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ドラゴ・ニック  作者: なんたい生物
序章三部作第三章雷魔襲来
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間話10燃える炎の同士の秘密/黒騎士(ブラック・テンペラー)

雷獄苑(らいごくえん)――とある宿の一室


ザグリエルは、柔らかなベッドの上で意識を取り戻した。

窓から差し込む夕日が、室内を赤く染めている。視線を巡らせると、椅子に座って剣を磨いている女性の姿が目に映った。


「目覚めたようだな」

「ここは……?」

「私が泊まっている宿だ。君を運んでおいたよ」


「……あんたは、あの時魔能を使っていた人間か」

ザグリエルが身体を起こすと、女性は軽く口角を上げた。

「ハハ……。君だって、驚きの二形態竜化を使っていたじゃないか。私の心の中の精霊(せいれい)も、あんな竜は見たことがないと言っていたよ」


「心の中の精霊……?」

「私の内には『精霊竜(せいれいりゅう)』が宿っている。ソドラ大陸にいた竜だ」


ザグリエルは息を呑んだ。

精霊竜(せいれいりゅう)……!? ソドラ大陸の消滅と共に絶滅したはずの種族だぞ。なぜ、そんな存在が人間に宿っている」


「……認められたのさ。かつて黒竜戦(こくりゅうせん)でもたらされた混沌の時代、ソドラ大陸では各地の精霊竜(せいれいりゅう)の力を宿した『英雄アーダー』たちが戦っていた。だが、彼らのほとんどは邪神竜(じゃしんりゅう)に敗れた」

女性――ファードは、遠い空を見つめるように語り始めた。


「私の実家である『焼鳥流(やきとりりゅう)』からも後継者を選ばなければならなかったが、私は候補にすらならなかった。ただの『無能な女』だと蔑まれていたよ。どれほど努力しても、剣の才能は開花しない。山に籠もって孤独に修行を続けたが、村に帰れば嘲笑の的……友一人さえ、私にはいなかった」


「ある日、道場が何者かに襲撃され、全てが燃えた。私が山から駆けつけた時、そこには灰しか残っていなかった。けれど、師匠の遺した書物の中に、精霊竜(せいれいりゅう)ほこらの場所が記されていたんだ。私は必死に辿り着き、精霊竜(せいれいりゅう)と契約した。この大陸にいても、私は強くなれない。そう感じて旅に出たんだ」


ザグリエルは静かに聞いた後、自嘲気味に笑った。

「……なるほどな。あんた、私にそっくりだ」


「似ている?」

「ああ。……秘密にしてくれるなら、私の過去も話してやろう」


ザグリエルは、かつての自分の「無力」を絞り出すように語った。

天竜界(てんりゅうかい)の名家に生まれながら、両腕がなく「粗悪品」として倉庫に閉じ込められていたこと。足で本を読み、感情を殺して過ごしていたこと。家族から邪魔者扱いされ、精神病院に閉じ込められたこと。


「そんな絶望の中にいた私に、光をくれたのがラファエルだった。あいつと話すうちに、私の死んでいた感情が戻ってきたんだ。家族に奪われた私の本を取り返し、イェレミエルと共に私を『7英天竜(しちえいてんりゅう)』に誘ってくれた」


「『腕がなくても、皆を笑顔にするヒーローになれる』――そう言われてな。私はこの義手『メギルアーマー』を手に入れ、地獄のような訓練を乗り越えて今の座に就いたんだ」


ファードは優しく微笑み、ザグリエルの頭を撫でた。

「いい仲間に恵まれたな。……我慢しなくていい。泣きたい時は泣け」

ザグリエルの目から、大粒の涙が溢れ出した。強くあろうとする「灼熱の天竜(しゃくねつのてんりゅう)」ではなく、一人の少女として。


雷獄苑の郊外――


雷魔竜が絶命した戦場を、ブラックドラゴンが冷ややかに見下ろしていた。そこへ、白と金が混じったフードを纏い、鳥のような仮面で目元を隠し、キャプリーヌを被った女性が歩み寄る


「戦いは終わった。……何しに来た、ラズグジエル」

「ラミエルちゃんと、ラファエルちゃんに……久しぶりに会いに行こうと思っただけだよ……」

フードの奥から覗く緑色の短い髪。それは、かつて戦死したはずの二人の親友、ラズグジエルその人だった。


「会っても驚かれるだけだ。お前は『死んだこと』になっているんだからな」

影の中から、黄色い髪の女性――里季りきが現れる。

「無駄ですよ。今のあなたは、私たちの駒に過ぎない……」


そこへルシフェルとラグナロクも合流した。

「ラグナロク、君、さっき彼女の友人を殺そうとしていましたよね?」

ルシフェルが笑いながら言うと、ラグナロクは忌々しげに舌打ちをした。

「ちぃ……あいつが勝手に割り込んできただけだ」


「次やったら、首を飛ばすよ」

ラズグジエルが、白金の盾から静かに剣を抜き、ラグナロクの喉元に突きつける。その瞳には、以前のような優しさはなく、昏い魔能が渦巻いていた。


「やめなよ、ラズグジエル。騎士たちに見つかれば面倒だ」

ブラックドラゴンの言葉に従い、彼女は無機質に剣を収めた。


「お前らはいいよな。一人は不死身、一人は無敵だからな。」

ラグナロクが捨て台詞を吐いて影に消え、ルシフェルと里季もそれに続いた。


ラズグジエルは最後にもう一度だけ、親友たちがいる街の方角を振り返った。

「……会っても無駄なんて、わからないよ」

その呟きは、誰に届くこともなく、夜の闇に吸い込まれていった。

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