間話7孤独の鏡姫Ⅰ 友達はなぜ作れないのか?
北門へと戻ってきたプラナスは、周囲に誰もいないことを確認すると、顔の一部となっていた眼鏡を無造作に外し、懐へしまい込んだ。その瞳からは、先ほどまでの理知的な輝きが消え、冷酷な獣のような光が宿っている。
彼女が向かったのは、湿った風にさらされる古びた小屋だった。
ガタガタと音を立てるドアを開け、埃の舞う室内へ入る。雑然と積み上げられたガラクタの奥に、一つの「鏡」が鎮座していた。
「おや、パトラさん……」
鏡の表面が波打ち、そこから一人の女性――パトラの姿が浮かび上がる。
「やぁ、ルポちゃん。どうだった? 私が変装させてあげたあの女性とは、お友達になれたかな?」
鏡の中から、パトラの不気味な笑みが薄く透けて見える。
「なれるわけないじゃん……。あんな女、怖がって私を倒そうとしたわ。だから――手で握り潰したあと、噛み殺してあげた」
ルポと呼ばれた彼女は、吐き捨てるように言った。
「そうか、そうか。残念だったねぇ。……そろそろ、私が君の友達になってあげてもいいんだよ?」
「何回も言ってるでしょ……。あんたは『友達』じゃない。ただの『命の恩人』だって」
ルポの冷たい拒絶に、パトラは肩をすくめて笑う。
「つれないね。……そうだ、報告だよ。そろそろ、私たちのお仲間である『死神12騎士』たちがこの地に到着するらしい」
「……そう」
ルポの返答は短く、興味なさげだった。
「どうしたの? 何か悩み事でも?」
「いや……。あんたのこの変装、そろそろバレてるんじゃないかって思っただけよ」
「バレないって。安心しなよ。……お前に本当の友達ができるまで、私はしっかり見届けてあげるからね。きっと、ゴースネもそう思っているはずだよ」
「……友達なんか、一生できないわ」
「冷たいことを言うねぇ。本当は欲しくてたまらないくせに、一匹狼にでもなる気かい?」
「……それ以上言ったら、あんたも殺すわよ?」
「おっと、怖い怖い。冗談だよ(本当は、そんなことできないくせにね)」
パトラが含みのある笑みを浮かべると、鏡の中に映っていたルポの姿が、霧のように消えていった。
「さあて、おいで……ゴースネ」
小屋の影から、禍々しく輝く金色の巨大なコブラ――ゴースネが這い出してきた。その口元には、つい先ほどまで生きていたであろう騎士の残骸がぶら下がっている。噛み潰された鎧の隙間から、ドロリとした液体と血が混ざり合って溢れ出していた。
「よくやったねぇ、いい子だ。あとでたっぷりと、大好物の『金』を食べさせてあげるよ。……主人の話を盗み聞きしようなんて、悪い騎士を片付けてくれて偉いね」
パトラはゴースネの鎌首のあたりを、愛おしそうに撫でる。
ゴースネは主人に甘えるように、血に汚れた頭を擦り寄せ、満足げな声を漏らした。
暗い小屋の中に、金色の鱗と死臭だけが充満していく。




