間話16虹色の魔能石を狙う商人と狂気の猛牛
― 次元No.2
悪の大陸・悪迷歴966年
ボヌリキシン地方・ガックス ―
冷たい石壁に囲まれた、薄暗い酒場。
カウンターの端で、牛を思わせる禍々しい角を持った女性が、ラッパ飲みで酒瓶を煽っていた。
「その下品な飲み方は感心しませんね。チタロスちゃん……」
白いフードを深く被った青年――ルシフェルが、音もなく背後に立ち、優雅な声で語りかける。
「……うるさい。ルシフェル、何の用だ。それと『ちゃん』付けで呼ぶな。反吐が出る」
「おやおや、今日は一段と口が悪い。安酒のせいかな?」
チタロスは空になった瓶を、苛立ちと共に背後へ投げ飛ばした。だが、ルシフェルはそれを振り返りもせずに片手で受け止める。
「危ないなぁ。他の客に当たったら、どうする気?」
「……それで、実験の進み具合はどうなんだ? チタラスを始め、十二騎士を4人も使い潰したんだろう。仲間を犠牲にするなんて、相変わらず吐き気のする外道だな」
ルシフェルは肩をすくめ、手にした瓶をカウンターに戻した。
「フン、雑魚はさっさと死んで役に立つのが世のためだ。私はただ、無価値な命に『実験体』という価値を与えてやっただけだよ。」
「君こそ、僕を『外道』と呼ぶなら、君自身は何なのかな?」
「その場で殺されたいか、貴様……」
チタロスの瞳に、野生の殺気が宿る。
「怖い、怖い。……さて、冗談はこれくらいにしましょう。君に『仕事』を依頼しに来たんだ」
ルシフェルは、テーブルの上に虹色に輝く奇妙な石を置いた。
「これを、取ってきてもらいたい」
「……何だ、この石は。ただの魔能石か?」
「『虹色の魔能石』。僕も独自に研究を進めているんだが、手元にある一欠片だけでは、その真価が測りきれなくてね」
チタロスは鼻で笑った。
「魔能石だと? そんな骨董品、研究したところで何の意味がある」
「いや、意味はあるさ。調べていくうちに、とても愉快なことが分かってきた。……ああ、そうだ。その石が眠る遺跡に、君にとって最高の『獲物』が向かっているよ」
チタロスが、初めて興味深げに眉を上げた。
「誰だ?」
「黒竜たちだ」
その名を聞いた瞬間、チタロスの瞳に狂喜の火が灯った。
彼女は机の上に金貨が詰まった小袋を叩きつけるように置き、勢いよく立ち上がった。
「今すぐ行く。……ふふ、楽しい殺し合いになりそうだ」
「おやおや、やる気満々だね。これは面白いことになりそうだ……。ああ、そうだ。一つ言い忘れていた」
去ろうとするチタロスの背中に、ルシフェルが毒液のような言葉を投げかける。
「なんだ? 有益な情報だろうな」
「君が悲願としている『人工魔竜』の完成。……より確実で、簡単な作成方法が見つかった。知りたいかな?」
チタロスは立ち止まり、静かに頷いた。
「……聞かせろ」
ルシフェルは彼女の耳元に顔を寄せ、悪魔のような囁きを残した。
「この『虹色の魔能石』があれば可能だ。なぜなら、魔能石と魔龍は……」
その言葉を聞いた瞬間、チタロスの顔に、この世のものとは思えないほど醜悪で、愉悦に満ちた笑みが浮かんだ。




