第9章最恐魔竜の復活
―次元No.2
タルタニア大陸
竜帝歴37年
雷帝領・ガーリグリア地方―
そこは、常に不穏な紫電が空を駆け、草木も生えぬ荒野が広がる不毛の地。
その最果てに、かつてこの土地を震撼させた災厄を封じ込めた「雷魔の祠」はあった。
「……やれやれ。ホワイトドラゴンの奴、いつになったら俺の手が届くところまで強くなるんだから」
溜息をつきながら、一人の男が祠の門をくぐる。水色の髪を揺らし、無造作に歩を進めるその姿には、一切の迷いも警戒心もなかった。
「止まれ! この先は雷帝竜様より賜りし禁域。立ち入りは厳禁だ!」
槍を構え、鮮やかな黄色いマントを翻した雷帝騎士たちが男を取り囲む。だが、男は足を止めることなく、ただ面倒そうに頭をかいた。
「ああ、めんどくせえ……。退いてくれって言ったところで、お前ら退きゃしないだろ? 任務に失敗して手ぶらで帰れば、待ってるのは死だけだ。……なら、答えは一つだよな」
男が懐から二丁の銃を抜き放つ。
「ここで、全員殺す。……恨むなら、自分の弱さを恨め」
乾いた銃声が荒野に響き渡る。
魔能を帯びた弾丸は、強固な鎧すら紙屑のように貫き、静寂だった祠は瞬く間に悲鳴と血の海へと変わっていった。
――1時間後――
雷帝領 首都・雷獄苑
荘厳なる館の一室。
重厚な黒檀の扉が、静かに、かつ規律正しくノックされた。
「雷帝騎士団団長、雷蓮です」
「同じく副団長、雷風です」
「……緊急の報告につき、入室の許可を」
「入れ」
短く、重みのある声が室内から響く。
金髪の兄妹――団長と副団長が、一分の隙もない動作で部屋へと入った。
部屋の主である雷帝竜の前に膝をつき、兄である雷蓮が苦渋に満ちた表情で口を開く。
「雷帝竜様……。先刻、ガーリグリアの祠が襲撃されました。犯人は死神帝国所属――“国滅”の二つ名を持つ氷滅竜、アイスドラゴン。奴の手により、封印されていた『雷魔竜』が復活しました。祠を守護していた騎士団も、生存者はごく僅か……」
部屋の空気が一瞬で氷点下まで下がり、直後、激しい電熱が空間を震わせた。
雷帝竜が、静かに椅子から立ち上がる。
「……死神帝国の犬が、我が領土で牙を剥いたか。……看過できぬ事態だ」
その瞳には、荒れ狂う雷光が宿っていた。
「討伐隊の編成を即刻許可する。全軍に通達せよ。雷帝竜領域への入国を全面禁止し、一刻も早くこの事態を収束させよ。……仇なす者は、我らの力によって塵一つ残さず滅ぼす」
「「はっ!! 承知いたしました、雷帝竜様!!」」
兄妹の力強い返答と共に、雷帝領全体が、かつてない戦乱の予感に包まれていった。




