第19章古代遺跡探索、黄金の蛇を操る者
僕たちは、ドダバ砂漠の端に佇む古代遺跡の一つへと足を踏み入れた。
入り口を抜けた瞬間、外の酷暑が嘘のような、ひんやりとした、けれど粘りつくような空気が肌にまとわりつく。
「なんだ、この胸騒ぎは……」
鼓動が不自然に速まるのを感じながらも、僕は暗い通路を奥へと進んだ。
遺跡の壁面には、色鮮やかな、しかし歪な絵が延々と描かれていた。
無邪気に遊ぶ子供たちや、財宝の袋を抱えて狂喜する人々。だが、そのすぐ隣には、何かに怯え、絶望の表情を浮かべて逃げ惑う者たちの姿が対比するように刻まれている。
「……不可解ね。幸福と恐怖の光景が、まるで表裏一体のように混ざり合っている」
里見さんが松明を壁に近づけ、眉をひそめる。これらの絵は単なる装飾ではなく、後世への切実な警告を孕んでいるように思えた。
遺跡は迷宮のように、深く、深く地下へと続いている。
「うわっ!」
不意に崩れた足元に、僕は思わず声を上げた。奈落の底へ吸い込まれそうになった僕の腕を、クリウスアーナが超人的な反射神経で掴み、強引に引き戻した。
「気をつけろ……。松明の光が届かない場所が増えてきた。それに――」
クリウスアーナは周囲の壁や床に無数に開いた「穴」を睨みつけた。
「なぜこれほど、人一人が通れるほどの奇妙な風穴が空いているんだ?」
ホワイトドラゴンが穴の一つに手を差し込み、指先に付着した何かを光にかざした。
「……金?」
彼の指先で、砂粒のような黄金が怪しく輝いた。
「こんな乾燥した遺跡の深部に、金の粒子が浮遊しているなんて異常だわ」
里見さんの声に警戒が混じる。
「自然界の摂理に反している。この地下には、生態系そのものを歪める『何か』がいる」
僕もその不気味な輝きを見つめ、頷いた。
「金……。本来なら、国を一つ動かせるほどの貴重品のはずだ。それがこんな場所に無造作に落ちているなんて、まるでお伽噺の罠みたいだ」
ホワイトドラゴンが再び壁画を見やり、低く呟く。
「夢物語には代償がつきものだ。この絵に描かれた『恐怖』の正体……その片鱗が見えてきた気がする」
里見さんは僕の腕を強く掴み、真剣な眼差しを向けた。
「言ったはずよ、黒ドラくん。少しでも手に負えないと感じたら、すぐに引き返すって。今がその時じゃないかしら?」
「……でも、里見さん。まだこの異変の正体さえ掴めていない。ここで退いたら、きっと後悔する気がするんだ」
僕が食い下がった、その時。
「後ろに伏せろ!」
ホワイトドラゴンの叫びと同時に、僕の頭上を一本の矢が掠めて飛んでいった。
振り返ると、クリウスアーナが放った矢の先を、冷徹な瞳で睨みつけていた。
「いきなり何を……っ! 仲間を射殺すつもりか!?」
「黙ってろ。……貴様の背後で、死神が鎌を振っていたぞ」
彼が指し示した先には、矢によって壁に縫い付けられ、今なお悶絶する金色のコブラの姿があった。
「これって……蛇、なのか?」
里見さんが倒れた個体に近づき、その特徴を確認する。
ホワイトドラゴンが驚愕の声を上げた。
「……ゴースネか。大蛇種の一種、本来は『悪の大陸』にしか生息していないはずの最凶種だ。なぜ、こんな場所に……」
クリウスアーナが、知識の出所を明かさないまま淡々と補足した。
「ゴースネ。金を主食とし、その成分を体内に取り込むことで鱗を金装甲に変え、傷さえも瞬時に癒す蛇だ。毒性は極めて強く、吐息だけでなく血に触れるだけでも神経を焼かれる。本来は臆病で地下深くを好むが、一つだけ例外がある」
彼は暗闇の奥、さらに深くへと続く道を見つめた。
「こいつは極めて従順だ。金を分け与え、飼い慣らした主には絶対の忠誠を誓う。……つまり、どこかに、こいつらを兵隊として操る『主』が潜んでいるということだ」
蛇なのか、コブラなのか。その生物学的な分類を超えた存在…。




