第27章獣国の異変
激戦の余韻が残る地下広場で、イェレミエルは光り輝く白い縄を虚空から生み出し、横たわる人工魔竜化したチタロスを厳重に縛り上げた。
「これでお片付け完了。一件落着だね〜」
彼女は軽やかな足取りで僕に近づくと、傷ついた僕の体にそっと手をかざした。
「魔能レークト・ネーション」
温かな光が僕を包み込み、引き裂かれた傷口がみるみるうちに塞がっていく。その驚異的な光景に、黒羽さんが目を見開いた。
「えへへ、珍しいでしょ? 回復の魔能を使える人は世界でも数少ないから。私の他には、吸血鬼竜のあの子くらいかなぁ」
僕がゆっくりと意識を取り戻すと、イェレミエルはいたずらっぽく微笑んだ。
「おっ、お目覚めだね、黒竜ちゃん。私の魔能を少し分けてあげたから、すぐ元気になれるよ」
続いて彼女は黒羽さんの傷も癒やす。
そこへ和服を纏った天竜、ミカエルがホワイトドラゴンさんたちを連れて合流した。
「イェレミエル。こちらは片付いた、そっちはどうだ」
「バッチリだよ。この子もしっかり捕まえたしね」
イェレミエルは里見さんとホワイトドラゴンさんの傷も同時に治していく。完治した黒羽さんは、ふと疑問を口にした。
「……一つ聞いてもいいですか。なぜ、七英天竜ともあろう方々が、こんな辺境の遺跡に?」
ミカエルが腕を組み、真剣な面持ちで答える。
「任務で移動中に、この遺跡から凄まじい虹色の輝きが見えてな。異変を感じて立ち寄ったのだ」
「その任務っていうのがね、今、獣国で起きている『集団行方不明事件』の調査なの」
イェレミエルの言葉に、僕たちは顔を見合わせた。
「……僕たちも、その獣国に向かう予定だったんです。事件……気になりますね」
「本来なら我らが出るまでもない規模だが、『魔剣』を目撃したという報告があってな。死神帝国の奴らが絡んでいるのは間違いないだろう」
里見さんは不安そうに「別の場所に行きましょう」と提案したが、ホワイトドラゴンさんは逆に身を乗り出した。
「面白そうだ……。俺たちも同行していいか?」
「いいけど……無茶はしないでね」
里見さんは溜息を吐きながら、確執の残るホワイトドラゴンを少しだけ睨んだ。
一方、黒羽さんは地下に残された魔能石の残骸を見つめ、静かに口を開いた。
「……僕は、ここに残ります。この後、一度戻らなければならない場所があるんです」
ミカエルは黒羽さんを見据え、鋭い問いを投げた。
「君には聞きたいことがある。あの虹色の石、一体どうやってあのような出力を出した?」
「……自分でもよく分からないんです。なぜか、魔能石を直接攻撃に変換できてしまうみたいで」
「ふむ……。帰る場所というのはどこだ?」
「善の大陸、星取り領地にある『星盟都市』です」
「分かった。後日、我らの仲間をそこへ向かわせよう。君の特異な力については、詳しく調査させてもらうよ」
「……えっ、はい。分かりました」
イェレミエルは拘束したチタロスを「先に潜入している騎士たちに引き渡す」と言い、僕たちは彼女たちと共に獣国を目指すことになった。
地上に戻り、黒羽さんと別れる時。
「結局、虹色の大剣については何も分からずじまいでしたね……。力になれなくて、すいません」
「そんなことないよ、黒羽くん。おかげで命が助かったんだから。謝らないで」
大剣と魔能石の関係は謎のままだ。けれど、いつかまた彼と再会する時、その答えに近づけていればいい。
黒羽さんは僕たちが見えなくなるまで、笑顔で大きく手を振り続けていた。




