第2章追われる者
次元No.2タルタニア大陸 中央帝都炎獄苑
ざわめく朝から外れた、薄暗い裏通り。
白衣の男女が駆ける。呼吸は乱れ、手にしたガラス製のカプセルが淡く光りながら揺れる。
「早く、急いで!追いつかれる!」
「こっちだって必死だっての! よりによってこれを盗むとか……正気かよ、博士!」
カツン。カツン。金属の音が路地裏に響く。
白と金の装甲をまとった。〈天竜界騎士団〉が、重々しい足取りで迫ってくる。
「前方も来てる!包囲されてる!」
路地裏の先、さらに別動隊の影が見えた。
同時刻炎獄苑市場通り
「黒ドラくん、ここが“市場通り”。この街で情報探すなら、まずここだと思うよ」
人混みの中でも迷わず歩く少女・里見さん。
やわらかな笑みと穏やかな声。どこか育ちの良さを感じさせるが、飾ったところはない。
「里見さんは……どうして、あのとき助けてくれたんですか?」
川での出来事を思い出しながら尋ねると、彼女は少し伏せて答えた。
「……昔、私も溺れかけたことがあるの。」
「……え?」
「お姉ちゃんの誕生日に、特別な花をあげたくて。
森の奥に“きれいなお花がある”って……いじめっ子に教えられて。信じちゃったんだ。
中は、冷たく、暗くて……すごく怖かった。
その時、“花の女”って化け物に襲われたの。
あれは、人の形をしてなかった」
僕の胸がざわついた。
なぜか、その“花の女”という単語に得体のしれない不快感がまとわりつく。
「でも、お姉ちゃんが助けてくれた。私、あの時からただの善意じゃ、人は救えないって知った。」
そう告げた瞬間、僕の目がわずかに鋭くなった。
「あれ。……今建物に……誰か、いた?追われてる?」
気づいたときには、僕の足が自然と動いた。
なぜ、走り出したのか、自分でも理由はわからない。
けれどあの逃げる人たちを、放っておけなかった。
❘次元の狭間Ⅲ❘
宙に浮かぶ白い階段。
無限に広がる青と、静謐な光に満ちた“空白の領域”。
その中心に、三人の存在が立っていた。
緑と水色髪の少女が、そっと一振りの刀を差し出す。
何の装飾、小さな刀。だがそこには“確かな力”が宿っていた。」
「ねえ……これ、忘れてたよ」
「ありがとう、超次元竜様」
刀を受け取ったのは“始まりの竜”と呼ばれる男。
その隣では、眼鏡の幼年アポローナが本を閉じ、ぼそりと呟く。
「時間、またちょっとズレてますね。でも、ギリ間に合うはずです」
「十分だ」
始まりの竜は、刀を拳に浮かべ、念を込める。
刀身が脈動し、黒く光をまとい始める
それは、今まさに“目覚める”武器だった。
そのとき、超次元竜が彼の袖をそっと掴む。
「今度こそ、悲劇は起きないんだよね?」
その声に滲んだ不安を、始まりの竜は
力強く断ち切るように答えた。
「大丈夫。私は、あの物を、そして君たちを守る。
一万年前の誓いを、今こそ果たそう」
刀は閃光を放ち、空間を裂いた。
それは、静かに、確かにあの世界へと向かっていった。
次元No.2タルタニア大陸炎獄苑路地裏
「おい、そこの少年! 止まれ!」
鋭い怒声が飛ぶ。騎士の一人が剣を構え、僕に向かって、一直線に突っ込んできた。
(しまった)
「黒ドラくん、しゃがんで!」
咄嗟に背後から聞こえた里見さん声に従い、
僕は身を低くする。
「魔能ルピモネ!」
ピシィッ!
一瞬の跳躍。彼女の回し蹴りが騎士の画面に炸裂し、鋭い音を立てて宙に舞う。
「全員、捕らえろ! 容赦するな!」
騎士たちが剣を抜き、殺気が路地裏を満たす。
だが里見さんは怯まない。
拳と蹴り
まるで踊るように戦場を舞いながら、次々と敵を制していく。
その動きは、美しく、そして圧倒的だった。
「黒ドラくん!この人たちを連れて逃げて!
彼らが持ってる“何か”が、気になるから……私が時間を稼ぐ!」
一瞬、彼女の瞳が僕を見た。
そのまっすぐな視線が、胸に刺さる。
「……わかりました!」
頷き、僕は白衣の二人を連れて走り出す。
だが
「魔能,蒼き海水!」
目の前に立ちはだかった青髪の騎士が、剣を一閃。
うねる蒼の刃が、路地裏を波のように襲ってきた。
「くっ!」
横に飛び、転がり込んだのはゴミ捨て場の陰。
息をひそめながら、心臓が爆音のように脈打っているのがわかる。
(……もう逃げられない)
騎士の足音が近づく中
視界の隅に“何か”が光った。
朽ちた刀の柄。
割れかけた鞘に納まったその刀は、うっすら黒く、脈打っていた。
(……これは……?)
