第10章決意といざ、ガーグリア地方へ!!
氷魔竜との死闘を終えた僕らは、魔能研究都市「スッケオ」にある宿で束の間の休息を取っていた。
里見さんは深手を負っており、傷が癒えるまで安静が必要だ。その間、僕はホワイトドラゴンさんと共に、僕の過去を知る人物がいないか街を回ることにした。
スッケオは「水帝苑」の研究・開発一部をしている所で、都市ごとに研究分野が分かれているらしく、ここでは「魔能」そのものの研究がメインに行われているという。
活気ある商業街を抜けると、静かな居住区。そのさらに奥、高くそびえ立つ重厚な門の先は「研究区一」と呼ばれる関係者以外立ち入り禁止のエリアだ。
ホワイトドラゴンさんは昔この街に住んでいたらしい。懐かしそうに目を細めることもあれば、情報収集のたびに「やはり手掛かりなしか……」と、どこかモヤモヤとした曇った表情を見せていた。
そんな滞在期間中、ある出来事が起きた。
ホワイトドラゴンさんの知り合いの息子だという姉弟から「森の洞窟に棲む冬獣ライオラルに攫われた母を取り返してほしい」と頼まれたのだ。
激戦の末、僕らはライオラルを撃破して、その子供たちの所に報告しに戻ろうとした。
洞窟の入り口、戦いの興奮が冷めやらぬ中で、ホワイトドラゴンさんが顔を真っ赤にして切り出した。
「……あの、俺を、君たちの正式な『仲間』になりたいんだ」
意外な言葉に、僕は思わず笑顔で返した。
「えっ? もう仲間じゃないんですか? 氷魔竜の時も、今のライオラルの戦いだって、僕らがピンチになったら真っ先に助けてくれた。僕にとっては、もう立派な仲間ですよ」
「そう……か。俺たちは、もう仲間だったのか」
ホワイトドラゴンさんの顔はさらに赤くなったけれど、ずっと彼の顔を覆っていたモヤモヤとした霧が、晴れたように消えていくのが分かった。
宿の酒場でその話をすると、里見さんは「ふふっ」と楽しそうに微笑んだ。その目はどこか「ニヤニヤ」と二人を冷やかしているようにも見えて、ホワイトドラゴンさんは気まずそうに、僕や里見さんから視線を外してはチラチラとこちらを窺っていた。
ライオラルとの激戦で僕とホワイトドラゴンさんはあちこちに擦り傷を作ったけれど、幸い大きな怪我はなかった。
一週間が過ぎ、里見さんの体調も万全になったところで、僕らは次の目的地を決めた。ホワイトドラゴンさんの提案で、雷帝竜が治める「ガーグリア地方」だ。
ここから徒歩で13日。
野宿を繰り返しながら歩みを進めるにつれ、風景は一変していった。豊かな草木は姿を消し、立ち枯れた木々が不気味に指を突き出す、荒れ果てた大地。
「ここが、ガーグリア地方……」
重苦しい空気の先、巨大な木の門と柵が見えてきた。
「止まれ! 現在、雷帝領は国境封鎖中だ。さっさと帰れ!」
ハルバードや槍を構えた重装騎士たちが、追い払うように手を振る。
その様子を、近くの巨木の陰から伺う二人の影があった。
「行くぞ……」
短く告げたのは、髪をなびかせた銀髪の女性、ラファエル。
「えっ、でも……入っちゃダメなんじゃ……」
オレンジ髪の少女、ザグリエルが不安げに眉を下げる。
「ザグリエル。ヒーローはピンチの人がいたら助ける。そして、この土地を守る。それが『7英天竜』の誇りでしょ?」
「うん……うん!!」
ザグリエルはパッと顔を輝かせ、キラキラした瞳で力強く頷いた。
「いいぜ! さあ、人助けに行こうよ、ラファエル!」
一方の僕らは、騎士たちの頑なな態度に困り果てていた。
「どういうことですか? なぜ封鎖を……」
ホワイトドラゴンさんの問いかけにも、騎士たちは武器を向けたまま吐き捨てる。
「旅人に教える価値はないと言ったはずだ。命が惜しければ失せろ!」
諦めて引き返そうとしたその時。
背後から凛とした声が響いた。
「こいつらは私の連れだ。この土地で何が起きているか知りたい」
現れたのは先ほどのラファエルとザグリエルだ。彼女たちが突き出したプラチナ色のメダル――8人の騎士が刻まれたその紋章を見た瞬間、ホワイトドラゴンさんが息を呑んだ。
「あれは……まさか……」
騎士たちの顔が瞬時に青ざめる。
「なっ、し、失礼いたしました! 早く警備団長を呼べ! 馬車の用意だ!!」
数分後、門の奥から眼鏡をかけた知的な女性が駆け寄ってきた。
「雷帝領北門警備団長、プラナスです。……まさか、伝説の『7英天竜』が直々に来られるとは」
里見さんも驚愕の表情を浮かべている。僕にはまだピンとこなかったけれど、用意された馬車に揺られながら、里見さんが小声で教えてくれた。
「あのね……あそこにいる二人は『7英天竜』。全大陸の秩序を守る天竜種の中でも、頂点に君臨する8人の英雄のことだよ」
馬車の中、プラナス警備団長が重い口を開いた。
「7英天竜様、よくぞ来てくださいました。……実は、北にある祠に封印されていた『雷魔竜』が復活したのです」
「復活させたのは、死神帝国の『氷滅竜アイスドラゴン』……」
雷魔竜。その名を聞いた時、頭の片隅で古い記憶が疼いた。
「アイスドラゴンの異名は『国滅』。その名の通り、いくつもの国を滅ぼしてきた。謎多き男です。背後には死神帝国の巨大な影があるに違いありません」
その名を聞いた瞬間、ホワイトドラゴンさんが拳を血が滲むほど強く握りしめた。その肩の震えに気づき、僕はそっと彼の手を包み込んだ。
「大丈夫です、ホワイトドラゴンさん。アイスドラゴンとはいつか決着をつけられます。その時は僕らも一緒に戦います。だから……僕らを信じてください」
「……そうだな。すまない」
ホワイトドラゴンさんの拳がゆっくりと解け、僕の頭を優しく撫でてくれた




