事を聞いてくれません。

 お兄ちゃん寝てるし、だとか、兄妹だから別にこのくらい、だとかそんな思考が私の頭を支配し始めます。


 呼吸が荒くなっているのが分かります。

 顔が赤くなっているのが分かります。

 耳が熱くて、もう考えるのをやめてしまいたい。


 ああもう、我慢できないーー、


「…弥生?」


「……ぁ」


 私の本能が理性に勝ってしまうほんの手前、眠たそうなお兄ちゃんの声が私を現実に引きずり戻しました。


「ご、ごごごめんなさいっ!えっ、とその、そんなつもりはなくて、ほんの出来心で!」


「弥生」


「は、はいっ!」


「…ちょっと、手を握ってて…お願い。ちょっと、ちょっとだけ、でいいから…やっぱり、ちょっと不安だか、ら…」


 てっきり罵倒されて、家族の縁を切られてしまうところまで想像していた私にとって、お兄ちゃんの言葉はすぐに頭に入ってきませんでした。

 私のお花畑な脳みそが、勝手に聞き違えただけかもしれませんし、お兄ちゃんの言い間違いかもしれません。


「手?」


「…うん、手」


 ベッドの上に乗っけていた私の掌に、お兄ちゃんの掌が重なりました。指と指が絡んで、お兄ちゃんのしっとりとした手の感触が直に伝わります。


「お兄ちゃん?」


 お兄ちゃんを呼びますが、返事は返ってきません。

 顔を覗いてみれば、私の手を握ったまま、小さく寝息を立てていました。


 もう、さっきみたいな欲望は湧き上がってきませんでした。私はお兄ちゃんの寝顔を見て微笑みます。


 …なんだか、私も眠くなってきました。


 添い寝とは違うけれど、お兄ちゃんのベッドに寄りかかって目を閉じます。


 ーーお兄ちゃんと手を繋いだままで。

日付から大体予想はつくかもしれませんが、取り敢えず一段落と言うことで投稿させていただきました。


正直なところ、落ちたんじゃないかなー、と戦々恐々としています。


今後、1ヶ月以上投稿が開くことがあれば『コイツ死んだな』と思ってください。

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