第11章迫る脅威
――雷帝領
雷獄苑
雷帝竜の館――
僕らはプラナスさんの案内に従い、馬車を降りて重厚な石造りの館へと足を踏み入れた。廊下に響く足音が、これから始まる事態の重さを物語っているようだった。
一つの大きな扉の前で、プラナスさんが足を止め、静かにノックをする。
「北門警備団長プラナスです。7英天竜のお二人とそのお仲間を連れて参りました。入室の許可を」
「……入れ」
低く、通る声が響く。
扉が開かれると、広々とした執務室の真ん中に、一人の女性が座っていた。
金髪の美しいたてがみのような髪。その前髪の先は二本だけ、夜のように深い黒色へと伸びている。そして何より目を引いたのは、彼女の首に痛々しく巻かれた白い包帯だった。
「よくぞ来てくれた、7英天竜。……ラファエル、息災だったか」
「ラミエルも。元気そうで何よりだ。首の調子はどうだい?」
ラミエルと呼ばれた雷帝竜は、少しだけ顔を歪めて首をさすった。
「だいぶ良い。だが、包帯を外せないのは退屈だし、動かすとまだ少し響くよ」
「そうか……」
二人は信頼を確かめ合うように、軽く拳を合わせた。その様子を見ていたザグリエルが、不思議そうに首を傾げる。
「お話し中すまないが、ラファエルと雷帝竜は知り合いなのか?」
「ああ。学園時代からの友人だ」
ラファエルの言葉を引き継ぐように、ラミエルも遠い目をしながら頷いた。
「そうだ……昔は『三人』で、バカみたいに楽しくやっていたよ」
「……もう一人は今、何をしているんだ?」
ザグリエルの無邪気な問いに、場が凍りついた。ラファエルとラミエルは同時に視線を落とし、絞り出すような声で言った。
「死んだよ」
「あの戦いは……一生忘れられない、地獄のような出来事だった」
暗い影が二人の顔を覆う。ザグリエルは慌てて手を振った。
「あ、ああ……悪い。変なことを聞いてしまったな。忘れてくれ、二人の古傷を抉るつもりはなかったんだ」
「気にしてくれてありがとう、ザグリエル。……さて、本題に入ろうか」
ラミエルが表情を切り替えると、プラナスが横に立ち、戦況を報告し始めた。
「雷魔竜が復活した理由については、既にお伝えした通りです。現在、雷魔竜はここ雷獄苑を目指して進行中。遅くとも一週間以内、早ければ明後日にも到着する見込みです。復活直後に先遣隊を送りましたが……結果は全滅でした」
里見さんが表情を険しくする。
「全滅……かなりまずい状況ですね」
「ああ」とラミエルが応じる。「また同じように軍を送り込んでも、被害が拡大するだけだろう?」
「わかっている。同じ過ちを繰り返すほど、私は愚かではないよ。別の作戦を用意している」
ラミエルは机の上に広大な地図を広げ、二色のコマを置いた。
「黄色いコマが雷魔竜。白いコマが我らだ。報告によると、雷魔竜は異常に発達した『嗅覚』で獲物を追っている」
「……ということは、目が見えていないんですか?」
僕の問いに、ラミエルは鋭い視線を向けた。
「いや、目は見えているようだが、極端に視力が低いらしい。その分、匂いには敏感だ」
ラミエルは白いコマを地図の端へと動かした。
「作戦を説明する。雷獄苑とは別の方向に、囮となる巨大な要塞を築いた。そこに私たちが『匂い』を放つ罠を仕掛け、雷魔竜を引き寄せる。包囲網で動きを止め、一気に叩く。だが……」
ラミエルはそこに、漆黒のコマを置いた。
「『死神帝国』の連中が、間違いなく邪魔をしてくるだろう」
ザグリエルが拳を鳴らす。
「で、私たちは何をすればいい? 暴れる死神帝国たちを蹴散らせばいいのか?」
「……ザグリエル、君たちは要塞へ向かってくれ。だが、ラファエルだけは別に動いてもらう」
「……? 私一人だけ別行動か?」
ラミエルはラファエルに近づくと、その耳元で誰にも聞こえないほどの小さな声で、何かを囁いた。
「……なるほど。理由は後で聞かせてもらうが、了解した」
ラファエルの顔に、何とも言えない複雑な色が混じる。
「本当は今すぐにでも動き出したいところだが……あいにく準備が整うのは明日だ」
「明日? なぜだ、一刻を争う事態だろう」
ザグリエルの詰め寄りに、ラミエルは静かに首を振った。
「焦って準備不足のまま動くことこそ、国を滅ぼす。……今日は客室でゆっくり休んでくれ。プラナス、案内を」
「了解いたしました、雷帝竜様。……皆様、こちらへ」
プラナスさんに導かれ、僕らは客室へと案内された。
各自の部屋に入り、扉を閉める。
ふかふかのベッド。
窓の外で鳴り響く遠雷の音が、嵐の前の静けさをより一層、強調しているようだった。




