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ドラゴ・ニック  作者: なんたい生物
死神12騎士編第四章炎魔再熱
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間話24死闘の罠

― 始まりの次元

    バッブン地方

      神竜軍(しんりゅうぐん)要塞 ―


邪神竜(じゃしんりゅう)神竜種(しんりゅうぐん)による戦争は泥沼化し、各地で硝煙が立ち上っていた。

バッブン地方の要塞は、いまや完全に邪神竜の軍勢によって包囲されていた。いつ攻め込まれるか分からない極限の緊張感の中、神竜軍(しんりゅうぐん)の兵士たちは不眠不休で外を見張っている。


要塞の司令室には、二人の影があった。

「まさか、ここが我々の重要拠点であることを見抜かれるとは……。兵糧も底を突きかけている。どうしたものか……」

ボサボサのグリーンロングヘアの女性、ディオ・シャレンティエンは地図を睨みながら深く思考を巡らせていた。


その傍らで、灰色髪の男が静かに白銀の懐中時計に目を落とす。

「もう間もなく、邪神竜(じゃしんりゅう)の軍勢は撤退を始めます。攻め落とすなら、その瞬間しかありませんよ。シャレンティエンさん」


シャレンティエンは男の言葉に、微かな違和感を覚えて視線を向けた。

「……? ずいぶんと確信に満ちた物言いですね、クロノス」

「私が見つめるのは『時の運命』。外れることはありません」

「……まぁ、あなたの占いは必ず当たると姫様も仰っていたし、始まりの竜様からの信頼も厚い。信じることにしましょう」


それから二日後。クロノスの言葉通り、要塞を囲んでいた邪神竜(じゃしんりゅう)軍が突如として一斉に退却を始めた。

「本当に撤退を始めたぞ……! よし、好機だ! 追撃して袋叩きにするぞ!!」

歓声を上げた騎士たちは、色めき立って次々と要塞の門を打って出た。


「私はここに残ります」と、クロノスは懐中時計をしまいながら冷淡に告げた。「もしかしたら、敵の別動隊が来るかもしれない。『時の運命』がそう告げています」

「そうか……。では、留守は頼んだぞ」

シャレンティエンは彼に背を向け、馬に飛び乗って騎士たちと共に追撃へと向かった。


誰もいなくなった要塞の城壁の上で、クロノスは口元を歪め、ニヤリと冷酷に微笑んだ。

「……さて、始めましょうか」


数時間後。追撃に向かった神竜(しんりゅう)軍の隙を突くように、撤退した本隊を遥かに凌ぐ規模の邪神竜(じゃしんりゅう)軍が、突如として要塞へと押し寄せた。

紫色の巨体を持つ四足歩行の竜が、無防備な要塞の防壁に猛然と体当たりを敢行する。轟音と共に壁が砕け散り、そこから邪神竜(じゃしんりゅう)の兵たちが雪崩を打って要塞を支配していった。


「いやぁ、流石ですねぇ、クロノス。完璧な手際だ」

割れんばかりの拍手をしながら現れたのは、顔の半分を黒い仮面で覆い、派手な道化師の服を纏った男ロキだった。

「フン……。これもすべて『時の運命』に従ったまでですよ、ロキさん」

「ハハハ! 君が死神帝国こちらの味方になってくれて、嬉しくて涙が出そうですよ!」


その軽薄な笑い声を切り裂くように、背後から強烈な蹴撃が繰り出された。

「追撃に出たはずの貴女が、なぜここにいるのです? ……シャレンティエンさん」

クロノスは振り返りもせず、自らの腕でその蹴りを受け止めていた。


「フン……どうにも嫌な予感がしてな! 何の意図もなく撤退するなどおかしい。何か裏があると思って引き返してみれば……こういうことか!」

シャレンティエンは鋭い眼光で二人を睨みつけ、軸足を跳ね上げてクロノスを強引に投げ飛ばそうとする。


「そうですか。ならば、ここで半殺しにしましょう。『時の運命』もそう告げていますので」

クロノスが冷酷に蹴り返す。

しかし、シャレンティエンはまるで酒に酔いしれているかのような、捉えどころのない変幻自在の体術ステップでそれを紙一重で回避した。彼女の拳がクロノスの顔面を捉えようとし、そのまま腕を掴んで腹部へ強烈な膝蹴りを叩き込もうとした


その瞬間。


背後から目にも留まらぬ速さで、数条の銀光

投げナイフが飛来した。

シャレンティエンは再び『酔歩』の動きで躱そうとしたが、放たれたナイフは空中で不自然に軌道を曲げ、彼女の肉体へと正確に突き刺さった。


「グッ……ハァッ……!?」


激痛と共に、口元と傷口から鮮血が溢れ出す。シャレンティエンはクロノスを掴んでいた手を離し、たまらずその場に膝を突いて倒れ込んだ。

「どうです? 私の極上のナイフ捌きは」

道化師の服を揺らし、ロキが狂気じみた笑い声を上げる。


すかさず、クロノスの冷たいブーツが、倒れたシャレンティエンの背中を無慈悲に踏みつけた。

「がっ……は……っ!」

「おやおや……まだ抗うつもりですか?」

踏みつける足にさらなる体重がかけられ、骨の軋む音が響く。シャレンティエンは血を吐きながらも、憎しみを込めてクロノスを睨みつけた。


「……私を殺すなら、今すぐ殺せ……。裏切り者が……!」


その言葉に、背後で見ていたロキが腹を抱えて笑い転げた。

「殺す? 爆笑ものですねぇ! 忘れたのかい? クロノスは最初に言ったはずさ、『半殺しにする』ってね。ヒャハハハハハ!!」


ロキは仮面の奥の目を怪しく光らせ、シャレンティエンを見下ろした。

「つまりさ、君を生け捕りにするんだよ。その立場……我が主、暗黒大帝竜(あんこくたいていりゅう)様にとって、『利用価値』があるんでねぇ……!」


要塞に、道化師の不気味な笑い声がいつまでも響いていた。

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