第25章虹色の魔能石
夜が明け、僕たちは期待と不安を胸に次の遺跡へと向かった。
黒羽さんの正確な案内に導かれ、森を抜けた先に佇む古びた神殿。中に入り、ランタンの灯りで壁を照らしながら探索するが、やはりそこにも「虹色」の気配はなかった。
「……ここもハズレですか。なかなか甘くはないですね」
黒羽さんが肩を落とした、その時。僕は床の石が不自然に沈み込んでいる箇所を見つけた。
「黒ドラくん、どうしたの?」
里見さんが不思議そうに覗き込む。
「ここ、隠しスイッチになっていませんか……?」
僕がその石に触れた瞬間、重い音を立てて床が崩落した。闇の先には地下深くへと続く石段が広がっている。
「隠し部屋……! まさか、この下に!」
僕たちはロープを使い、慎重に奈落の底へと降りていった。
「思ったより地下深く、巨大な空間が作られているな……」
ホワイトドラゴンさんの呟きに応えるように、通路の突き当たりから、この世のものとは思えない神秘的な輝きが漏れ出してきた。
「あれは……っ!」
広大な地下ホールの中心。そこに、巨大な水晶の塊のような『虹色の魔能石』が鎮座していた。
「やっと見つけた……やっとですよ!!」
黒羽さんが子供のように飛び跳ねて喜ぶ。僕もその輝きに見惚れ、一歩ずつ近づいていった。
「なんて綺麗なんだ……」
里見さんとホワイトドラゴンさんも、その圧倒的な魔能の密度に息を呑む。
黒羽さんが採取用のハンマーを振り上げた、その瞬間だった。
「――魔能暴れ斬撃!!」
突如、空間を切り裂くような暴風が吹き荒れた。巨大なアックスが猛り狂い、見境なく放たれた斬撃が天井を粉砕する。
「危ないっ!!」
里見さんとホワイトドラゴンは即座に散って回避したが、黒羽さんの頭上に巨大な瓦礫が降り注ぐ。僕は翼を広げ、極限の速度で彼を抱き抱え、間一髪でその場を離脱した。
「ちっ……さっさと圧死すればいいものを」
埃の中から現れたのは、牛のような角を持つ屈強な女性。彼女がアックスを一振りすると、影の中から二体の巨体な改造生命体が這い出した。
「やぁぁぁッ!!」
里見さんが跳躍して蹴りを見舞うが、化け物は彼女を軽々と掴み、壁際へと投げ飛ばす。
「ごめんねぇ。君ら雑魚に興味はないの。私の可愛い『実験体』と遊んでなさい」
もう一体の化け物がホワイトドラゴンへと襲いかかる。銃弾を浴びせても瞬時に再生する化け物に、二人は足止めを食らってしまう。
「戦う気満々で嬉しいよ。一度、黒竜と手合わせしたかったんだ」
チタロスと名乗る女が、獲物を狙う猛獣の目で僕に近づく。
「私は悪の大陸で暴れ回ってきたが、どいつもこいつも歯応えがなくてね。死神帝国で噂の黒竜がどれほどか……期待してるよ! 魔能牛割れ(うしわれ)!!」
地面が叩き割られ、地割れが僕たちを襲う。
僕は黒炎を刀に纏わせ、真っ向から斬りかかった。黒羽さんも杖を構え、衝撃波で援護する。
「……弱いな」
彼女は僕の一撃をアックスの柄で軽々と受け止め、黒羽さんの衝撃波を真っ向から浴びても微動だにしない。
「力んだところで無駄だよ。格が違うんだ」
彼女の手首が返り、アックスに弾き飛ばされた僕は壁に叩きつけられた。
「黒ドラさん……!!」
「ヒャハハ! 黒竜といってもこの程度か」
ヨロヨロと立ち上がる僕を見て、彼女は愉快そうに目を細める。
「おっと、これくらいじゃ死なないか。なら、次であの世に送ってやる!」
「そうはさせない……! 炎の魔能石、発動!!」
黒羽さんが放った火炎瓶のような一撃。しかし、彼女は熱を無視して突進し、アックスを投げつけた。
バキッ、と鈍い音が響き、黒羽さんの杖が真っ二つに叩き折られる。
「……ッ、ガハッ」
肩を深く切り裂かれ、鮮血を流す黒羽さん。彼女はその喉元を掴み、冷酷に言い放った。
「大人しくしてな。君は殺すより、生かして私の『研究』に協力してもらう」
再び僕へ向かってくるチタロス。僕は黒い翼を広げ、爪に魔能を集中させて肉薄するが、彼女はそれを上空へと蹴り飛ばした。地面に叩きつけられた僕を、瓦礫が埋め尽くす。
「終わりだよ。その黒い炎ごと、塵にしてやる」
「黒ドラ……さん……っ!!」
黒羽さんは折れた杖の先を握りしめ、必死に手を伸ばした。その先にあったのは、剥き出しの虹色の魔能石。
「これを使うしか……ない!!」
「あぁ……そんな事しちゃうんだ。半殺しにしないと分からないようね!」
激昂して黒羽さんに迫るチタロス。その背後から、瓦礫を吹き飛ばして僕が躍り出た。
「――魔能黒翼の爪紅!!」
黒く燃え盛る爪が彼女の背中を強襲する。彼女が僕を振り払おうとした瞬間、黒羽さんが叫んだ。
「受けてみろ! 虹色の魔能石!!」
石から放たれた虹色の奔流が、至近距離でチタロスを直撃した。
「……っ!?」
僕は離脱し、凄まじい爆発が地下広場を揺らした。
「やった……のか?」
黒羽さんの問いに応えたのは、立ち込める煙の中から響く、獣のような笑い声だった。
「……なかなかやるじゃん。クソガキども」
頭から血を流しながら、チタロスは僕を黒羽さんの方へ蹴り飛ばした。
「さて……私も本気を出そうかな。せっかく君たちが用意してくれた、これを使ってね」
彼女がその手に握っていたのは、先ほど黒羽さんが使った『虹色の魔能石』だった。
「なっ……いつの間に!?」
「これを体内に取り込んだらどうなると思う? ――答えはこうだ!!」
彼女は躊躇なく、その虹色の石を自らの胸へと埋め込んだ。
「ア……アガガガッ!!」
彼女の叫びと共に、全身から青色の鱗が突き出し、骨格が歪に膨れ上がっていく。顔は竜の如く裂け、人間としての形が崩壊していく。
「……予想通りだ。これで、人工的に魔竜を産み出すんだ!!」
目の前に現れたのは、最凶の人工魔竜であった。




