第31章荒ぶる獣
咆哮を上げ、獣国の街を蹂躙する骨の竜。
「暗黒大帝竜様ぁぁぁ!! どこですか、どこにいるのですかぁぁ!!」
その狂乱を止めるべく、ミカエルが風を切って地を蹴った。
「何があったかは後で聞く……。今は、お前を止めるのが先だ!」
抜き放たれた刀が骨の装甲を叩くが、火花が散るだけで傷一つ付かない。
「この匂い……忌々しい『神竜』の同族か?わたくしはその匂いが、反吐が出るほど嫌いなんだよ……!!」
巨木のような足がミカエルを圧殺せんと振り下ろされる。
「魔能燿華風月!!」
居合の一閃で迎え撃つが、あまりの硬度に刀身が震える。
「……っ、こいつの硬さ、尋常じゃない!」
「魔能バラック!!」
横から放たれた里見の衝撃波が、竜の足を強引に弾き飛ばした。
「助かった、里見……!」
「お礼は後。……来るよ!」
弾け飛んだ骨の破片が磁石のように吸い寄せられ、瞬時に足を再生させる。
「邪魔をするなぁぁ! 私はただ、あの方に会いたいだけなのにぃぃ!!」
「叫んでいる『暗黒大帝竜』とやらが何者かは知らんが、これ以上の破壊は看過できん」
ミカエルの瞳が鋭く細まり、背後から燃えるような赤い尻尾突き出した。彼女の半竜化だった。
獣の如き瞬発力で、彼女は竜の懐へと潜り込む。
「死ね、神竜種!! 魔能眼闇光!!」
竜の全身から、空を覆い尽くすほどの闇の光線が降り注ぐ。逃げ場のない絶望的な物量。
だが、その光が僕たちに届く直前、輝く盾が空間を覆った。
「ミカエル、お待たせ!」
空から舞い降りたのは、六花の花冠を戴くイェレミエル。そして、彼女を追ってホワイトドラゴンも駆けつける。
「ホワイトドラゴンさん……!」
「……喧嘩の続きは後だ。まずはあいつを黙らせるぞ」
イェレミエルの加勢により、反撃の好機が生まれた。僕は里見さんに向かって叫ぶ。
「里見さん! 動きを止めます、手伝ってください!」
「分かったわ! 魔能ジャンプルピモネ!!」
里見さんが足元を攪乱し、僕は全力の魔能を両手に込めた。
「魔能黒翼の爪紅!!」
漆黒の炎を纏う翼を広げ、手に集中し、黒い炎の爪になる。
僕は竜の巨体を上空から力任せに押さえつける。
「ホワイトドラゴンさん! 今です、口の中を!!」
「了解だ! 凍りつけ……ッ!!」
ホワイトドラゴンの精密な狙撃が竜の開かれた顎に突き刺さり、噴出する闇の光線を内側から凍結封印した。
「息がピッタリじゃない。喧嘩してるなんて嘘みたいだよ?」
イェレミエルが杖を掲げ、魔法陣のような物を展開する。
「ミカエルちゃん、トドメだよ!」
「了解しました、イェレミエル!」
「輝強魔能輝煌槍!!」
魔法陣のような物から射出された巨大な光の槍が、氷を突き破って竜の喉元、その奥にある「巨大な眼球」へと深々と突き刺さった。
「ウガァァァァァァァァァァァッ!!」
「今だ、ミカエルちゃん! あの目玉が弱点よ!」
ミカエルは空を駆ける。
「――獣季魔能狐夜」
静寂。
一閃の下に巨大な眼球が真っ二つに裂け、紫色の血が噴水のように吹き上がる。
骨の竜は、断末魔の叫びと共に、崩れ落ちるように沈黙した。
その瞬間、里見の意識は白い静寂の世界へと引き込まれた。
目の前には、白服を纏ったあの女性――ルポが立っていた。
「里見さん……私を止めてくれて、ありがとう。他のお友達にも、伝えてね」
「ルポちゃん……」
ルポは、憑き物が落ちたような穏やかな笑顔を浮かべていた。
「あなたの仲間は、みんな強くて……とても温かい人たちだった。……本当は、私があんなふうになりたかったのかも」
「ルポちゃん、その姿は一体……」
「私にも分からない。……でも、もう、ここまでみたい。アハハ……」
彼女の体が、光の粒となって足元から消え始めていく。
「待って、どういうこと!?」
「最後に……最初のお友達に会えて、本当によかった。里見さんが、私の初めての友達でよかった。……仲直り、ちゃんとできるといいね」
ルポの姿が完全に光に溶け、白い空間が霧散する。
現実の世界に戻った里見は、膝から崩れ落ちそうになった。僕は慌てて彼女の肩を支える。
「大丈夫ですか!? 里見さん!」
「……ごめんね、黒ドラくん。さっき、彼女が……鏡の中にいたルポちゃんがね、『ありがとう』って……」
里見はそれだけ言うと、張り詰めていた糸が切れたように意識を失った。
「里見さん!?」
ミカエルが歩み寄り、彼女の脈を確認してホッと息を吐く。
「安心しろ。酷く疲弊しているだけだ……。何があったかは知らんが、今は休ませてやるのが先決だろう。イェレミエルさん?」
「そうだね〜。後始末は騎士たちに任せて、この子は私が運ぶよ」
イェレミエルは里見を優しくおんぶすると、僕たちに微笑みかけた。
「一旦、私たちの所に行こうか。……みんなで、一緒にね」
僕らは、少しだけ距離の縮まった背中を追いながら、夕闇の迫る獣国の街を後にした。




