第15章爪痕が残る戦場
雷魔竜との死闘から数日が過ぎた。
激戦の舞台となった要塞周辺には、今も巨大なクレーターや焼き切れた大地が、あの日の脅威を生々しく物語る痕跡として残っている。
雷獄苑の市街地。眼帯をつけた銀髪の女性が、ゆっくりと街を歩いていた。
「ラファエル……!!」
聞き馴染みのある声に振り返ると、赤髪の女性――ザグリエルが元気に手を振りながら駆け寄ってきた。
「ザグリエル……。突然姿を消したから心配したんだぞ」
「えへへ、すまない。少し遠くまで吹き飛ばされちまってな。魔能が底をついて、足が動くようになるまで時間がかかったんだ」
ラファエルはジロリと彼女を見つめる。
「……まさか、またあの未完成の『竜化』を使ったんじゃないだろうな?」
「ギクッ……」
図星だった。ザグリエルが冷や汗を流すのを、ラファエルは溜息混じりに制した。
「お前の竜化はまだ不安定だ。一つ間違えば命を落とす。……そんなのは格好良くない。ヒーローなら、生きて皆を笑顔にしてみせろ」
「……うん。わかってる。でも、ラファエルだってその目……無茶したんだろ?」
「それは……」
二人が苦笑いしていると、背後からラミエルが歩み寄ってきた。
「相変わらず仲が良いな、お前たちは」
「ラミエル! 首の調子はどうだ? まだ安静にしていた方が……」
「案ずるな。これくらいの傷、雷帝の名に傷がつく。挫けてなどいられんよ」
強気な言葉とは裏腹に、彼女の首にはまだ深い包帯が巻かれていた。
【雷帝領・医療棟】
白く無機質な病室。ベッドの上では、激戦で心身共に疲弊した僕(黒竜)が深い眠りについていた。
その傍らで、全身を包帯で固めた里見が、ホワイトドラゴンを鋭く睨みつけていた。
「……ねぇ。なんで止めなかったの」
里見の声には、怒りと悲しみが混じっていた。
「あいつが行きたいと言ったから行かせた。それのどこが悪い」
無傷のホワイトドラゴンは、淡々と、どこか突き放すように答える。
「その結果がこれよ! あんたは、横で見ていただけじゃない……!」
里見が彼の腕を強く掴む。その指先には、姉との再会で負った心の傷と、守りきれなかった悔しさが滲んでいた。
「……何か言いなさいよ!」
沈黙が流れる中、松葉杖をついた雷風と、同じく傷だらけの雷蓮が部屋に入ってきた。
「おい、病室で揉めるんじゃない」
雷蓮の制止に、里見は力なく手を離した。ホワイトドラゴンは何も言わぬまま、背を向けて去っていく。里見もまた、拳を強く握りしめたまま、逆の方向へと歩き出した。
仲間たちの間にも、埋めがたい深い溝が刻まれていた。
【次元の狭間】
静寂の空間。
そこには、蝶の羽を持つ少女――超次元竜と、読書に耽る青年、そして厳かな雰囲気を纏う始まりの竜がいた。
「まさか、あの子が『半竜状態』に至るとはね……」
超次元竜が呟くと、始まりの竜が重々しく応じる。
「精神体のみの覚醒とはいえ、あの『兄』が生存していたとは。暗黒大帝竜の計画は、未だ潰えてはいなかったということか」
青年が本をめくる手を止め、冷ややかに言った。
「それよりも、ブラックドラゴン(黒竜)自身の変異が危険だ。」
「わかっている。かつて闇の世界へと変えた大帝の力……それを阻止するために、主は二度も力を使われたのだから」
そこへ、ロビンフッドのような帽子を被った男が、荒々しく踏み込んできた。
「おい! 二度とアイツを危険な目に遭わせないって約束はどうなったんだ!」
怒りに満ちたその声に、青年は小声で「……面倒なのが来たな」と毒づく。
「予想外だったのよ。私たちだって……」
超次元竜の弁明を、男は一蹴した。
「『予想外』で済むか! あの時も、黒竜戦の時もそうだった。またアイツを戦火に放り込む気か?」
始まりの竜が静かに諭す。
「……黒竜の力は元々、暗黒大帝竜のもの。その謎を解けるのはアイツ自身だけだ。かつての仲間として、お前が確かめてきたらどうだ?」
男は一瞬、青年を鋭く睨みつけた後、背を向けて立ち去った。
「……ふん。もしアイツが再び『あの姿』に戻るようなら、俺がこの手で殺してやる」
その背中を見送りながら、超次元竜がポツリと漏らした。
「大丈夫かな……アイツ、本気だよ?」
「安心しろ」と始まりの竜は言った。「あいつは二度と黒竜戦のような悲劇を起こしたくないだけだ。心に深い傷を負い、本当は誰も殺したくないと願っている。……口は悪いが、あいつこそが最後まで黒竜を守り抜く、一番頼れる存在になるだろうさ」




