第17章目覚める黒竜、次の旅先はドダバ砂漠地方!!
視界に飛び込んできたのは、無機質な白い天井だった。
ここは——現実の病室だ。
ゆっくりと上体を起こし、ベッドから足を下ろす。床から伝わる冷たさが、先ほどまで見ていた「TTT」の仲間たちとの温かな時間を、残酷なほど遠い過去にあったような感じがする。
その時、ドアが勢いよく開き、白衣を纏った医療員たちが一斉に雪崩れ込んできた。
「……意識が戻ったのか!?」「無理に動かないでください!」
騒然とする中、僕はヨロヨロと立ち上がった。体は鉛のように重いが、不思議と魔能の巡りは悪くない。
一人の医療員に促され、僕は検査を兼ねた別室へと案内された。
用意された椅子に深く腰を下ろし、一つ吐き出した息が白く濁る。
間もなくドアが開き、聞き慣れた、けれど今の僕には何より愛おしく感じる声が響いた。
「黒ドラくん……!」
「黒ドラ!!」
駆け寄ってきたのは、里見さんとホワイトドラゴンだった。
二人の必死な面持ちを見て、僕の胸の奥に、夢の寂しさを埋めるような温かな灯がともる。
「……もう、動いても大丈夫なのか?」
ホワイトドラゴンが、心配を隠すようにぶっきらぼうに尋ねる。
「はい。もう元気です。心配をかけました」
そう答えると、自然と笑みがこぼれた。
「なら良いが……」
と、里見さんが少しだけ表情を引き締め、僕の顔を覗き込んだ。
「目覚めたばかりで酷かもしれないけれど、君が起きたなら話しておきたいことがあるの。……次の旅先について、提案があるわ」
「提案……ですか?」
僕が問い返すと、後ろで控えていた雷帝竜が静かに前へ出た。その存在感だけで、室内の空気がぴりりと引き締まる。
「南にある我らの領地の一部――ドダバ砂漠だ。あそこには、以前君ら二人に渡した巻物と同じ『古竜語』が刻まれた遺跡が点在している。君の失われた記憶……その鍵が、あの砂の下に眠っている可能性がある」
ホワイトドラゴンが、自身の胸ポケットに触れながら頷いた。
「ドダバ砂漠か……。その遺跡で、黒ドラがわかるなら、確かに避けては通れない場所だな。僕は賛成だ」
だが、その提案を鋭い声が遮った。
「私は反対です。」
声の主は、里見さんだった。
「ドダバ砂漠は『死の領域』。日中は鉄をも焼く酷暑、夜は魂まで凍てつく極寒。まともな調査隊すら生還を期せない場所よ。未知の魔物も潜んでいるかもしれない。遺跡なら、もっと安全な場所を他に探すべきだわ」
雷帝竜は、困ったように肩をすくめ、ふぅ……と小さくため息を吐いた。
「里見よ。そういう『人を拒む場所』だからこそ、略奪もされず、真実が手付かずで残っているとは思わないかい?」
僕は、雷帝竜の言葉に不思議な説得力を感じていた。
「……僕も、行ってみたいです。危険なのは分かっています。でも、行かない後悔より、行って確かめる道を選びたい」
里見さんは唇を噛み、しばらく沈黙していた。だが、僕の決意を宿した瞳を見て、諦めたように息を漏らした。
「なら……条件付きよ。少しでも命の危険を感じたら、その場で引き返すこと。別のルートを探すこと。いいわね?」
ホワイトドラゴンが、それを見てニヤリと不敵に笑う。
「その条件、飲もう。安心しろ里見、お前の『心配性』が発動する前に、俺が全部片付けてやるよ」
「……ああ、そうですか。それは頼もしいこと。せいぜい期待させてもらうわ、ホワイトドラゴンさん?」
里見さんの声が一段階低くなり、二人の間に火花が散る。
……気のせいか、ホワイトドラゴンの顔が少し引き攣っているように見えたのは。
旅の準備は、雷帝竜の全面協力により瞬く間に整った。
用意された豪奢な馬車に揺られ、僕たちはドダバ砂漠への入り口となる巨大な関門へと送り届けられた。
門の前で、見送りに来てくれた雷帝竜たちに手を振る。
「いってきます!」
彼らが小さくなるまで手を振り返してくれるのを見届けてから、僕たちは未知なる南へと歩みを進めた。
門を越えると、次第に荒野の茶色が薄れ、視界は一面の深い緑へと変わっていく。
湿り気を帯びた風が吹き、木々が重なり合って森を形成していく。




