第26章煌めく天竜と獣の天竜
魔能石。それは魔能を持つ者が死した際、その魔血が結晶化して生まれる物。
もし、その魔能石が暴走すればどうなるか。
……答えは「魔竜」の誕生だ。
では、その結晶を、生きた人間に無理やり埋め込んだら?
大抵は異形のまま死に至るか、理性を失った怪物に成り果てる。しかし、目の前のチタロスは違った。
「ルシフェルの言葉も、あながち出鱈目ではなかったようだな」
青い鱗に包まれた「人工魔竜」となったチタロスが、哄笑を上げながら殴りかかってくる。
僕は残った魔能を振り絞り、再び漆黒の翼を広げた。
「――魔能黒翼の爪紅!!」
黒炎を纏う爪で迎え撃つが、人工魔竜の硬い鱗を貫くことはできない。逆に、彼女の鋭い鉤爪が僕の腕を深く抉った。
「……ッ、死ぬのはお前の方だ、黒竜!!」
「……まだだ、魔能黒熱!!」
翼を強く羽ばたかせ、至近距離で黒炎の渦を叩きつける。
「ちぃ……まだ魔能が残っていたか! 魔能爆牛斬!!」
チタロスが炎を無理やり引き裂き、巨大な掌で僕を握りつぶそうとした、その時。
「黒ドラさん……! 僕は何もできないのか……っ」
絶望する黒羽さんの背後から、場に不似合いな明るい声が響いた。
「役に立ってるよ〜! だって君のおかげで、私がここに来れたんだもん」
振り返れば、そこにはピンク色の髪をなびかせた、小悪魔的な笑みを浮かべる女性が立っていた。
「その傷、痛いよねぇ? じっとしてて。君も、あっちの黒竜ちゃんも、私が助けてあげる」
「黒ドラさんの……知り合い、ですか?」
「知り合いではないかな…。でも、こくりゅうのことは知ってるよ。 私は七英天竜の一人だから。」
彼女は茶目っ気たっぷりにピースサインを作って見せた。
一方、里見さんとホワイトドラゴンは、影から無限に湧き出す改造生命体に苦戦を強いられていた。
「クソッ、こいつら、どれだけ撃てば止まるんだ!」
「魔能秋夜の風――!!」
鮮やかな紅葉が舞う。和服を纏い、狐のようなケモ耳を凛と立てた赤髪の女性が、電光石火の居合で化け物の首を跳ね飛ばした。
しかし、化け物は切り口から泡を吹き、再び再生を始める。
「……再生か。死神帝国の差し金かと思ったが、何とも悍ましい。魔能狐火!」
彼女の手から放たれた炎が化け物を包み込み、再生を封じる。
「これでおわりにしましょう。魔能燿華風月!!」
舞うような剣筋が、燃える肉体を一瞬で微塵切りにし、今度こそ化け物は動かなくなった。
「助かりました、お礼を……」
「礼など無用。危難を救う、それが天竜の務めゆえ」
彼女が凛とした声で名乗る。
「我が名は、七英天竜が一人。『勇気の天竜』ミカエル」
そこへ、別の個体を相手にしていた里見さんが駆け寄る。
彼女の背後には、白衣を纏った謎の二人組が一瞬だけ姿を見せ、化け物に巨大な注射器を突き刺して破裂させていたが、ミカエルが振り返った時にはすでにその姿は消えていた。
「誰だ……? 今の人たち」
ミカエルは近づくが、姿はもうなかった。
「死神帝国の別働隊か。……それより、イェレミエルの元へ向かわねば。あいつのことだ、派手に暴れすぎていないと良いが。君たちも来なさい」
地下広場では、イェレミエルの石壁がチタロスの猛攻を完璧に防いでいた。
「大丈夫〜? ボロボロじゃない」
「……助かり、ます」
「大丈夫そうじゃないね。まずは安全確保!」
イェレミエルは僕を抱え上げると、光の速さで移動し、黒羽さんの隣へと僕をそっと下ろした。
「どこへ消えた……!!」
荒れ狂う人工魔竜チタロス。イェレミエルはその背後に音もなく現れ、挑発的に笑う。
「後悔するのは君の方だよ?」
「貴様ァッ!!」
チタロスが腕を振り回すが、イェレミエルはダンスを踊るようにそれをかわし、チタロスの足元に「穴」を出現させた。
「はい、プレゼント!」
落ちていくチタロスへ、彼女はどこからともなく取り出したプレゼントボックスを投げ入れた。刹那、激しい爆発が穴の中で起こる。
黒焦げになりながらも、チタロスは翼を広げて這い上がってきた。
「ふざけた戦い方を……!! ぶち殺してやる!! 魔能竜魔砲!!」
口から放たれた極太の青色の炎の渦。しかし、イェレミエルは鼻歌混じりにそれを回避し、チタロスの目の前まで肉薄した。
「怒ってばかりじゃダメだよ? 悪の大陸の暴君、チタロスちゃん。君の名は聞いてるよ。あちこちで略奪を繰り返してるんだってね〜」
「……何者だ、貴様」
「私? 『輝煌の天竜』イェレミエルだよ〜。よろしくね〜。」
「七英天竜……最強と名高いイェレミエルか……! 面白い、喰らってやる!」
チタロスが地割れを起こし襲いかかるが、気づけば彼女の首筋には、イェレミエルが持っていた「おもちゃの包丁」が突き立てられていた。
「ねぇ、勝てないって言ったでしょ?」
包丁から滴る血。それはおもちゃの外見をしながら、天竜界で極限まで改造された凶器だった。
「降参しなよ。死なないところを狙って、グサグサってしてあげたから〜。この包丁、可愛いでしょ?」
「テメェ……ッ」
イェレミエルは笑顔のまま、一切の容赦なく包丁を抜き差し、チタロスの気力を削ぎ取っていく。
「さっさと諦めないと、本当に死んじゃうよ?」
耳元で囁かれた死の宣告。
「……私、の……負け、だ」
チタロスが地に伏し、地下広場に平穏が戻る。虹色の輝きを放つ遺跡の中で、イェレミエルは満足そうに微笑んだ。




