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ドラゴ・ニック  作者: なんたい生物
序章三部作第三章雷魔襲来
23/60

間話9花咲く二人

――次元No.2

タルタニア大陸 竜帝歴(りゅうていれき)20年

炎帝竜領(えんていりょう)

パーリック地方・安義あぎの里――


夕暮れに染まる河辺の草原。風に揺れる草むらの中で、一人の少女が膝をついて泣いていた。そんな妹を、黄色い髪をツインテールに結った姉・里季りきが、厳しくも優しい目で見つめている。


「怖がりなくせに、なんであんな深い森に行ったんだ? おじいちゃんからも、あそこには近づくなって言われてただろ」


妹の里見さとみは、しゃくり上げながら必死に答える。

「……だってお姉ちゃんを、喜ばせたかったんだもん。誕生日のプレゼントに……あの森には世界で一番綺麗な花があるって聞いて……持って帰りたかったの」


泥のついた手で涙を拭う妹を見て、里季(さとき)の表情がふっと和らいだ。

「そうか。……でもな、お姉ちゃんはプレゼントをもらうより、妹がいなくなる方が何倍も悲しい。そんな誕生日、喜べると思うか?」

「う、うん……ごめんなさい……」


「お前がいなくなったら、おじいちゃんだって、里のみんなだって泣くんだ。大切な人を失う痛みを知らないままなのは、お前だって嫌だろ?」

「嫌だ……! お姉ちゃんがいなくなるなんて絶対嫌! ……だから、もう一生あの森には行かない」


里季は「よし」と笑い、里見の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「それでこそ私の妹だ。ほら、これでも食べて元気出せ」

差し出されたのは、竹の皮に包まれた真っ白な塩むすびだった。


「食べる……! お姉ちゃんのおむすび、大好き!」

「ははっ、いい食いっぷりだ。おむすびはな、誰かと誰かの縁を結ぶから『おむすび』って言うんだよ。絆が多いほど人は強くなれる。……里見、お前もたくさんの絆を結んで、強くなりな」

「うん、わかった!」


翌日――未明。


太陽の昇らない暗い空の下、安義の里は地獄の炎に包まれていた。

昨日まで笑い声が響いていた屋敷は崩れ、里見は泣きながら、狂ったように家族の姿を探していた。


「お姉ちゃん……!? おじいちゃん……っ!」


倒れた襖の影に、獣に引き裂かれ、血だらけで動かなくなった使用人の姿が見えた。恐怖に足がすくむ里見の背後から、漆黒の鎧を纏った二足歩行の狼――死神帝国の兵が爪を振り上げる。


「魔能・琴木犀こもくせい!」


鋭い旋風が巻き起こり、化け物の頭部を里季の蹴りが粉砕した。

「大丈夫か、里見!」

差し伸べられた姉の手を、里見は縋るように掴み取る。


「お姉ちゃん……何が起きてるの?」

「わからない……突然、死神帝国が攻めてきた。とにかく逃げるよ!」


脱出を試みる二人の前に、深手を負った門下生たちが合流する。

「里見様! 里季様! ご無事でしたか!」

「私たちはいい! これで屋敷の者は全員か!?」

「ハッ……ですが、里野さとの大師範が行方不明に……」


里見の手が、絶望で冷たく震える。

「おじいちゃんが……」

「大丈夫だよ、里見。おじいちゃんがどれほど強いか知ってるでしょ? あの人は、こんなところじゃ死なない」

里季は妹を安心させるように、強くその手を握った。


元家(もとけ)が関わっているのか、安和あわの里も襲撃を受けている。……とにかく、私たちは生き延びなければならない。里家さとけの血を絶やさないこと。それが最大の反撃だ!」


炎の粉が舞い、悲鳴と怒号が飛び交う中、姉妹は駆け抜けた。昨日までの美しい草原は、いまや骸が転がる地獄絵図と化していた。

そして、脱出の門を目前にした時。

空から降ってきた「棘付きの鉄球」が、石畳を激しく砕いた。


紫と赤が混じった髪をなびかせた、冷酷な女が立ち塞がる。

「……逃がさないわ。その首、献上してもらうわよ」


里季は即座に状況を悟った。このままでは全滅する。

彼女は、繋いでいた里見の手をゆっくりと離した。


「里見、生き延びなさい。お前はきっと、私よりずっと凄い武芸者になれる」

「お姉ちゃん……? 何を言ってるの、一緒について来てよ!」


「また、私のおむすびを食べさせてあげるから。……私はあいつを足止めする。安心して、すぐに追いつくわ。だからね、約束だよ。私の代わりに、たくさんの絆を結びなさい」


最後に一度だけ、優しく妹の頭を撫でると、里季は振り返らずに敵へと踏み込んだ。


「あとは任せた! 私の妹を、頼んだぞ!!」


「里見様、行きましょう!」

泣き叫び、暴れる里見を屋敷の者たちが抱え上げ、炎の向こうへと消えていく。

それが、里見が見た「姉の最後の笑顔」だった

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