間話11百発百中の竜はなぜ知っているのか?
夜が更け、森は深い闇と冷気に包まれていた。
焚き火の爆ぜる音だけが、静寂の中に響いている。
ホワイトドラゴンは、炎を見つめたまま動かないクリウスアーナの背中に、重い足取りで歩み寄った。
「……聞きたいことがある」
クリウスアーナは視線を動かさない。ただ、揺れる炎を映す瞳が、わずかに細められた。
「なんだ」
「なぜ君は、誰も……天竜界の記録にすら残っていないこの大陸の『真実』を知っている? 黒ドラの過去に深く関わる、あの凄惨な話を……」
数秒の重苦しい沈黙。
クリウスアーナは、乾いた声でぼそりと答えた。
「……教えるつもりはない。地獄を見てきた者同士、分かり合えるなどという幻想は捨てろ」
その声は、明確な拒絶の壁だった。
ホワイトドラゴンの顔つきが険しくなり、指先が腰の銃へと掛かる。
「……力ずくで吐かせることもできるんだぞ。君に逃げ場はない」
その脅しと同時に、クリウスアーナが動いた。
瞬き一つの間にクロスボウが構えられ、その矢先は正確にホワイトドラゴンの眉間を捉えていた。
「やれるものならやってみろ。だがな……先刻の戦いからお前の射線を見ていたが、あまりに遅すぎる。そんな鈍い腕前で、『百発百中』の称号を背負っているつもりか?」
挑発的な言葉。ホワイトドラゴンの喉が、屈辱に震える。
「……僕を、侮辱するか」
「侮辱ではない。客観的な事実だ。お前はまだ、技術も、そして覚悟も未熟だと言っている」
クリウスアーナの声は、凪いだ海のように冷淡だった。
「その程度の半端な強さで、背負えるほど『仲間』という言葉は軽くはない。重荷に耐えきれず、いつかお前自身が崩壊する……。だから、俺は『仲間ごっこ』と言ったんだ」
その瞬間、ホワイトドラゴンの脳裏に、かつての先輩の言葉が、呪いのように蘇った。
「本当に守りたいものがあるなら、自分という個を捨て、怪物になる覚悟を持て」
ホワイトドラゴンは、銃を握る力を緩め、ゆっくりと腕を降ろした。
悔しさに唇を噛み、銃を持っていない方の拳を、爪が食い込むほど強く握りしめる。
「……未熟、か。勝手に言っていろ。だが、君が隠している『過去』は、必ず僕が暴いてみせる。黒ドラを守るために必要なことなら、なんだってする」
それだけを言い残し、ホワイトドラゴンはクリウスアーナを睨みつけながら、闇の向こうへと去っていった。
一人残された焚き火のそばで、クリウスアーナは小さく、自嘲気味に笑う。
「未熟者ほど、その光の眩しさに焦がれるものか……」
彼が独りごちた言葉は、どこか遠い日の自分を慈しむような、深い寂しさを湛えていた。




