表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴ・ニック  作者: なんたい生物
死神12騎士編第二章黒転の章
44/60

間話17黒き魔能士の旅立ち

― 次元No.2

  善の大陸・再光歴56年

    星取り領地・星夢森地方 ―


森の奥深くにひっそりと建つ木の家。

黒羽は机に並べた魔能石を一つ一つ手に取り、溜息を吐いていた。

「これじゃない……。どれも、彼女が言っていたものとは違う」


そこへ、恩人のサトゥルヌが薪と魔物の肉を抱えて戻ってきた。

「どうした、またその石か」

「……ええ。姫様が言っていたんです。『虹色の魔能石』がどこかにあるはずだって。でも、どれだけ探しても見つからない」


「虹色の魔能石(にじいろのまのうせき)は、かつての黒竜戦以降の遺跡からしか産出されないと言われている。……ここにあるのは、ただの石ころだ」

サトゥルヌの言葉に、黒羽は目を見開いた。

「そうなんですか……!?」

「ああ。だが、この近くにも古びた遺跡がいくつかある。……体が治ったら、一度行ってみるか」


その時、家の外――燃えるような夕闇の中に、不穏な二つの影があった。

吹雪ふぶき様。あんなボロ小屋、一息に凍らせれば済む話では?」

水色の髪をなびかせた女性、吹雪の傍らで、サングラスの青年が皮肉げに笑う。


暗黒大帝竜様(あんこくたいていりゅう)の命令だよ。あの小屋には魔能石を操る『別次元の迷い人』がいる。……さて、始めようか。」


青年が放った火炎玉が森を焼き、火の手は瞬く間に木の家を包囲した。

「遺跡か……行ってみようかな」

サトゥルヌが「俺もついて行く」と答えた直後、扉が衝撃で粉砕された。

「――魔能大荒れの雪崩れ(おおあれのゆきなだれ)!!」

雪風と共に踏み込んできたのは、両腕を鋭利な氷の槍へと変えた吹雪だった。

「誰だ……っ!」

サトゥルヌが即座に立ち塞がる。黒羽は魔能石を奪われまいと、必死にバッグに詰め込んだ。


「どいつだ? 魔能石を弄ぶ妙なガキは」

「ここにはいない。……去れ!!」


吹雪の冷徹な眼光がバッグを射抜く。

「――魔能氷凛ひょうりん

放たれた氷の弾丸がバッグを貫き、中から魔能石が床に散らばった。


「やはりな……。貴様はこの世にいてはならない存在だ。我が氷の刃で葬ってやろう」


サトゥルヌがタックルで吹雪を突き飛ばし、黒羽に叫んだ。

「逃げろ! ここは俺が食い止める!!」

「でも、サトゥルヌさん……っ!」


「行けと言っている!!」

吹雪の鋭い蹴りがサトゥルヌを壁まで吹き飛ばし、氷の槍が彼の腹部を深々と貫いた。

「邪魔だ、老いぼれ……! あのガキを殺すのが先なんだよ!」


サトゥルヌは吐血しながらも、吹雪の腕を掴んで離さない。

「――魔能力技波動はどう!!」

至近距離での衝撃波が吹雪を森の奥へと弾き飛ばす。


「面白い真似を……だが、掠り傷にもならん! 魔能氷牙の突撃(ひょうがのとつげき)!!」

吹雪の魔能が膨れ上がり、死の冷気が辺りを支配する。黒羽が駆け寄ろうとしたその時、背後から馴染みのある声が響いた。


「黒羽様!!」


そこにいたのは、紫髪の剣士ナグナ。そして、黒羽を慕っていた金髪の少女――星取り領地の姫様だった。

「黒羽を連れて行け! こいつの狙いは彼だ!!」

サトゥルヌの叫びに、ナグナは苦渋の決断を下す。


「……分かった。生きていたら城で会おう!」

ナグナは黒羽と姫様を抱え、燃え盛る森を駆け抜けた。


その日の夜。一行は星盟都市(せいめいとし)の城へと逃げ延びた。

だが、吹雪の追撃は終わっていなかった。彼女は単身、城へと侵入し、警備の騎士たちを冷徹に排除しながら奥へと進む。


「……ここかな?」


扉を突き破った先。そこにいたのは黒羽ではなく、一人でいた金髪の少女だった。

「なんだ……ハズレか」

「……黒羽くんを、殺そうとしている人ですね?」


少女の問いに、吹雪は氷の槍を刺し、彼女の肩を掠めさせた。

「その通りだ。満足かい?次話しかけて来たら……。命がないと思え。」


「……どうして、そんなに簡単に命を奪うんですか? 楽しいですか?」

吹雪は少女を蹴り飛ばし、冷たく言い放った。

「楽しくなどない。……だが、私は人間にも竜人にもなれなかった、中途半端な出来損ないだ。私を拾ってくれた主人のためなら、心など捨ててやる。それが私の役目だ」


少女は血を流しながらも、吹雪の槍を素手で掴み、微笑んだ。

「なら……私と、友達になりましょう。そうすれば、戦い以外の『楽しいこと』が、見つかるかも知れないから……」


「黙れ……死ね!!」


逆上した吹雪の槍が、少女の小さな体を何度も貫いた。

「……見つけ……られるかも……しれない……」

その言葉を最後に、少女は動かなくなった。


その直後、天井を突き破って巨大なメイスが振り下ろされた。

「貴様か、侵入者は!!」

バタラが怒りに燃えて現れる。吹雪は舌を打ち、窓から影の中へと逃走した。


翌朝、黒羽が聞いたのは、恩人サトゥルヌが行方不明となり、自分を救った少女が命を落としたという残酷な報せだった。


一週間後。

黒羽は自責の念に押し潰されていた。自分がこの世界に来たせいで、大切な人々が傷つき、死んでいく。


(……死ねば、元の世界に戻れるんじゃないか?)


自暴自棄になった彼は、夜陰に乗じて城を抜け出し、自ら命を絶とうとした。だが、背後から強靭な手が彼の肩を掴んだ。

「……こんな夜中に、どこへ行く」

そこに立っていたのは、バタラだった。


「どこだっていいじゃないですか……離してください!」

「敵はお前を狙っている。一人で行かせるわけにはいかない」


「行かせてください! 僕がいなければ、誰も死ななかったんだ!!」

黒羽の叫びに、バタラは静かに、だが力強く語りかけた。


「……自分で死を選ぶのが、一番の裏切りだ。それは遺された者を、そして守って死んだ者を辱める行為だ。出会いがあれば別れがある。だが、それを『逃げ』の理由にするな」


バタラは黒羽の頭を優しく撫でた。

「……お前が死んで、姫様が喜ぶと思うか? 今日は寝ろ。自分の進む道は、絶望の中で決めるもんじゃない」


二日後。

黒羽は大きなリュックを背負い、バタラの前に現れた。

「……旅に出ます」

「何のためにだ」


「姫様が探していた『虹色の魔能石(にじいろのまのうせき)』を見つけます。そして……誰かを守れるような、新しい自分を見つけたいんです」


バタラは満足げに頷き、彼の背中を叩いた。

「そうか。頑張れよ。……見つけたら、いつでも戻ってこい。ここは、お前の家だ」


「……はい!」


黒羽は一度だけ振り返り、城を、そして少女が眠る空を見上げた。

少年の背中には、もう迷いはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