迷いもなく手を伸ばす。
その瞬間、誰かの声が脳に響いた。
『その刀“黒く燃えろ”と念じろ』
それが誰の声かは分からない。
けれど、その言葉だけが、確かに胸の奥に届いた。
「黒く……燃えろ!」
ズオオオオッ!!!
轟音と共に、刀が黒い炎を噴き上げる。
熱が空気を歪ませ、路地を揺らすように揺さぶった。
「な、なんだ……!? その刀」
青髪び騎士が足を止める。
その表情に、明らかに“怯え”が浮かんでいた。
黒き炎を宿した刀を握る僕の手は、震えていた。
けれど、不思議と
その震えの中に、“確かな感覚”が浮かんでいた。
僕の手には、“力”が浮かんでいた。
黒炎の刀が、不敵に揺れながら、自然と腕が振り下ろす。
バシュッ!
刃からあふれた黒い炎が地面を舐め、波のように広がる。
「な、なんだあの炎は……!?」
「ただの竜じゃない……魔能が……」
壁の影で息をひそめてた白衣の二人が、声を潜めて言う。
「魔能スケールが……振り切れてる。こんなの、測定不能だよ」
「竜の魔能上限はせいぜい5000。あれは桁が違う……しかもあの金髪の女の子、人間なのに魔能があるなんて……何者だよ……」
「……何が始まってるんだ……!」
「くそっ!舐めるなよ小僧ォ!!」
怒号と共に、青髪の騎士が再び剣を振る。
「魔能蒼き海水あおきかいすいッ!!」
うねる水刃が、轟音とともに迫る
(やばい……!)
次の瞬間、脳内に再び響いた
『飛べ、黒ドラ。羽を広げろ』
誰の声か分からない。でも、身体は迷いなく反応した
背中が熱を浴びる。
ドンッ!!
竜の翼が、僕の背から一気に開いた!
「う、うわああああっ!!」
身体が跳ね上がる。浮遊感。
水の一撃は、ぎりぎりで僕の足元をかすめ、路地をえぐった。
「飛んだだと……!?クソッ、終わらせてやるよ!奥義・魔能水薙天乱」
水が天を覆う。
空に浮かぶ無数の剣が、もうれつ獰猛に牙を剥き一斉に落ちてくる!
でも身体が動く。
本能のように、刀を構えた。
「……おしまいなのは、そっちだ……ッ!
魔能・黒炎斬り(こくえんぎり)ッ!!」
黒い炎が刀を包み、振り抜いた瞬間
轟!!
黒炎の弧が、空を割る。炎が円を描き、水の刃を飲み込み、砕いてく。
「ぐっ……があっ!!」
その爆風に巻き込まれた青髪の騎士が吹き飛び、ひざをつく。
その瞬間
「甘いよ、竜騎士ッ!」
里見さんの回し蹴りが、彼の側頭部に炸裂する。
ドゴォッ!!
衝撃音と共に、彼の身体は石畳に叩きつけられた。
「て、天竜騎士をなめるな……っ……」
よろめく彼を、顔が腫れ上がった緑髪の騎士が抱え込むようにして、撤退していった。
辺りに静寂が戻る。
「黒ドラくん!大丈夫!?」
駆け寄ってくる里見さんの声に、僕はその場にへたり込んだ。
「……はぁ、はぁ……なんとか……」
「ダメだよ、魔能使いすぎ。初心者がいきなりそんなに飛ばすなんて」
「……すみません」
息を整えていると、白衣の二人が近づいてくる。
警戒する様子はあるが、敵意は感じられなかった。
「君……名前は?」
「黒ドラ。それしか覚えてないです」
二人は目を見合わせ、しばらく黙った後、慎重に切り出した。
「……君と彼女、いろいろ謎が多すぎる。
よかったら、私たちの研究所に来てくれないか?」
「うん、行こう。私も聞きたいこといっぱいあるし」
里見さんは即答する。
「それに……この騒ぎ、騎士団が聞きつけて動き始めてると思う。今のうちに」
「「それを先に言えよ!!」」
白衣の二人は同時に叫び、思わず僕たちは噴出した。
だけど、その直後。
ドスン……ドスン。
濃い赤の鎧、羽飾りのついた兜。
次の部隊が、路地裏の置くから姿を現しはじめていた。
「さ、逃げるよ黒ドラくん!」
里見さんが僕の腕を取って走り出す。
「もうちょっと、走れる?」
「……はい!!」




