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ドラゴ・ニック  作者: なんたい生物
死神12騎士編第四章炎魔再熱
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第33章火山島の半竜

獣国(ししこく)での「鏡隠し」から二日後。


宿のベッドで、里見さんは大きく背伸びをした。体に残っていた気怠さは消え、すっかり元気を取り戻したようだ。

しかし、昨日まで僕たちをサポートしてくれていたイェレミエルたちの姿は、すでに宿のどこにもなかった。天竜界(てんりゅうかい)の騎士に尋ねると、昨夜のうちに「確かめたいことがある」と言い残し、大急ぎで天竜界(てんりゅうかい)へと帰還してしまったらしい。


僕たちもまた、獣国(ししこく)を後にして次なる目的地、炎骨山えんこつざんへと向かった。

青々とした草原を歩き、深い森を抜けること一時間。

ようやく視界が開けたかと思うと、目の前にはどこまでも広がる海が姿を現した。風に乗って、潮の香りと、火山特有の腐った卵のような硫黄の匂いが鼻腔を突く。

そこからさらに海岸線を二十分ほど歩くと、海の向こうに、モウモウと煙を上げる巨大な火山島が見えてきた。


「どこかに、あの島へ渡るための船乗り場か何かがあるはずだが……」

ホワイトドラゴンが周囲を見渡しながら歩き始める。


「探す必要はないよ」


不意に、波の音に混じって凛とした声が響いた。

声のした方へ目を向けると、こちらへ向かって二隻の小さな木造船が近づいてくるところだった。

先頭の船の舳先へさきには、一人の女性が立っていた。ボサボサしたグリーンロングヘア。しかしその両腕をはじめ、身体のいたるところには生々しい「緑の鱗」が浮き彫りになっており、両手は猛禽類のような鋭いかぎ爪に変貌している。半竜状態だった。

船が浜辺へと乗り上げると、彼女は後ろで船を漕いでいた青年を伴い、僕たちの前へと降り立った。


「君らかい? クリスアーナくんが言っていた子たちは」

「えっ、あ、はい……」

僕が気圧されながらも答えると、彼女は僕の頭をガシガシと手荒に、だが愛おしそうに撫で回した。


「そうか。クリスアーナくんの話は本当だったようだな……。久しいのう、黒ドラ」

「え……? あなたも、僕のことを知っているんですか?」


僕が驚いて尋ねると、彼女はどこか遠い目をして微笑んだ。

「もちろんだ。昔、お前には色々なことを叩き込んでやったからな。……まぁ、今のぬしには、当時の記憶など残っていないのだろうが」

「なら、僕の過去について何か知っているんですか!?」


「ああ、すべてな。……立ち話も何だ、詳しい話は私の道場でしよう。お前たちも長旅で疲れているだろう?」

彼女に促されるまま、僕たちは木造船へと乗り込んだ。波に揺られること二十分、僕たちはついに火山島へと上陸した。


島内は、外から見た印象とは異なり、熱帯の木々が生い茂るジャングルが広がっていた。その中央に、圧倒的な存在感で火山が鎮座している。

彼女の後について石畳の敷かれた森の道を進んでいくと、やがて頑丈な木造の建造物が見えてきた。


「ここが私の道場だ」

彼女が木扉を押し開ける。

「おい、皆にお茶と菓子を頼む」

「分かりました、師範」

後ろに従っていた青年が手際よく動き、僕たちの前に湯気の立つお茶と素朴な菓子を並べてから、静かに部屋を退出していった。


「さて、まずは私の名を名乗ろう。ディオ・シャレンティエン。この火山島に住み、この道場の師範をしている。気軽にシャレンティエンと呼んでくれ。君たちのことは、クリスアーナくんから大体のことは聞いている」


シャレンティエンさんはお茶をすすると、鋭い眼光を僕に向けた。

「さっきの続き、黒ドラくん……お前のことについて話そう。単刀直入に言う。お前が以前目覚めさせたあの『黒竜の半竜状態(はんりゅうじょうたい)』……あれになれたのは、お前ではなく『前の黒ドラ』だ」


「……どういうことですか?」


「お前の身体の中には、現在三つの精神が存在している。一つは、お前の中に眠る黒竜本来の凶暴な精神。これは気にする必要はない、今は深く抑え込まれて沈黙している。そしてもう一つが、過去の黒竜…。

つまり『昔のお前』だ。脳内で喋りかけてきたり、たまに精神を入れ替えたりする存在がいるだろう? 彼は今もなお、弟を取り戻そうとしている」


「弟を……取り戻す……?」


「ああ。彼の弟は強大な悪に囚われており、それを取り返そうとしている。

彼の昔話は話そう。生まれつき、不幸のどん底のような人生を辿ってきた。故郷の村を滅ぼされ、私の元へと行き着いたのだ。私は何年もかけて、その兄弟に武芸と生きる術を教え込んだ。やがて成長した二人は旅立ち、仲間を集めて、困った人々を救うための組織を作った。……そこから先の話は、クリスアーナくんから聞いているな? ならば省こう」


シャレンティエンさんは静かに目を伏せ、悲痛な声を絞り出す。

「弟はその悪に囚われ、暴走した一年後……狂ったのは国々だった。突如として、世界中で国同士の凄惨な戦争が始まったのだ。そして、そのすべての裏で糸を引いていたのは、他でもない弟だった。それを知った黒ドラたちは、かつての仲間と共に弟を止めるべく立ち上がった」


彼女の拳が、みしりと音を立てる。

「それこそが、すべての大陸を地獄へと陥れた忌まわしき時代『黒竜暦こくりゅうれき』の始まりだ。……長く、辛い戦いだった。弟の軍勢と戦うたび、黒ドラの仲間たちは一人、また一人と命を落としていった。その度に黒ドラは心を痛め、涙を流した。励ましてくれる仲間がいたから何とか保っていたが、仲間が減れば、励ます声も減る。黒ドラの心はボロボロに壊れていった」


天竜界(てんりゅうかい)が介入しても戦火は収まらず、豊かな大地は次々と人が住めない荒野へと変わっていった。タルタニア大陸での戦いは、終わりの見えない泥沼だった。その影響は全世界に及び、あらゆる場所で争いが頻発した」


「そして……タルタニア大陸にて、弟率いる大軍勢と、黒ドラ率いる中央軍との最終決戦が始まった。……結果から言うと、黒ドラたちは敗北した。黒ドラは戦火の中で、命を落としたのだ」


僕は立ち上がった。

「そんな……! じゃあ、どうして僕は今ここにいるんですか!?」


「待て、話はまだ途中だ」

シャレンティエンさんは手で僕を制し、語を継いだ。

「黒ドラが倒れ、息絶えたその時だった。戦場に、虹色に輝く髪を持ち、大きな蝶の羽を広げた女性が舞い降りたのだ。彼女は凄まじい戦闘を繰り広げ、弟の軍勢を敗走させた。そして、荒廃したタルタニアの土地を黒竜戦の前の姿へと巻き戻し、死んだ黒ドラの遺体を抱えてどこかへ去っていった。……その後のことは、私も知らない」


「そんな……それじゃあ、僕はどうして生きているんですか!? あの後、何があったんですか!」

「だから、知らないと言っているだろう……」

シャレンティエンさんは溜息を吐き、困ったように首を振った。


「さて、過去についての話はここまでだ。次は、私とクリスアーナくんからの提案、いや、修行だな。お前たちには、これから死ぬ気で強くなってもらう。詳しい修業の話は明日からだ。長旅で疲れただろう、今日はゆっくり休むといい」


シャレンティエンさんは残ったお茶を飲み干すと、先ほどの青年に合図を送った。

僕たちは案内されるまま、道場の奥にある静かな部屋へと足を運んだ。

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