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ドラゴ・ニック  作者: なんたい生物
死神12騎士編第三章鏡隠しの章
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第30章最強vs最恐

ルポが狂乱の怪物へと変貌する少し前。

ホワイトドラゴンは苛立ちを隠せずに街を歩いていた。

「ちっ……。喧嘩するくらいなら、さっさと仲直りすればいいだろう。どうすればいいんだ、あいつらは……」


独り言を吐き捨てた時、白いフードを深く被った青年が路地裏へ消えていくのが見えた。不審に思い、気配を殺して追跡する。

青年は日の当たらない壁際に、一枚の鏡を設置していた。

(鏡……? あいつが犯人か!)


問い詰めようとした瞬間、青年の姿が掻き消える。

「おや、アイスドラゴン……」

「なっ……!?」

背後から響く声。ホワイトドラゴンが振り返るより早く、桃色の閃光が路地を貫いた。


「魔能・創星そうせい!!」


星型の弾丸が青年を襲う。そこに立っていたのは、いつもの能天気な表情を消したイェレミエルだった。

青年は指先一つで障壁を展開し、弾丸を無造作に弾き飛ばす。


「イェレミエルさん、いきなり攻撃とは。昔の仲間じゃないですか〜」

「あの時からお前を仲間だと思ったことなんて一度もないよ……裏切りルシフェル。ガブリエルくんはお前をまだ友達だと思っているみたいだけどね」


「ハハハ、あのガブリエルはまだ僕を友だと? 泣かせるねぇ」

ルシフェルと呼ばれた青年は、残念そうに、だが楽しげに笑った。


イェレミエルはおもちゃのナイフを次々と投擲する。ルシフェルはそれを指の隙間で受け止め、軽やかにかわす。

「危ないなぁ。僕はただ、魔剣と聖剣を少し拝借しただけですよ?」

「それだけじゃない。死神帝国に堕ち、堕天竜種(だてんりゅうしゅ)へと独自進化したことも、各大陸の魔剣騒動の黒幕がお前だということも、すべて分かっているんだよ!!」


「今の先輩はつまらないなぁ。いつものウザいほどの明るさを見せてくださいよ」

ルシフェルの挑発に、イェレミエルは「おもちゃの包丁」を構えた。彼女の魔能は、本人が『楽しい』と確信した事象を現実化する特殊な力。それこそが彼女が最強と呼ばれる所以の一つ。


変幻自在に現れる包丁の刃が、ルシフェルの頬を裂いた。滴る血を指で拭い、そしてそれを舐める。

ルシフェルは瞳の奥にどす黒い悦びを宿す。

「……やはり、先輩には本気を出さないといけないようだ」


彼が取り出したのは、無数の生々しい目玉が埋め込まれた不気味な剣。背中からは六枚の漆黒の羽が突き出す。

魔能黒雲こくうん


黒い霧を纏った斬撃と、イェレミエルの光の杖が激突する。

拮抗する戦いの中、イェレミエルの姿が変貌した。背後に黄金の輪が現れ、無数の羽と桃色の花冠が彼女を飾る。彼女の半竜化だった。


杖から放たれる無数の光弾がルシフェルの肉体を粉砕するが、彼は笑いながら自らの体に剣を突き立てた。肉片が吸い寄せられるように集まり、瞬時に再生する。剣の目玉の一つが、静かに閉じた。

「不死身……剣の能力か!」


その時、街を揺るがす凄まじい咆哮が響き渡った。

「……始まったか。目覚めてしまったね」

ルシフェルは空を見上げ、独り言のように語りだした。


「あれは骸滅竜(がいめつりゅう)ヌーヴォル・ベヒーモス。鏡の中だけで強くなれる魔剣を、ある女性に授けた結果ですよ。あの魔剣の唯一の弱点は『光』。日の光に触れれば、魔剣に潜む邪神竜(じゃしんりゅう)が目覚め、宿主を喰らい尽くす」

(私たちが知らない情報…。)

イェレミエルが問い詰める。「お前は、何を知っている……!」


「……いいでしょう、教えましょう。すべては『始まりの次元』から始まっていた。かつて、神竜種(しんりゅうしゅ)率いる蝶の一族と、すべてを闇に染めようとした暗黒大帝竜(あんこくたいていりゅう)の間で戦争があった。あまりに強大すぎた邪神竜(じゃしんりゅう)を封印するために生み出された『器』……それこそが、魔剣や妖刀の正体です」


ルシフェルの語る真実は、世界の根幹だった。

「この話には続きがありましてね

……暗黒大帝竜(あんこくたいていりゅう)は、邪神竜(じゃしんりゅう)をも超える三人の黒竜――『三厄竜ブラック・テンペスト』を生み出しました。死厄、災厄、そして惨禍。不幸を呼ぶ三柱の竜です」


「……!!」


「最終決戦、蝶の一族の生き残りの姫と、最初に生まれた竜の力で三厄竜は封じられ、この世界がコピーとして創られた。その後神竜(しんりゅう)たちは、この世界を暗闇から守るため、人々の記憶から『黒竜戦(こくりゅうせん)』とかの記録を消し去ったのです」


ルシフェルは愉快そうに続ける。

暗黒大帝竜(あんこくたいていりゅう)の目的は、その姫様が持つ『すべての次元をひっくり返す魔能』を手に入れること。神竜(しんりゅう)たちは姫を守るために、黒竜の力を宿した子供たちを見守ることしかできなかった……たとえその子供たちが、どれほど過酷な運命を辿ろうともね」


「ルシフェル、貴様……っ!」


「ドラゴ・ニックって言葉知ってますか?……別の次元の言葉で竜のような何かとか意味する言葉です。竜のような厄災。あの三人の竜は、まさにそれなんですよ。……それでは、さようなら。」


ルシフェルは闇に溶けるように姿を消した。イェレミエルが追いかけるが、そこにはもう、虚空が広がるばかりだった。


「……クソッ」

イェレミエルは震えるホワイトドラゴンの肩を掴んだ。

「今の話、他の奴らには……仲間にも、決して言うな」


「……わ、分かりました」


「行くよ。……あの悲しい怪物を、止めるために」

二人は、咆哮が響く絶望の街へと駆け出した

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