間話20獣の輝き
―― 次元No.2
スジェル大陸 黒戦歴299年
オリーガー地方・ホーバーグルツ学園 図書館 ――
静まり返った図書館の隅。ケモ耳の少女、ミカエルは周囲の視線を避けるように俯き、古い魔導書を読み耽っていた。その表情は、連日の「獣竜種」への偏見からくる嫌がらせで、暗く沈んでいた。
不意に、目の前の席に誰かが座った。
「ねぇ、そこの君。聞いたよ〜! 獣竜種イジメがあったんだって? 全く、つまんないことする奴らもいるもんだねぇ」
顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべたピンク髪の少女がいた。
「……何ですか」
「安心して! イジメっ子たちは私が全員ボコボコにしておいたから。だからさ、そんな顔してないで明るく笑ってよ。あっ、私はイェレミエル。よろしくね!」
「……っ、ここ図書館ですよ。静かにしてください。周りを見て」
ミカエルが呆れて指摘すると、館内には「静かにしろ」という無言の圧力が満ちていた。そこへ追い打ちをかけるように、校内放送が鳴り響く。
『1年生のイェレミエルさん。至急、教務室まで来なさい――』
「あちゃ〜、バレちゃったか」
「……でしょうね。すぐに行った方がいいですよ」
ミカエルが溜息を吐くと、イェレミエルは立ち上がり、満開の笑顔で手を振った。
「アハハ! そうだね。あ、名前聞いてなかった! 君の名前は?」
「……ミカエル」
「ミカエルか! 決めた、今日から私とミカエルは友達。よろしくね!」
嵐のように現れ、勝手に「友達」を宣言して去っていく少女。
その後、案の定、首根っこを掴まれて教師に連行されていくイェレミエルの背中を見送りながら、ミカエルはぽつりと呟いた。
「突然……何なんですか、あの人」
―― 次元No.2
スジェル大陸 黒戦歴329年
聖騎士団・本部 ――
それから30年。ミカエルとイェレミエルは、共に聖騎士団の精鋭としてその名を馳せていた。
ある日、ミカエルは同僚のガブリエルから重大な話を聞く。
「……黒竜戦を終わらせるため、天竜界から優れた8人を集め、『七英天竜』にする予定らしい。イェレミエル先輩と僕は、既に入るのが確定している」
「七英天竜……」
「先輩は、推薦枠に友人のミカエルを入れる気がないようだったが……。あとの枠は半年後の試験で決めるそうだ。ミカエル、お前は出るのか?」
「試験か……。もちろん出るよ。イェレミエルにもそう伝えてくる」
しかし、報告に向かったミカエルを待っていたのは、意外な反応だった。
「私が決めることじゃないけどさ……。ミカエルちゃん、やめときなよ」
イェレミエルはいつになく真剣な、どこか何かを隠しているような顔でそう言った。
「どうしてですか。理由を言ってください」
「いやぁ、なんとなく? 向いてないかなーって〜」
逃げようとするイェレミエルの前に、ミカエルが立ち塞がる。だが、イェレミエルは魔能で一瞬にしてミカエルをワープさせると、背後に回っておでこに優しくデコピンをした。
「ごめんね、ミカエルちゃん。話せない事情があるの。それじゃあ!」
「……魔能の無駄遣いです」
おでこを押さえながら、ミカエルはその真意を測りかねていた。
―― マガグ大陸 ガグラ森林地方 ――
一週間後。ミカエルは「人喰い巨大樹」の討伐任務に就いていた。
巨体から無数の枝と根を伸ばし、獲物を狙う化け物。ミカエルは刀を抜き、果敢に斬りかかる。
「魔能冬華雪覇!!」
「魔能秋夜の風!!」
紅葉と雪が舞う苛烈な連撃で枝を断つが、巨大樹の再生力は凄まじい。さらに地面から槍のような根が、無防備なミカエルの背後を強襲した。
(しまった……!)
貫かれる、と覚悟した瞬間。
桃色の突風が吹き抜け、ミカエルの体をお姫様抱っこで攫っていった。
「イェレミエル!?」
「セーフ! 間に合ったね〜」
イェレミエルは脇腹に根が掠り、血を流しながらも着地した。
「……大丈夫? ミカエルちゃん」
「私は平気です、それより貴女……! なぜここに」
「アハハ、任務の場所が近かったからさ。この程度の傷、すぐに治るよ」
彼女が傷口に手を当てると、光と共に傷跡が消えていく。
巨大樹が再び猛攻を仕掛けてくる。ミカエルは刀を構え直し、隣のイェレミエルを見た。
「まったく、困った性格の人ですね……。助けてもらった恩は、戦いで返します!」
「獣季魔能・荒れくれ山の狐!!」
山を駆ける猛獣の如き乱舞。ミカエルの刀は巨大樹の守りを粉砕し、本体へと迫る。
「ミカエルちゃん……」
「イェレミエルさんみたいな『最強』は、貴女一人じゃない。私だって強いってこと、証明してみせます!」
一閃。巨大樹は真っ二つに裂け、轟音と共に崩れ落ちた。
刀を収めたミカエルに、イェレミエルが歩み寄る。
「……ハハ、すごいね。……あの時はごめんね、ミカエルちゃん。貴女がまた試験や組織の中で嫌な思いをするのが怖くて、つい反対しちゃった。……本当は、誰よりも応援してるから」
「……薄々、気づいていましたよ。貴女が優しすぎるのは、昔からですから」
「え〜! だったら教えてよ〜!」
ミカエルは少しだけ微笑むと、イェレミエルのおでこに、強めのデコピンを返した。
「いたっ!? 何するの!」
「あの時の仕返しです。……助けに来てくれて、ありがとうございます」
「助けるのは当然でしょ? 私たちは――」
イェレミエルは誇らしげに、指でピースを作った。
「『友達』なんだからさ!」




